古川琴音

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 7月から始まった月9ドラマ『海のはじまり』(月曜夜9時〜フジテレビ系)が《もはやホラー》《オソロシすぎる》と話題。

【写真】「休む暇がない状態」“激ヤセ”が心配されている『海のはじまり』出演の有村架純

 月岡夏(目黒蓮)は大学時代の恋人・南雲水季(古川琴音)の葬儀で、自分には6歳の娘・海(泉谷星奈)がいたことを知る。当時、中絶同意書にサインを求められた夏は“別の方法はないの?”と問いかけるも、水季は聞く耳を持たず。一方的な別れを夏に告げ、密かに産み、娘には父親“夏くん”の話をふんだんに聞かせながら育て、母子で夏の自宅前まで訪れている。歴代ドラマの中でも水季は“ヤバイ女”の上位に入りそうだが……。ドラマに精通するライターの吉田潮さんに尋ねてみると、

「私はさほどホラーだとは思わないですね。もちろん夏の側、現彼女・弥生(有村架純)の側からしたらホラーですが。そんな弥生もあっという間に“私、お母さんになれるかな”という感じに。もちろん、弥生は過去に中絶をしているので、罪滅ぼしの気持ちも大きいと思いますが」

みんながほっとけない! 戦略的成功のゾワゾワ感

 ホラー具合は、誰に自分を置き換えるかだという。

「もし好きだった男性の子どもを密かに産んでいたら、中絶同意書を持ち歩くのはホラーなのかな?多分、私もそうするかも。水季には悪意や恨み、復讐心はまったくないですよね。そして娘に“父親は死んだ”といったウソをつくのは嫌だったんでしょう。“パパはいる”と隠さないだけでなく、“パパはふたりいてもいい”ぐらいの話をしていて。私は逆にフラットでいいなと思いました」(吉田さん、以下同)

 そして水季が妊娠を明かしたとき、夏は早々に就職活動を始めていた。

「“この人はやっぱり世間体を気にして生きているんだな”と水季は感じたと思うんです。夏の人生の歩みの邪魔はしたくないけど、自分は産みたい。“じゃあ、ひとりで”となったんだろうなと思います」

 いただきもののイメージが強い『鳩サブレ―』を自ら買って食べるシーンも、水季の他人や世間体に左右されないキャラクターが表れていると吉田さん。

 初回の視聴率は8.0%、2話は8.1%(世帯平均)。7月15日に放送された第3話は7.1%を記録した。数字は大きく落としていない。TVerのお気に入り登録者数ランキングは、7月期ドラマの中でダントツ1位の約124万人(7月14日現在)となっている。

「ここ最近の月9ドラマって当たってないですよね?続きが気にならなかったというか。そんな中で『海のはじまり』は最初からみんなをゾワゾワさせて、それこそホラーという感覚を持たせたことは戦略的に成功だったと思います。子どもの親権や養育費が関わってくるから、みんなほっとけない。言いたいことがある人がいっぱいいると思うんですよ。やっぱり、財閥御曹司との恋愛や記憶喪失には物申したくなりませんよね(笑)。

『海のはじまり』はすごく重い荷物のようなものを背負わせて、賛否両論を承知のうえで、恋愛ものをちゃんと書こうという脚本家・生方美久さんのプライドのようなものを感じます。“えっ!?”“ちょっと気持ち悪い”“コワイ”“でも、私もこれだったらやるかな”など反感と共感が相混じる感じ。すごくいい手法だと思うんですよね。そして現時点で、この作品でいちばん“ヤバイ女”は水季の母親(大竹しのぶ)かなって私は思いますけどね(笑)」

料理女、私を見て女、やりすぎ女

 ここからは、吉田さんとともに歴代ドラマにおける印象的なヤバイ女たちを振り返っていこう。

「ヤバイ女にはいろんなタイプがあって。ひとつは“料理系女”ですね」

 古くは『東京ラブストーリー』(1991年)のおでん女・関口さとみ(有森也実)や『ホタルノヒカリ2』(2010年)でおはぎを作って持ってくる浅田小夏(木村多江)、『あなたには帰る家がある』(2018年)の茄子田綾子(木村多江)も完璧なお弁当をバスケット入れて持ってきた。『リコカツ』(2021年)の一ノ瀬純(田辺桃子)は筑前煮、『こっち向いてよ向井くん』(2023年)の福田芽衣(穂志もえか)は時間も手間もかかるアイシングクッキーを作って宣戦布告。

