Photo: Danail Obreschkow/International Space Centre
西オーストラリア大学に設置された光地上局

西オーストラリアでレーザーによる光通信の実証実験が行なわれ、ジープに搭載された地上局が、ドイツの人工衛星からのレーザー光の受信に成功しました。宇宙‐地球間通信の高速化に向けて大きな前進です。

西オーストラリア大学による研究

西オーストラリア大学(UWA)が開発したTeraNetとは光地上局のネットワークで、固定の地上局2基と、カスタマイズされた1台のジープ・トラックという移動地上局で構成されています。

地球低軌道上にある衛星に搭載された光通信機器OSIRISv1からの信号を、トラックを含む2基のTeraNet地上局が捉えたのでした。

今回の実証実験はUWAの研究チームが率いており、TeraNetは地球低軌道と月との間のさまざまな宇宙ミッションの通信をサポートすることになっています。

次世代の宇宙通信技術

1957年に世界初の人工衛星が宇宙空間に打ち上げられて以来、各国の宇宙機関は地球の地上局との通信には電波を利用してきました。今まではそれでうまくいっていましたが、地球の軌道上が衛星でさらに混雑し、データの需要が増え続けるにつれて、宇宙からの通信にボトルネックが生じています。

そんな問題の解消に役立つのがレーザーを使った光通信です。このタイプの通信システムはレーザーの光波の振動にデータを詰め込みます。人の眼には見えない赤外線レーザーを通して受信装置へ運ばれる光信号にメッセージをエンコードするのです。

電波と比べると、近赤外線のほうが遥かに短い波長にデータを詰め込めるので、より多くのデータを送受信できるようになります。

NASAも実証実験中

NASAもこの技術の実験をしており、改良するため信号の送受信を行なっています。2023年11月には、深宇宙光通信(DSOC)の実証実験を実施。約1000万マイル(1600万km)離れた深宇宙から、データをエンコードした近赤外線レーザーを、加州サンディエゴ郡のカリフォルニア工科大学が所有するパロマー天文台のヘール望遠鏡へと送りました。

同年12月には、小惑星探査機サイキに搭載されているDSOCのレーザー送受信装置から、テイターズ(Taters)という名前の茶トラ猫がソファーの上でレーザーポインターを追いかける15秒間の動画を配信しています。

NASAによると、DSOCは現在の深宇宙ミッションで使われている現行の電波信号のシステムよりも10〜100倍高速な深宇宙からのデータ伝送の実証を目指しているとのこと。

民間の宇宙産業も参入しています。インドのマハーラーシュトラ州にある市場調査会社Straits Research(ストレーツリサーチ)社は、2022年には11億3000万ドル規模だった宇宙レーザー通信市場が2031年までに4倍弱になると予測しています。

光通信の短所をカバーしたい

レーザー光を向けるには極めて高い精度が求められるため、距離が長くなるほど扱いにくくなります。また雲や雨が信号に干渉するので、天候もレーザー通信にとって課題となります。

TeraNetのチームは、この天候の問題を克服するため西オーストラリアに分散する地上局のネットワークを構築し、衛星が最も晴れた空の下にある局にデータを送れるようにしました。今回の実証実験で使われたトラックは、目的地に運転していって到着後15分以内に信号を捉えることができるとか。

UWAいわく、この実験が宇宙‐地球間で1000倍の通信速度のための道を開くとのこと。

チームを指導したUWAのSascha Schediwy准教授は、大学のリリースにこんなコメントを寄せています。

「この実証実験は、西オーストラリア全域にわたる次世代の宇宙通信ネットワークを築き上げるうえで重要な第一歩です。

次のステップには、このネットワークを現在オーストラリア及び世界各地で開発されている他の光地上局につなげることも含まれます」

Source: Straits Research, NASA, The University of Western Australia,