世界戦中止を知る直前の電話口「まだ戦闘態勢で…」 2.9kg体重超過された王者・田中恒成の胸中
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ボクシングのWBO世界スーパーフライ級(52.1キロ以下)タイトルマッチ12回戦(東京・両国国技館)の前日計量が19日、都内で行われ、同級12位ジョナタン・ロドリゲス(メキシコ)の大幅な体重超過で試合中止になった。制限体重を2.9キロも上回る55.0キロ。リミットで一発パスした王者・田中恒成(畑中)は、再計量前の相手と笑顔で握手を交わした。その様子には最後まで試合実現を信じる様子が窺えた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
大失態を犯した相手をじっと見つめた。挑戦者が体重超過を犯しながら行われたフェイスオフ。王者・田中は2センチの距離に詰め、約15秒睨み合った。しかし、終了した直後だ。笑みを浮かべながら右手を差し出し、力を込めた固い握手を交わした。
前代未聞の超過幅だった。全裸で計量台に乗ったロドリゲス。「55.0キロ」とコールされると、報道陣や関係者からため息が漏れた。再計量の猶予は2時間後の午後3時5分。しかし、落とし切れず途中でギブアップし、計量会場に戻ってくることはなかった。
報道陣に試合中止が公にされたのは、田中陣営の畑中清詞会長が取材に応じた午後2時15分頃だった。同会長は「相手の体が危ないとのこと。こちらも2階級上の選手とやらせるわけにはいかない」と意気消沈。「(怒りを)通り越している。ボクシングを辞めた方がいいんじゃないですか。もしくは階級を間違えている」と相手に憤りを隠せなかった。
田中は死に物狂いでここまでたどり着いた。KO勝ちができなかった前戦を踏まえ、「質より量」を掲げて猛練習。しかし、6月に40度を超える熱を出し、10日間ほど満足な調整ができなくなった。それでも全てを尽くし、体重をつくったのはプロ根性。一方、ロドリゲスは7月17日の練習中に体が痙攣し、最初の異変に見舞われた。
畑中会長との電話口で放った一言とは
練習を中止し、抱きかかえられながら戻ったホテルで再び痙攣。陣営のラファエル・ダミアンプロモーターは「彼は『胸に気泡がある感じがする』と言っていた。息ができなくなり、パニックになっていた」と説明した。18日午前は縄跳び、ランニング、サンドバッグ、サウナ、毛布を被っても汗が出ない。計量当日もサウナとランニングを続けたが、体が動かなくなった。
超過の懸念は田中陣営にも伝わっていた。「恒成は体重をつくったし、つくるのがプロフェッショナル。でも、3キロはね……」と超過幅に驚いた畑中会長。中止が決まる前、電話口の田中は「3時まで待ちます。それまでは戦闘態勢でいます」と望みを捨てていなかったという。そして午後2時29分、まだ中止を知らなかったのだろう。王者はSNSに「明日は思いっきり暴れます」とつづった。
他団体王者との統一戦を目指し、内容にもこだわる試合を宣言していた初防衛戦。計量会場で交わした握手と笑顔には、“最後まで諦めるな”という切な願いが込められていたと思う。開催が絶望的となっても、最後の最後まで気持ちを切らさないでいた精神力もプロだ。
相手は再計量までに外を走ったが、再び痙攣に見舞われた。日本ボクシングコミッションによると、国内開催の世界戦が体重超過によって中止になるのは初めてという。田中も中止を報告し、複雑な心境を投稿した。
「明日はグローブではなく、マイクを持ってリングで皆さんに顔を見せます 残念なお知らせ誠に申し訳ございません」
○…その他の試合は全選手が計量を一発パスした。メインイベントのWBC世界バンタム級(53.5キロ以下)王者・中谷潤人(M.T)は53.2キロ、指名挑戦者の同級1位ビンセント・アストロラビオ(フィリピン)は53.3キロ。WBO世界フライ級(50.8キロ以下)王座決定戦では、同級2位・加納陸(大成)が50.7キロ、同級3位アンソニー・オラスクアガ(米国・帝拳)が50.5キロ。120ポンド(約54.43キロ)契約10回戦に臨むWBA世界バンタム級7位・那須川天心(帝拳)は54.4キロ、同級4位ジョナサン・ロドリゲス(米国)は54.0キロだった。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)