「料理をしれっとさらっと作ってくる女は警戒してしまいますね(笑)。だいたいヒロインとパートナーがうまくいっていない絶妙のタイミングですし。もちろん善意はあるんだろうけど、“私はできる感”があざとくて気持ち悪く感じますよね」

 お次は“承認欲求強すぎ女”。

「『セカンドバージン』(2010年)の鈴木万里江(深田恭子)は夫(長谷川博己)に振り向いてほしくて自殺未遂のようなことをしたり。『ホリデイラブ』(2018年)の井筒里奈(松本まりか)は既婚男性(塚本高史)と1度関係を持った後、行動がエスカレート。独占欲や承認欲求が強い“私を見て女”というか。行動が奇に走る人はマズイですよね(笑)」

 “私を見て”系でありながらも、演出上の“やりすぎ女”もいる。

「ちょっとコメディーになっちゃうやつ。『奪い愛、冬』(2017年)の森山蘭(水野美紀)といえば、夫(大谷亮平)とヒロイン(倉科カナ)の浮気現場のクローゼットからバーンと出てきて“ここにいるよぉ〜”。みんなびっくりでしたね(笑)。『M 愛すべき人がいて』の思わせぶりな姫野礼香(田中みな実)は革の眼帯がみかんの皮のようでした(笑)。どっちも、男性に怪我を負わされたというバックグラウンドがあり。その原点は多分『スチュワーデス物語』(1983年)の新藤真理子(片平なぎさ)なんですよね。“浩”って手袋を外すと義手。身体に残った障害を一生罪悪感として背負わせるみたいな」

寄生する女、姉妹のパートナーに手を出す女、シリアルキラー

 そして“寄生する女”もなかなかヤバイ。男性に寄生する女、女性に寄生する女の2パターンがいる。

「『獣になれない私たち』(2018年)の長門朱里(黒木華)は、元彼(田中圭)の家に住みついている引きこもり。それに現彼女(新垣結衣)がモヤモヤする。『ナイルパーチの女子会』(2021年)は丸尾翔子(山田真歩)が有名ブロガーで、そのブログのファンだと寄ってくるのが志村栄利子(水川あさみ)。常軌を逸した食いつき方で、翔子の生活や人間関係を破壊。

 同様に『サワコ〜それは、果てなき復讐』(2022年)も。音川マチカ(深川麻衣)に寄生するのが深井サワコ(趣里)なんですが、追い詰めるだけ追い詰めて、何もかも奪う恐ろしさが。こういったパラサイト系はだいぶ常軌を逸していますが、現実に角田美代子(尼崎連続変死事件)のような女性はいますからね」

 忘れちゃいけないのが、姉妹のパートナーに手を出す女。

「古くは『想い出にかわるまで』(1990年)で沢村るり子(今井美樹)の彼氏(石田純一)に、妹・久美子(松下由樹)が手を出す。これは脈々と受け継がれるヤバイ女(笑)」

『ディア・シスター』(2014年)は深沢葉月(松下奈緒)と婚約者(平岡祐太)の関係を妹・美咲(石原さとみ)が壊す。『けむたい姉とずるい妹』(2023年)は東郷じゅん(栗山千明)は彼氏(柳俊太郎)を妹・三島らん(馬場ふみか)に奪われ、結婚まで。『Sister』(2022年)は三好凪沙(山本舞香)の初恋の相手(溝端淳平)との恋愛を応援を装いつつ、姉・沙帆(瀧本美織)が略奪し、婚約。

「あとは本当にヤバイ“シリアルキラー”もいますよね。『美しい隣人』(2011年)のマイヤー沙希(仲間由紀恵)とか、『逃げる女』(2016年)の谷口美緒(仲里依紗)とか。このあたりは冗談ではすまないヤバさというか、犯罪です(笑)」

 奥深きヤバイ女の世界。あなたのいちばんヤバイ女は誰でしたか?