「無断キャンセル」より深刻でタチが悪い…ベテラン医師(62)が明かす「診察したくない迷惑患者」の三大特徴
※本稿は、松永正訓『患者の前で医者が考えていること』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■予防接種の予約をすっぽかす患者
編集者から、「診療したくないような迷惑患者っていますか」と質問を受けました。私はつねづね患者さんを診るのが医者の仕事と言っていますので、「診たくない患者というのはいません」と返事をしました。
しかしよくよく考えてみると、いないこともありません。それは要するに、私が診療したいと思っているのに、それをさせてくれない患者さんです。どういうことでしょうか。
まず約束を破る患者さんです。私のクリニックは、一般診療に関しては予約制にしていませんが、予防接種と健診の時間帯だけは2カ月前から予約をとっています。
予防接種というのは、私のクリニックがある千葉市から委託を受けて実施しているものです。市に必要な注射薬を申し込んで冷蔵庫で保管して準備をしておくのです。急に来られても注射薬がなかったら予防接種はできません。
うちは、大行列ができるクリニックというほどの人気ではありませんが、それでも2カ月前にたちまち予約の枠は埋まります。私としては、限られた時間の中、少しでも多くの子どもに予防接種や健診を行ないたいと最大限の努力をしています。
また、秋になると、土曜日の午後を使ってインフルエンザワクチンを大勢の方に接種します。毎年700人の枠を作って予約を受け付けるのですが、予約開始日の朝一番には予約枠がいっぱいになってしまいます。10年くらい前は私もまだ体力があり、この枠は1000人くらいだったのですが、現在では700人が精一杯です。これでもベストを尽くしているのでご容赦ください。
■ワクチンも予約枠も無駄になる
でもね……、約束を破る人がいるんですね。単に忘れただけかもしれませんが、ワクチンを予約した方には予約時刻の前にお知らせメールが届くシステムになっています。それでも、無断キャンセルをする人がいます。キャンセルをするんだったら言ってください。ほかの人にその枠を譲りますから。
土曜日の午後のインフルエンザワクチン接種には、60人以上の患者さんが来ます。多数の人が一度に訪れますので、あらかじめワクチンを直前溶解して患者さんを待っています。ですので、ドタキャンされるとワクチンを捨てることになります。
うちのクリニックの被害は我慢できますが、そのために接種の機会を逃した方がいると思うと、非常にやるせない気持ちになります。
■予診票はできるだけ家で書いてきてほしい
ルールを守るというのは、医者と患者さんの関係だけの問題ではなく、人と人との関係の基本ではないでしょうか。ワクチンの予診票もあらかじめ自宅で記入してくださいと、電話で確実に説明しています。ところがそういう約束を破る人がいます。クリニックに来てから予診票を埋めていくと時間がどんどん経過して、決まった時間帯にワクチン接種を済ませることができなくなります。
自宅で予診票を埋めてくることができない人には、それなりの言い分があるのかもしれません。しかし、電話で予約を取ってから、当日来院するまでにかなりの日数があるのですから、その言い分は私にはちょっと想像ができません。開業医でワクチンを打つということ自体を軽く見ているのかもしれませんね。そうであれば残念です。
■子どもに予防接種を一切打たない親は迷惑
また、自分の子どもに一切、予防接種を打たない人もいます。うちのクリニックにも数人います。はっきり言って迷惑です。もちろん、診療を求めてくれば、拒否はしません。でも麻疹ウイルスなどをクリニックの中に持ち込んだら、どうやって責任をとってくれるのでしょうか。とれませんよね?
