Googleが米国時間の7月22日、ウェブブラウザChromeでのサードパーティCookie廃止を撤回すると発表し、日本国内でも大きな話題となっている。特に、デジタル広告の業界関係者のあいだでは、ポストCookie時代のデータ活用のあり方が議論の焦点となっていたことから、この決定がもたらす影響について多くの意見が交わされている。しかし、DIGIDAY JAPAN編集部に寄せられたコメントの多くに共通しているのは、Cookie廃止が業界全体のプライバシー保護強化の流れに大きな影響を与える可能性があるとする一方、廃止後も、引き続きプライバシー保護やユーザー体験を重視した広告手法の模索を重視していくということだ。以下に、ブランド、エージェンシー、ベンダーら業界関係者たちの声(日本時間7月24日時点のもの)を紹介する。

「廃止後の世界」の議論に水を差してはいけない

「正直に言って驚いた。Cookie問題は、ここ数年のデジタル広告業界の議論の中心だったので、この影響は非常に大きい。『もしかしたら、Googleは断念するかも』と、冗談で語っていたことが、まさに現実となってしまった。まずはこの決定に至る議論などをしっかりと理解したい。一方で、今回の「廃止の断念」は、今まで進んでいた「廃止後の世界」の議論に水を差してはいけないと思う。そもそもこの問題は、過度のトラッキングや個人に関する「グレーな情報」の流用を改め、行き過ぎた状況を是正する動きであったはず。今回のGoogleによる断念が、『その後の世界』の議論や数々の取り組み、テクノロジーの進化、合従連衡の機運を冷やしてしまい、『その後の世界』が『今までの世界』に逆戻りしないよう注視していかなければならない」

キヤノンマーケティングジャパン デジタルコミュニケーション企画部 部長 西田健氏

「ニベア花王では、これまでも協業パートナーの皆様と、お客様が不快に思わないかたちでのコミュニケーションを模索してきた。そのため、サードパーティーCookieを活用できるできないに関わらず、引き続きお客様にとって必要な情報を必要なタイミングで提供するために尽力する。今回のニュースを受けて感じたことは、ポストCookie時代に向けてブランドやパートナー企業の垣根を超えて、手段先行ではなく目的に立ち返り議論してきた、これまでの流れを絶つべきではないと考える。お客様にとってより良い、新たなコミュニケーションの余地を皆さまと一緒に引き続き見つけていきたい」

ニベア花王株式会社 事業企画部デジタルマーケティング推進チーム 統括 菅原悠氏

「『サードパーティCookieが非推奨になる』将来のことを2019年から考え、準備するための『きっかけ』だったと捉えている。広告の文脈では、ユーザー体験を損なわない適切な広告手法を選択することが大切だと思うと、過度にユーザーを追いかけて広告を表示させる手法は、そろそろ役割を終えたかなとも思う。事の発端はプライバシー保護の観点からだと思うので、たとえ技術的な代替手段が整っていないから継続するのだとしても、広告文脈であれ計測文脈であれ、広告主は段階的にでも利用を卒業するタイミングなのだと考えている」

パナソニック コネクト株式会社 デザイン&マーケティング本部プランニング&オペレーションズ統括部 シニアエキスパート 岸田真由子氏

「競争環境の激化や広告媒体の多様化に伴う獲得効率低下という全体課題の中においては、Cookie廃止はあくまで一要素でしかない。また、広告は大手広告代理店が握っている要素が大きく、メーカーとして独自の対策をとることよりも、広告代理店の対策や成功事例にのっかった方が効率的・効果的だとみていた。そのため、Cookie廃止や廃止の断念についてメーカーとして右往左往しているところはあまりない。もちろん驚きもあり、また、広告代理店で対策を練ってきた企業にとっては納得がいかない部分も大きいと思われるが、メーカーとしては、Cookie廃止や廃止断念に関わらず、新規編重の事業成長から、ブランディングやLTV向上による事業成長へとシフトしていくことが、変わらず重要だと考えている」

メーカー 匿名

「2024年からGoogleによるCookie廃止を前提としたプロダクト戦略の推進や顧客との勉強会等を含む対話を進めていたので、非常に驚いている。まだまだ不透明な情報ばかりなのでコメントは難しいが、Cookie廃止は断念するものの、プライバシー保護強化の流れには抗えないと思うので、今後Googleがどういった対策を講じてくるかが非常に重要になると考えている。一部では、Cookieの利用をユーザーが選択できるようになるという情報もあるが、現状でもCookieが使えるブラウザ、そうでないブラウザと玉石混合してる状態のなか、より複雑性が増し、デジタルマーケティングに対する専門性が重要になってくると感じる」

