週末のなんば広場に現れたミャクミャクは子どもたちに大人気だった(画像提供:チーム関西)

2025年4月13日から開催される「大阪・関西万博」まで1年を切った。

全国紙では費用や経済効果に対するネガティブな論調が目立つ。その一方で運営ボランティアには定員の2.7倍の応募があり、今年4月から募集が始まった会場内での案内や迷子の捜索などを担うスタッフも、すでに目標の2倍以上の応募が寄せられ「実は盛り上がっている」と報じる関西メディアもある。

関西産業界と一般市民の声

さまざまな意見が飛び交う中で、在阪大手企業・団体が集結した一般社団法人チーム関西は5月31日から6月2日にかけて、万博の機運醸成のためのイベント『Warai Mirai Fes 2024 〜 Road to EXPO2025〜』を大阪の中心地・難波の各所で開催した。

万博を推進する関西産業界と、一般市民の受け止め方から、地元・大阪の中心地の「大阪・関西万博」に対する温度感を探った。

週末の多くの人々が賑わう、大阪の中心地・難波。過去2回開催された本イベントは万博記念公園や大阪城公園内各所で行われたが、1年前に迫った今年は、大阪・ミナミの玄関口「なんば広場」のほか、なんばグランド花月などが点在する、難波に会場を移した。

今回YES-THEATERで開催され、本イベントの目玉企画となったのが『地球温暖化ってなぁに?テレビで活躍するお天気キャスターと学ぼう!』だ。このイベントには、国連広報センター所長・根本かおる氏と、NHKほか在阪民放準キー局3社のお天気キャスターとして活躍する気象予報士たちが登壇した。

多くの小学生で埋め尽くされた会場では、お天気キャスターが学校の授業のような形式で、気候変動と地球温暖化の構造、いま行われている対策、このままなにもしない場合の100年後の気候について解説を行う。


国連広報センター所長・根本かおる氏と、NHKほか在阪民放準キー局3社のお天気キャスターが登壇したシンポジウム『地球温暖化ってなぁに?テレビで活躍するお天気キャスターと学ぼう!』(画像提供:チーム関西)

「2025年は、国連が誕生して80年、日本の戦後80年という節目の年であり、万博がテーマに掲げるSDGsの2030年のゴールに向けて残り5年となる、いろいろなことが重なる重要な年です。

万博の参加国も国際機関も、SDGsのゴールという世界共通言語をベースにアクセルを踏み込んで展示内容を準備しているでしょう。

それは国の政策を動かすことにつながります。万博をきっかけに、それぞれの国の展示と政策が両輪になってまわりはじめ、2030年の目標達成への大きな推進力になっていく。そういった重要な位置づけとして捉えています」と根本かおる氏は語る。

2023年11月にオープンした新名所・なんば広場でもイベントが開催され、「SDGsのゴール」をテーマにする、チーム関西のさまざまなブースが連なった。


なんば広場の特設会場にはSDGsを体験できるチーム関西各社のブースがならんだ(画像提供:チーム関西)

なかでも、トップアスリートから走り方の指導を直接受けられる『ちびっこ走り方教室』は、子どもたちに大人気。


トップアスリートから走り方の指導を受けられる『ちびっこ走り方教室』は小学生に大人気だった(画像提供:チーム関西)

カメラを構える親たちに囲まれて、特設陸上トラックで張り切るキッズたちの元気な声が響いた。

SDGsをテーマにさまざまなイベントを実施

なんば広場のメインステージでは、着用しなくなった衣料品を回収し新しい衣類に生まれ変わらせる資源循環型プロジェクト『withal』、最新技術による紙のリサイクルを学ぶ『紙のリサイクルを学ぼう!』、法務省の『社会を明るくする運動』とのコラボイベントなどに芸人やタレントが登壇。アイドルグループや学生のライブパフォーマンスなどが行われ、会場全体を盛り上げた。

会場を訪れた人々は、地元で開催される万博に対して、どのような受け止め方をしているのだろうか。小学2年生の娘が『ちびっこ走り方教室』に参加した母親は、難波にショッピングに来ていたところ、たまたまイベントを見かけて、子どもが興味を持ったという。

