アンガールズ田中さんのリノベ探訪:築100年の和洋折衷住宅が最先端のギャラリー&オフィスに
家好き芸人・アンガールズ田中さんが、ユニークにリノベーションされた建物を訪ねました。向かった先は、東京都中央区のビルの狭間にポツンと建つ、緑青(ろくしょう)に覆われた銅板の外壁がユニークな和洋折衷の3階建て。中はリノベーションされ趣のあるギャラリー兼設計事務所になっている話題のスポットです。リノベーションを手掛けた「ザ デザインラボ」代表の板坂諭さんの話に興味津々。外観からは想像できないスマート化にもびっくり!
100年前のこの地ならではのスタイルを残す
まずは、最上階の3 階へ。古民家ならではのつくりで、手すりもないため、まさにハシゴのよう!「過去イチ急だな。これは階段というよりハシゴに近いですね」(田中さん)。
板坂:築100年ほどのこの建物は、1階が「井筒屋」という和菓子店で、2、3階は住居として使われていたようです。新富町は明治時代に外国人が多く住んでいたので、3階がちょっと洋風。1、2階が和で3階が洋という縦積みの和洋折衷住宅になっています。人口密集地だった東京・中央区ならではのスタイルで、残すべき文化遺産だと思ったので、オーナーにリノベーションを提案しました。
田中:屋根の形がおもしろいですよね。銅板の外壁も、味があっていい雰囲気。
板坂:江戸の大火を経験した反省から、不燃材である銅を使ったのだと思います。銅板は緑青が付着すると腐食止めになるので、100年たってもきれいな状態を保っています。銅は当時、安価だったとはいえ金属ですから、ある程度ゆとりがないと使えません。井筒屋の向かいには「新富座」という歌舞伎の劇場があったので、観劇のお客さんで繁盛していて経済的に豊かだったのだと思います。
田中:屋根の形状を反映した3階の空間も、天井が高くて遊び心がありますね。
「屋根の形がそのまま生かされているから、空間が広く使えるんですね」と田中さん。3階もギャラリーとして使用されており、展示中のポール・ケアホルムのハンモックチェアでしばしくつろぎます。風船の形をした照明器具は板坂さんがデザインしたもの。
次の100年も快適に使えるようにスマート化
次は2階へ。和室だった2階は、住居スペースとして使われていました。既存の桐(きり)の箪笥(たんす)は、一度部品を外してメンテナンスしたうえで、日に焼けて黒くなっていた部分の色に合わせて全体を塗装。右側のくぼんだ部分には仏壇があったそう。天袋は襖(ふすま)紙を貼り替え、間接照明を設置しました。
板坂:住居だった2階にあった桐の箪笥は、部分的に紫外線を受けて黒くなっていたので、それに合わせて調色して塗装しました。扉をあけると中の棚が見えますが、本来はその色だったと思います。
田中:日焼けした部分に合わせているんですね。すごく自然で、木の感じも生かされていていいですね。引き出しの動きもめっちゃスムーズ。こういう年代物の箪笥って引き出しの滑りが悪くて、ちょっとあけにくかったりしますよね。
板坂:一度工場に持って行ってメンテナンスしてもらいましたから。2階の天井は、一部は見事な小屋組みを現しにしていますが、構造材を追加した部分は張り替えています。土壁や腰壁はすべてやり直し、建具は大正時代の古民家で使われていたものを使用しました。建物と同じ時代のものを使うことで、できるだけもとの形に戻す作業をしたのです。
田中:よく見ると、もとの鴨居(かもい)の位置はすごく低いですね!
板坂:もとのままだと鴨居が低すぎて、現代人には不便ですから。建具も継ぎ足してサイズを調整しています。
田中:なるほど。ボクのような大きな人間でもぶつからないように調整されていて、ありがたいです。
板坂:設計事務所は新しい家をつくるのが仕事ですが、今回のリノベーションは建築文化へのお礼の気持ちも込めていて、いいものを残しつつ、次の世代につないでいきたいと考えました。じつは、この建物はスマートホーム化していて、建物に入って1階のスピーカーに「ただいま」と言うと、照明やエアコンがつくようになっています。出かけるときは、「行ってきます」というと、全部消える。スマホでスイッチのオンオフもできるんです。
田中:すごいハイテク! ボクなんか、「ヘイsiri、今日の気温は?」くらいしか聞いたことがありません。
板坂:古い建物をそのまま100年後に持っていくのは、無理があります。エアコンも当然必要ですし、照明もLEDにする必要があります。次の100年も快適に使っていくためには、それらをリモートで自由自在に操作できたり、鍵を持っていなくてもあけ閉めできるようなシステムが大切になってきます。
田中:具体的にはどんなシステムを入れればいいんですか?