エージェンシー 匿名

「サードパーティCookieの終焉は必然だと思っており、マーケティングの新時代を期待していたところに、リーディングカンパニーであるGoogleの今回の発表は非常に残念だ。AIの民主化で時代が次のステージへ進化する中、デジタル広告領域でマーケターを現時点に留めさせるものであり、それはGoogle時代の終焉の幕開けとも言えるかもしれない。私たちマーケターは、自分の意志で旧来の表層的なデータ重視を捨て、改めて顧客視点とブランド視点に立ち返り、AIを始めとしたテクノロジーと向き合い、付き合うべきメディアや手法を選択しないとならないと強く感じている」

情報通信業 匿名

「目先の情報によってぶれることのないデータ活用」の重要性

データソリューションを提供するベンダー企業各社のコメントは以下の通りだ。

「Googleはついに、広告業界が長い間言い続けてきたこと、プライバシーサンドボックスには欠点があり、消費者のプライバシー保護も、広告主の支援もできないことを認めた。一方、広告業界は、今日のデジタルの世界がChromeをはるかに超えていることを認識した上で、すでに前進している。OTT、CTV、デジタルオーディオなど、インターネット上でもっとも急成長している部分はCookieに依存していないものだ。このシフトは、インターネットのアップグレードを象徴するUnified ID 2.0のような優れたIDソリューションにつながっている。Googleは、消費者が選択することが重要であることを理解しているが、本当の問題は、彼らが本当に消費者に選択肢を与えるのか、それともただ消費者のために決定し、それを変更する能力を制限するのか、ということである。Appleはすでにこの道を歩んでいる。ユーザー体験を軽視する一方で、Appleが権限を持ち、ユーザーが本当に変更したいと思い、ボタンを見つけるためにクリックを何度もする意志があれば、変更できると主張している」

The Trade Desk Japan株式会社 日本担当ゼネラルマネージャー 馬嶋慶氏

「我々Tealiumは、GoogleがChromeでサードパーティCookieを維持する決定を、企業にとっての長期的な解決策とは捉えていない。Tealiumは、これまでも、1stパーティデータ戦略へのシフトや、コンバージョンAPIの使用を提唱してきた。そうすることで、計測と、進化するプライバシー規制の遵守が強化されるからだ。今後も、ユーザーの同意を得て直接収集された1stパーティデータの重要性は変わらない。よりパーソナライズしつつも、プライバシーに配慮したマーケティング戦略が重要だ。このアプローチは、規制要件を満たすだけでなく、顧客との深い関係と信頼を育むのに役立つと考える」

Tealium Japan株式会社シニア・マーケティング・ディレクター 安部知雄氏

「今まで既定路線となっていたサードパーティCookieの廃止が方針転換となった。しかし、プライバシー保護に対する要求は変わっておらず、保護のための手段が未確定ということに過ぎない。今回のGoogleの決定自体も変更が行われる可能性もあるし、新たな代替手段がどのようなものになるかも注視が必要だ。従って、データ利用企業としては今回の件を受けて何かが変わるわけではない。行うべきことは、目先の情報によってぶれることのないデータ活用方針の策定である」

エクスチュア株式会社 代表取締役CEO 原田憲悟氏

「Googleは、ChromeでサードパーティCookieの廃止を全面的に行うのではなく、ユーザーに許可を委ねる提案を発表した。 また、Googleはプライバシーサンドボックスのパフォーマンスと有用性を確保するための継続的な投資を強調した。 この提案はAppleのApp Tracking Transparency(ATT)に似ており、広告ターゲティングに影響を与える可能性がある。ただし、Chromeにはプライバシーを保護するプライバシーサンドボックスがあり、RTB Houseはこれを重要なステップと見ている。私たちは、プライバシーサンドボックスの開発を進めており、Cookieレスのターゲティング手法も準備している。これにより、サードパーティCookieの有無にかかわらず、クライアントに効果的なサービスを提供できる。Googleの声明は簡単な提案に過ぎず、今後数週間でユーザーの選択肢、実装の詳細、タイムライン、ブラウザのデフォルト設定などについてのさらなる説明が期待されている。さらに、規制当局は業界の反応を待ってから自分たちの立場を示す予定だ。RTB Houseは、今後数週間でこの提案に対する詳細な評価を規制当局に提供する予定だ」

RTB House VP of Programmatic Ecosystem Growth & Innovation ウカシュ・ヴォダルチェク氏

「Googleは、ウェブサイトにおけるプライバシーサンドボックスについて新たな方向性を発表した。GoogleはChromeにおいて計画していたサードパーティCookieの完全廃止を取りやめ、ユーザーの同意のもとにサードパーティCookieのサポートを継続する予定だ。この新たな方向性は、英国のCMA(Competition and Markets Authority、競争・市場庁)やICO (Information Commissioner's Office、英国個人情報保護監督機関)といった規制当局の審議を受け、提案された。Criteoは、当社が最近公表したプライバシーサンドボックスのテスト結果のもとに、業界を代表してこの発表を歓迎する。また、当社は今後もGoogleと継続的な協力関係を築いていくことを楽しみにしている」

クリテオ

Edited by DIGIDAY JAPAN編集部