目を近づけて物を見ると、近視のリスクが高まる

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 日本人の多くが「近視」に該当し、特に子どもは近視になりやすいといわれています。「以前よりも遠くのものが見えにくくなった」「子どもが学校の視力検査で視力低下を指摘された」といった場合は、できるだけ早めに眼科を受診する必要があります。

 そもそも、近視になるのはなぜなのでしょうか。近視を放置すると、どのようなリスクがあるのでしょうか。近視になる原因や治療法などについて、いわみ眼科(兵庫県芦屋市)理事長で眼科医の岩見久司さんに聞きました。

「屋外活動の減少」も近視の原因に

Q.そもそも、近視とはどのような状態を指すのでしょうか。また、視力検査で近視に関する基準はありますか。

岩見さん「近視とは、目の焦点が手前に移動していることで、遠くが見えない状態を指します。基本的には、眼球が前後に伸びて変形することによって生じます。定義では、目の焦点が2メートル(屈折値−0.5D)より手前にある人が近視に該当します。

視力検査は、視力表から5メートルほど離れた場所から行うのが一般的です。近視に関する視力検査の数字上の基準はありませんが、近視の人の場合、視力1.0以上の数値が出ることはありません」

Q.どのような人が近視になりやすいのでしょうか。

岩見さん「『近視=眼球の前後の伸び』は、小児期にほとんど完成します。すなわち、近視が進むのは子どものときです。近視の進行には遺伝のほか、『近くを見過ぎること』『屋外活動の減少』などの生活習慣が関連しています。

大人で遠くのものが見にくくなった場合、近くを見過ぎることで、ピントを調節する毛様体筋が固まる、いわゆる『調節緊張』が原因のケースが多いです。健康診断で視力低下を指摘されたり、日常生活で何らかの症状が生じたりする場合は、受診をお勧めします」

Q.近視を放置すると、どのようなリスクが生じる可能性があるのでしょうか。例えば、失明やその他の病気の原因となる可能性はあるのでしょうか。

岩見さん「近視だと遠くが見えないため、日常生活に支障が出ます。多くの子どもは自らの不調を訴えるのが苦手で、見えていなくても平気であることが多いです。しかし、そのままでは学業に支障が出たり、けがの原因になったりします。

さらに近視が強くなると、眼球の変形が進行するため、網膜剥離などの目の病気のリスクが増えます。日本人を含むアジア人は近視になりやすいといわれており、現代において、新成人の場合、8割を超える人が近視になるとされています。

近視は強度になるほど、眼鏡では解決しない目の問題が増えていくことを覚えてほしいです。大人の近視の原因の一つである調節緊張は、筋肉のこりであるため、目の痛みや頭痛の原因になります」

Q.近視の進行を抑える方法はあるのでしょうか。近視を予防するために、遠くを見たり、緑色のものを見たりする人がいますが、効果はあるのでしょうか。

岩見さん「子どもの近視を進行させないためには、過度に目を近づけて物を見ることを避け、屋外活動を1日2時間以上行うことが大切です。

また、点眼のほか、『オルソケラトロジー』『多焦点ソフトコンタクトレンズ』といったコンタクトレンズの使用、『レッドライトセラピー』と呼ばれる特殊な赤い光を発する機械による治療が、近視治療として有用だという結果が報告されています。

大人の近視に関しては、多くの場合、長時間のパソコン作業やスマホの使い過ぎ、姿勢の悪さが関連しています。デジタル機器を使う機会が多い場合、米国眼科学会議が推奨する『20−20−20ルール』を実践するのがお勧めです。これは20分作業するごとに20秒、20フィート(6メートル)先を眺めるという取り組みです。

緑色のものを見るというのは、恐らく遠くの山などを見ることを指していると思います。緑色のものを見ても、視力にあまり影響はありません。

目の調節緊張が起きやすい姿勢に、いわゆる巻き肩やストレートネックがあり、これらが複合している状況を『仕事で疲れただけ』などと勘違いしている人は多いです。遠くのものが見にくくなったら、日常生活を見直し、必要に応じて眼科を受診してみてはいかがでしょうか」