Photo: Dua Rashid

イヤホンの技術が、今、変わろうとしています。その鍵となる存在が「MEMS」。近年、たまに耳にするという人も少なくないかと思います。

で、MEMSってなーに?

米Gizmodo編集部が、MEMS技術をリードする企業xMEMSに話を聞いてきました。

MEMSという言葉を最初に聞いたのは、Creativeが「Aurvana Ace 2」というイヤホンをレビュー用に貸し出ししてくれたときでした。いわく、MEMSとは従来のイヤホンとは全く異なる新しい技術。以来、この技術を開発するxMEMSという企業について、さまざまなメディアで目にするようになり、イヤホンを革新的に変えるというその説明に興味を惹かれてきました。

そこで、xMEMSのマーケ担当Mike Housholder氏に電話取材を実施。1時間ほどのインタビューで、これぞイヤホンの次世代技術であり、予想より早く大手ブランドもこれを採用するだろうと確信しました。ちなみに、現在すでに採用しているのは、Creative、HiBy、Noble Audioなどほんの一部のみ。

MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)。その本質はソリッドステート(個体状態)の半導体チップ。シリコンなどの電子部品を使った半導体素材であり、それが次世代の鍵となる要素。長い間大きな変化のなかったイヤホンに、MEMSという技術で新しい風を呼び込もうとしているのがシリコンバレーに本社を持つxMEMS。イヤホンだけでなく、ヘッドホンやヘッドセット、補聴器も含めオーディオ業界全体に切り込もうとしています。

コンテンツとともに進化すべきハード

正直、最初は多くの工場や消費者がその新技術に戸惑うと思います。ただ、その戸惑いについて、Housholder氏は、映像技術を例にこう語ってくれました。

動画業界の例でいうと、標準から高画質にコンテンツがアップグレードしたとき、そのコンテンツを見るためにレガシー的なCRTモニターをどうにかしようなんて誰も思いませんでした。そのコンテンツを正確に描き出そうとしたら、ハードの進化が必要だったからです。

今、オーディオ業界がその時にあります。高音質のワイヤレスコーデックがある。Bluetoothの接続効率化は常に取り組まれている。それなのに、それを再生するのは、コンテンツのもつディテールの解像度を引き出しきれないかもしれない、昔ながらのスピーカーハードウェアになってしまっているのです。

製品としての一貫性

MEMS技術で特に私の目を惹いたのは、その均一性です。以下の画像を見ると、従来のコイルスピーカーは複数の部品から成り立っていることがわかります。各パーツを1つにまとめる作業はセミオート化されてはいるものの、まだ多くの人的作業が発生します。

一方、MEMS型のスピーカーは一枚岩のシリコンであり、その生産ははじめから終わりまで完全自動化されています。

人間の手が入るということは、どこかに変動性がでるということ。両耳で完璧なステレオ効果を求めるには完全な均一性が必要不可欠であり、たとえほんの少しの変化であってもその歪みは大きな問題となります。

MEMSスピーカーは、製造過程を完全自動化することによって、この問題を解決。正確性と拡大可能な生産スケールを保証できるのです。精密なコイルと磁石の組み合わせから、一対のピエゾアクチュエータによる1つのシリコンへ。Housholder氏いわく

シリコンスピーカーは、一つひとつにも一貫性があります。たとえば、スピーカーを2つ使うとして、その2つは完璧にマッチすると思います。なぜなら、そこには半導体プロセスにおける正確性と一貫性があるからです。

モノとしての均一性や製造自動化のメリット以外にも、そもそも従来のスピーカーよりも音がいいという、音響パーツとしての基本もMEMSスピーカーは持ち合わせています。シリコンスピーカー(MEMS)は、従来のコイルのコイル&磁石のスピーカーよりも、150倍速く振動します。それは、よりディティールのある音を提供できるということ。

また、Housholder氏は、シリコンがプラスティックよりも硬いことから、より直線的に動くことで音が濁らないと解説。MEMSスピーカーは耐久性も従来のものより高く、防水仕様はIP58となっています。

実際に聞こえる音が違う!

CreativeのAurvana Ace 2は、MEMSスピーカー搭載で注目を集めているイヤホンです。Housholder氏に促され、昔から大好きな1曲をこのイヤフォンで聞いてみると…、驚きました。何百何千回と聞いてきたはずなのに、今までは気が付かなかった音のディテールが聞こえました!

好きなアーティスト(Mockingbird・Lost Horizon・Marea)の曲をいろいろ聞いてみましたが、その音のキレとクリアさはもう保証付き! サウンドの広がりが、日常使いしているイヤホンとはまったく異なります。ちなみに、日常使いはCleer Arc II。まるで、サウンドステージと一緒に空間そのものもイヤホンに盛り込まれたようです。

特に感動したのは低音。ヘッドホンやスピーカーでしか聞くことができなかった低音がイヤホンでも聞こえました。中音もリッチでバランスがよく、高音は音量を上げてもそのキレを失っていません。

何がすごいって、編集部ではトップクラスの信頼があるソニーのWH-1000XM5のヘッドホンの音と同等の音が聞こえたということ。ソニーのヘッドホンは400ドル(日本ではソニー公式ストアで6万円弱)、Aurvana Ace 2は130ドル(約2万円)だというのに!

うれしいのはMEMS技術がメーカーにとっても、消費者にとってもメリットがあるということ。メーカーにとっては、製品の均一性と自動化、コスト軽減。消費者にとっては、よりクリアでディティールのある音とIP58という高い防水性。

大手メーカーが、MEMS技術を採用しない理由がありません。

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