板坂:小さな機器を後づけするだけなので、簡単です。監視カメラなどのセキュリティも、スマホですべてコントロール可能。時代は変わりましたね。
リンクジャパンが開発したIoTプラットフォーム「HomeLink」を採用。スマホや声で空調、照明などの操作ができるので、各部屋にスイッチを設置する必要がなく、1か所にまとめることが可能になりました。各フロアの目立たない場所に設置されているため、超ハイテクでありながら、古民家ならではの趣ある雰囲気も保つことができています。
各部屋にカメラを設置しており、セキュリティ対策も万全。別の場所にあるメインオフィスからもチェックできます。
アプリを入れれば、スマホからエアコン、照明、鍵、カメラなどの管理&操作が可能。音声操作にも対応しています。
にじり口に隠れ家バー⁉珍しい石との組み合わせも
1階には天井の高さを生かした、ギャラリー兼打ち合わせスペースがあります。取材当時はイベント(ポール・ケアホルムとオリエンタルラグ展)が開催中。家具やラグを展示していますが、通常は打ち合わせ用のテーブルを置いているそう。
板坂:和菓子店の店舗だった1階はギャラリー兼打ち合わせスペースに。
田中:このソファ、体にしっくりなじむし、家の雰囲気とも合っていて落ち着きます。テーブルの上にはボクの好きなシダもあって、これも相性抜群!
板坂:古民家と北欧の家具とオリエンタルラグ、それにシダという組み合わせはおもしろいですよね。隣は社員が使う給湯室なのですが、カウンターを設けてバーのようなスタイルに。にじり口があって路地から出入りできるので、田中さんがこっそりバーを使いたいときは、外からノックしてくれたらあけますよ(笑)。
田中:めっちゃおもしろいですね。カウンターの素材もユニークだし、土壁も近くで見ると場所によって微妙に表情が違っていて、カッコいいと思いました。
板坂:カウンターには琉球石灰岩、踏み石やトイレの洗面器は伊達冠石を使用しています。どちらも貴重な国産の石で、独特の味わいがあります。設計事務所なので、素材を実際に見てもらえるように設えました。土壁は、塗る厚みによって表情を変えています。厚く塗ると乾燥の収縮がぐっと進み、表面が割れるのです。
田中:なるほど、厚塗りすると割れるのか。このひび割れ、カッコいいな〜。
板坂:古民家にいきなり新しいものを持ってきてもなじまないので、日本に古くからある素材を工夫して使用しました。今後も年に2〜3回は企画展などのイベントを考えており、さまざまな組み合わせを模索していけたらと思っています。
もとからあった勝手口を利用し、外壁はいじらずに内側に壁をつくってにじり口を設置。「周辺には路地の文化が残っているので、路地の雰囲気を取り入れてみました」と板坂さん。上部の窓も、内側に取り付けて既存のアルミサッシを隠しています。
廊下の右手奥にバーがあり、左側にはトイレが配されています。
廊下の手前に置かれているのは、伊達冠石(だてかんむりいし)の踏み石。建具と同じく、柱も大正時代の古民家の床柱を再利用しています。
トイレの手洗い器は、伊達冠石で製作したもの。「宮城県産の伊達冠石は、彫刻家のイサム・ノグチが作品によく使用したことでも知られています」と板坂さん。壁には3×1mのタイルを採用。目地がないので掃除が簡単で、おすすめだそう。「イタリアのものですが、日本的な雰囲気なので採用しました」。
井筒屋の店章をモチーフにしたギャラリーのサインボード。QRコードを読み込むとインスタグラム(@izutsuyagallery)にアクセスし、DMでイベントの予約ができます。イベントは予約制。
●取材協力:the design gallery 東京都中央区新富2-4-8