(写真:trickster*/PIXTA)

少子化と人口減少が進む中、新たな対策としてマッチングアプリを導入する自治体が増加している。例えば桑名市や宮崎市は「ペアーズ」と、北海道や三重県は「タップル」との提携を開始している。また、東京都はAIを活用した独自のマッチングアプリの一部提供を開始した。

昨年9月にはテレビCMの放送も解禁されたことで、マッチングアプリはより一層社会に浸透しているように見える。しかし、このような社会への浸透に反して、マッチングアプリの利用実態は不透明なままだ。

そこで本稿では、1000万人以上のスマートフォンアプリ利用ログを用いてマッチングアプリの利用実態を分析した(ドコモ・インサイトマーケティングが所有するdi-PiNK(※)のアプリ利用履歴<個別に同意をいただいた方>を、国勢調査人口等を用いてウェイトバック集計したデータを使用)。

なお、本稿ではアプリ上でのコミュニケーションを起点としたサービス(いわゆる恋活アプリや婚活アプリ)に加えて、対面でのコミュニケーションが中心となるサービス(いわゆる婚活パーティーや結婚相談所)で利用されるアプリもマッチングアプリとして扱った。

マッチングアプリを20代男性の8.6%が使用

まずマッチングアプリの利用率から確認しよう。次の図に、マッチングアプリの性年代ごとの利用率を示した(各カテゴリーのアプリを月に合計1分以上利用した人の割合を「利用率」と定義)。利用率が最も高いのは20代男性で、8.6%もの人が利用していた。一方で40代以上では1.5%以下であり、マッチングアプリの利用率は年齢によって大きく異なることがわかる。


次に利用者数の推移を確認しよう。直近2年間の利用者数(15〜69歳)の推移を「恋活アプリ」「婚活アプリ」「婚活パーティー」「相談所」という4サービス別に示した。婚活パーティーや結婚相談所の利用においてはアプリの利用が必須ではないため、サービス間の利用者数の単純な比較はできない点に留意されたい。


まず注目したいのは、最も市場規模の大きい「恋活アプリ」のユーザー数が約150万人から伸びていないことだ。さらに、同様にアプリ上でのメッセージのやり取りが中心である「婚活アプリ」のユーザー数は約9万人から約7万人へと減少している。自治体との提携やテレビCMの放送といったニュースからはマッチングアプリの普及が進んでいるような印象を受けるが、実際には利用者が伸び悩んでいるとも考えられる。

反対に利用者が増加しているのが、結婚相談所アプリの利用だ。婚活アプリから結婚相談所へのユーザーのシフトが想像されるデータである。結婚相談所がデジタル化を取り入れアプリの利用が進んだことも要因として考えられるが、婚活サービス大手のIBJのデータでも、結婚相談所ネットワークの会員が若年層を中心に増加していることから、やはり結婚相談所の利用者自体も増加していると考えられる。

男女でマッチングアプリの利用に差

年齢1歳ごと・男女別のマッチングアプリ利用率のデータからは、男女それぞれのアプリの捉え方の違いが見えてきた。

まず男性のデータに着目しよう、男性は「恋活アプリ」や「婚活アプリ」といったアプリ上でのメッセージのやり取りが中心のサービスの利用率でどの年齢でも女性を上回っている。一方で「相談所アプリ」の利用は女性より遅い傾向がある。結婚相談所のアプリの利用率のピークは男性が35歳で、女性より5歳も遅い。


反対に女性は結婚相談所アプリの利用が早いことが特徴だ。25歳の0.06%から30歳の0.34%へと利用率が急上昇しており、この間に結婚相談所の利用を始める女性が多いことがわかる。ピークの年齢は30歳であり、「パーティーアプリ」や「婚活アプリ」の33歳よりも早い。男性がパーティーや婚活アプリより後に結婚相談所を利用する対照的だ。男性と女性では結婚相談所への捉え方が大きく異なるようだ。

男女の意識のミスマッチが浮き彫りに

このような各サービスを利用するタイミングの男女差からは、各サービスで男女が出会う際の意識の違いも想像できる。婚活アプリを例に考えよう。男女いずれも利用率のピークは33歳で同じだが、男性の場合は結婚相談所より“前”、女性の場合は結婚相談所より“後”という違いがある。

男性の利用者は恋活アプリの延長の手軽なサービスとして婚活アプリを利用しているのに対し、女性は結婚相談所とも併用しながら真剣度高く利用しているということが考えられる。婚活アプリの利用者の減少も、こういった男女の意識のミスマッチが一因かもしれない。

少子化と人口減少は先進国に共通する重要な社会問題である一方で、個人の価値観に正面から介入するのが難しいのもまた先進国に共通の制約だ。生活者が自然な形でマッチングサービスを受け入れ、それが社会問題の解決につながっていくことが望ましい。

今後マッチングアプリの社会的活用を進めるにあたっては、こういった男女の意識差を理解し、ミスマッチが起こりづらいサービスを設計することが重要になるだろう。

※ di-PiNKは株式会社ドコモ・インサイトマーケティングの登録商標

【記事内の集計対象アプリ】

恋活アプリ:Pairs、with、タップル、アンジュ、scenario、Omiai、CoupLink、Ravit(男性のみ有料のサービス)
婚活アプリ:ゼクシィ縁結び、ブライダルネット、youbride、match(男女ともに有料のサービス)
パーティーアプリ:エクシオ、PARTY☆PARTY、オミカレ
相談所アプリ:IBJ、ZWEI、BIU NetClud

(山津 貴之 : インテージ メディアアナリスト)