万博に関して聞いてみると「娘はミャクミャク(大阪・関西万博の公式キャラクター)は好きですが、万博についてはまだほとんど知りません。娘の学校で万博に行く話が出ているな、といったぐらい。何が見られるのかもわからないし、子どもたちはとくに意識していないと思います」と話してくれた。

メインステージを見学していた、万博ボランティアに申し込んだという女子高生は「いろいろな国の技術が集まって、多くの国から人が来て、楽しそうって、ふんわりと感じています。例えば万博をきっかけに『空飛ぶ車』が身近に体験できるようになったら楽しそう。いままでにない新しいことを知ることができるという期待感があります」と語る。

イベントに足を運んで参加した人たちは、大阪府民のなかでも万博開催をポジティブに捉えている人たちかもしれないが、若い世代には万博に対してそれほどネガティブな感情はないことや、世界中の新しい技術や多様な文化が集まることにワクワクした気持ちを抱いていることを感じた。

イベントに参加したお笑いコンビ・見取り図の盛山晋太郎は「地下鉄や街中でもいろいろな掲示が増えてきたり、僕らを含めて万博で街がどう変わっていくのかを楽しみにしている人は多いと思います。肌感覚として、大阪が元気になっていく感じがありますね」と語る。

万博に対しては賛否両論の声

その一方で、なんば広場を通りかかった20代会社員の男性は「費用がかなりかかっているけど、それと釣り合うイベントになるのか、万博にどういうメリットがあるのかよくわからない」と、いまだ情報が少ないことが関心につながっていないことを指摘した。

難波で開催していたイベントをたまたま見かけた人々の場合は、万博への知識がほとんどなく、関心も希薄だった。現時点ではこちらが大阪府民の中でもマジョリティなのだろう。

それと同時に「どうせやるなら楽しまなきゃ損」といった関西人らしい気質も感じられた。これから開幕が近づき、さまざまな情報があふれることで、万博へのポジティブな空気が伝播していくことも期待される。


万博スペシャルサポーターNMB48のライブにもミャクミャクが飛び入り参加した(画像提供:チーム関西)

こうした状況をイベントの主催者側は、どう感じているのだろうか。

2022年に設立された吉本興業や朝日放送テレビ、大阪ガスなどで構成されたチーム関西は、万博に向けてさまざまなイベント、プロジェクトを継続的に実施し、大阪の魅力を発信し続けている。

代表理事の福島伸一氏は、万博への現在の大阪の温度感に関して「地元の認知度はもちろん、関心、期待値とも非常に高いと感じています。街の中にミャクミャクの姿も目立ち始めているほか、何よりボランティアへの応募が定員の3倍近くありました。その応募者は、10代、20代が全体の約40%を占めており、これからの時代を担う層の関心と期待の表れかと思います」と手応えを得ている。

その一方で、その期待値は「まだ足りていないとも感じている」とも吐露する。背景には、冒頭でも述べたように、メディア上での万博関連のネガティブな論調が多いこともありそうだ。福島氏は「いろいろな報道がありますが、地元経済界も一生懸命に盛り上げようと努力しています。参加への期待値はこれから開幕が近づくに連れて上がってくると思っています」と前を見据える。

大事なのは「万博開催後」

チーム関西で目指すのは、万博開催までではなく、「万博開催後」の大阪・関西圏の地域振興だ。

「万博が開催される2025年、そしてそれ以降も、大阪・関西の都市魅力向上のため、さまざまな分野での活動に取り組んでいきたいと考えています」(福島氏)。

万博開催による瞬間的な経済効果だけなく、そこで示された“未来”を現実社会にどう落とし込んでいき、地域の経済と文化の発展および、よりよい社会の醸成へとつなげていくか。将来を見据えながら、すでにいろいろなプロジェクトが動き出している。

今回のシンポジウムとワークショップは、そこにつながる1つ。実際に体験することで興味を持ち、積極的に学ぶようになる子どもたちの姿が印象的だった。万博は目に見えない大きなものを来場者の心に残すイベントであり、それは子どもたちが担う未来の社会にも還元されていくように感じられる。

(武井 保之 : ライター)