4種混合ワクチンをまったく打っていない子が盛んに咳をするので、うちを受診して「百日咳ではないでしょうか?」と聞いてきたこともあります。え? 罹ってもいいと思ってワクチンを打っていないのでは? だったら最初からワクチンを打てばいいのではないでしょうか。
私は以前、保健福祉センターの人に「自分の子どもに予防接種を打たないって、医療ネグレクトとして児童相談所に相談できないんですか」と尋ねたことがあります。現状ではできないそうです。というか、していないそうです。しかし、いつか医療ネグレクトと考えられるようになるかもしれません。ワクチンで防げる病気の中には命に関わるものが多数あります。
それほど、小児医療では予防接種は大事な問題なのです。
■標準治療を妨げるほどの民間療法信者
そして最大の迷惑患者といえば、民間療法に頼り、標準治療を受けてくれない患者さんです。これはクリニックではあまりないことですが、私が大学病院で働いていたときにはときどきありました。
私は民間療法をやってはいけないという立場ではありません。構いません。ただし、標準治療の妨げにならない範囲においてです。
患者さんが民間療法に走る理由は二つあると思います。一つは、治療経過が芳しくなくて、それこそ「藁をも掴(つか)む」思いで民間療法に手を出すパターン。もう一つは、現代医療・西洋医療に漠たる不信感があって、民間療法が現代医学に取って代わるような効果をあげるのではないかという期待を持ってしまうというパターン。
民間療法が効くと主張する人は、必ずと言っていいほど陰謀論を持ち出します。「民間療法が効くと分かったら製薬会社が困る。だから効かないことにしている」と。
だったら、製薬会社の社長さんは、がんになったら抗がん剤治療など受けずに、民間療法に走るはずです。そんな人、いますか?
民間療法に効果があれば、医者は学会で発表しますよね。そして超一流の医学雑誌に論文が掲載されて、その人のキャリアアップになります。治療の大転換が起きれば、ノーベル賞を受賞できるかもしれません。でも、誰もそんな発表をしません。エビデンス(科学的根拠)がないからです。
現代医学・科学の粋を集めた診断技術でがんの診断をつけておきながら、そこから先は民間療法に頼るというのは、私にはタチの悪い喜劇にしか見えません。
■「小児がん」のわが子を「光」で治そうとする親
小児がんの中に神経芽腫という病気があります。副腎などから発生する小児がんで、通常、病気が見つかるときには、全身の骨にがんが転移しています。私が医者になった頃、骨に転移していると100%患者さんは亡くなっていました。その後、抗がん剤を複数組み合わせることで、30〜40%くらいの患者さんが治るようになりました。現在では、造血幹細胞移植(骨髄移植のようなもの)や抗体療法を併用することで、40〜50%くらいの治癒率になっています。
いずれにしても大変に予後が悪く、治癒に導くためには1年以上に及ぶ大量の抗がん剤治療が必要です。その治療はとても過酷で、医療サイドも患者家族も必死になって闘わなければならない難病です。
私は、この神経芽腫の子どもの治療をしようとしたとき、拒否された経験があります。親は「自宅に連れて帰る」と言うのです。理由を尋ねたら、信頼している民間の先生(?)が、光を当てて治してくれるそうです。「光って手をかざすんですか」と重ねて聞くと、そうではなく、器械から光線が出て何でも治るとのことでした。
■医療を潤滑に行わせてほしい
この保護者は夫婦で意見が異なり、最終的には私の治療を受けてくれました。しかし、民間療法に頼って標準治療を受けようとしないという態度は、私の医療を妨害しているようにしか見えません。はっきり言って迷惑でした。
繰り返しになりますが、治療の邪魔にならなければ民間療法は構いません。私が大学病院で長く診ていた小児がんの子は、プロポリスを飲んでいました。プロポリスとは……ええと、検索して調べてください。で、プロポリスを飲むと、血小板輸血の回数が減ると保護者が言っていました。たまたま切らしてしまった時期には、輸血が増えたそうです。それって偶然だと思いますが、私はそうした民間療法を禁止したりはしません。
本当にごく一部ですが、医療を潤滑に行なわせてくれない患者さんは迷惑患者と言わなければなりません。
積極的にそういう患者さんを診たいかと聞かれれば、かなり答えに窮します。
・小児医療にとって、子どもに予防接種を打たない人ははっきり言って迷惑
・科学的根拠のない民間療法は、あくまで標準医療の妨げにならない程度に
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松永 正訓(まつなが・ただし)
医師
1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰など受賞歴多数。2006年より、「松永クリニック小児科・小児外科」院長。13年、『運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』(小学館)で第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。19年、『発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年』(中央公論新社)で第8回日本医学ジャーナリスト協会賞・大賞を受賞。著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『呼吸器の子』(現代書館)、『いのちは輝く わが子の障害を受け入れるとき』(中央公論新社)、『どんじり医』(CCCメディアハウス)などがある。
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(医師 松永 正訓)