アップルが“空間コンピュータ”とうたうゴーグル型デバイス「Apple Vision Pro」、ついに日本にやってきました。60万円近い高価な製品であり、誰にでも手放しで薦められる製品ではないのは確かですが、実際に試すと違和感のないリアルな表示や操作の自然さ、初めてでもストレスなく使えること、人物の息づかいまで伝わりそうな迫力のある3D動画など、これまでのVRゴーグルやXRグラスにはない大きなインパクトを受けました。実際に買う、買わないにかかわらず、アップルストアの店頭で試す価値はあると感じます。

アップルの「Apple Vision Pro」がいよいよ日本に上陸。きわめて高価なので手放しで薦められる製品ではないが、Apple Vision Proがもたらす新しい体験は誰しも試してみる価値があると感じた

圧倒的な表示クオリティがもたらす新しい体験

すでに米国では2月から販売が始まっているApple Vision Pro、日本市場でもいよいよ6月28日から販売が始まりました。

Apple Vision Proは単体で動作し、さまざまなアプリが利用できる“空間コンピュータ”。自分のApple IDでログインする必要はありますが、手持ちのiPhoneやMacをつなげる必要はありません。操作は自分の指や目の動きででき、手に持って使うコントローラーはいりません。

Apple Vision Proには、手に持って使うコントローラーは存在しない。自分の指や目の動きで操作する仕組みだ

実際に装着すると、上下左右見渡す限りの領域に精細な表示が現れるのに驚きました。表示領域が一部の長方形に限られることもなく、まさに目の前すべてが画面になります。この大きく精細な表示領域を生かし、さまざまなアプリが新しい体験をもたらしてくれます。

まず試したのが、日本経済新聞の誌面が見られる「日経空間版」アプリ。新聞の紙面がズラリ表示され、視線を合わせればその面が全体表示になり、さらに指をタップすれば記事がグッと拡大表示されて見やすくなります。老眼で紙面の細かな文字が見えづらくなってきたワタシにとって、目の疲れを最小限に抑えて紙と同じレイアウトの紙面がストレスなく読めるのはありがたいと感じました。見開きの表示ができなかったり、拡大率を上げたり拡大位置を変更することはできず、荒削りな部分は散見されましたが、Apple Vision Proの特性を生かしたアプリとして評価したいと感じます。

日経空間版のアプリで朝刊の紙面を開いたところ。全面広告を含む紙面が目の前にズラリ表示され、視線を動かすと紙面が選択され、指でタップする動作をすればその面が拡大表示される。画像では表示が粗そうに見えるが、実際はもっと鮮明に見える

記事に視線を合わせて指でタップすれば、記事が明るく拡大表示され、紙の新聞よりも細かな文字が追いやすくなる

大きなインパクトを感じたのが、スポーツ中継のコンテンツ。メジャーリーグ「MLB」のアプリでは、中央の大きな中継画面に加えて現在のスコアや選手のデータ、配球の履歴など多くの情報をズラリ表示。バスケットボール「NBA」のアプリでは複数の画面が並び、異なる視点や他試合の状況も欲張りに楽しめます。ゴルフ「PGA Tour Vision」アプリでは、3Dで描かれたコースが手前に表示され、選手のショットの軌跡もリアルタイムに確認できます。F1などのモータースポーツの中継アプリが登場すれば、さらに面白くなりそう。いずれにしろ、Apple Vision Proでの新しい中継の形を体験すると、1つの画面しかない普通のテレビでの視聴がとても物足りなく感じるはずです。

大谷翔平効果で日本でも人気が高まるMLBのアプリ。とにかく情報量が多いのが特徴で、普通のテレビ中継が物足りなく感じる

NBAのアプリは、とにかく画面数の多さが特徴。メインの試合を大画面で堪能しながら、ほかの試合の様子もチェックできる

PGA Tour Visionのアプリ。3Dで描かれたコースが手前に表示され、ショットの軌跡やボールの位置をリアルに確認できる

3Dで撮影した映像もなかなかのインパクトでした。Apple TV+契約者なら無料で視聴できる「Apple Immersive Video」では、アーティストがスタジオで歌う様子が目の前で楽しめ、息づかいも伝わってくるようで大迫力でした。アーティストのライブや芝居も、この技術を使えば最前列よりも間近で見られるわけで、“推し活”に人生を賭けている人にとっては見逃せないアイテムになる可能性があります。

Apple TV+で見られるApple Immersive Videoは、3Dを生かした迫力のある表現がインパクト大。推しのアーティストのImmersive Videoが出たら、ファンなら絶対ハマりそう

エンターテインメント系のコンテンツでは、米MARVELの「What If...? An Immersive Story」が新鮮でした。映画とインタラクティブな要素が合わさった体験型のコンテンツで、まるで人気テーマパークのアトラクションに参加しているかのよう。待ち時間ゼロで体験できるだけでなく、体が悪かったりしてテーマパークに足を運べない人もリアルな体験ができるのは大きな可能性を感じます。

What If...?のワンシーン。画像では魅力がまったく伝わらないが、テーマパークのアトラクションのようなインタラクティブな体験ができる。登場人物が英語を用いるからか、現時点では日本のApp Storeではローンチされていないのがとても残念



【動画】What If...?の公式ショートムービー。1分を過ぎた後半から、このコンテンツの魅力が伝わるはず

先ほど、iPhoneやMacに接続しなくても使えると解説しましたが、Macと連携させればApple Vision ProをMacの外部ディスプレイとして使えます。連携はきわめてスマートで、ケーブルを接続する必要はなく、Apple Vision Proを装着して自分のMacを選ぶだけ。すると、目の前にMacの画面が現れ、物理的なディスプレイよりも大きく見やすい環境で作業できます。Parallels Desktopを導入していれば、Windowsの画面も表示できました。次期バージョンのvisionOS 2では、さらにワイドな表示にできるので、より作業効率が高まりそうです。机上のスペースを専有する大きな外付けディスプレイは、もう必要なくなるかもしれません。

左にあるMacBook Proの画面をApple Vision Pro内に表示したところ。表示はもっと大きくできるので、作業の効率はてきめんに高くなる。作業中の画面を周りの人に見られないメリットも

MacにParallels Desktopを導入していれば、Windowsの画面も映し出せる

装着感は快適だが、時間が経つと重さが気になった

試用していて気になる点もいくつか発見しました。その1つが「専用アプリの少なさ」。現状では、あのYouTubeもアプリが存在しないなど、Apple Vision Pro用アプリはまだまだ発展途上といえます。さらに、米国のアカウントなら入手できるものの、日本のアカウントではまだ入手できないアプリも意外に多いと感じました。日本での販売を受け、日本でも続々とリリースされると思われますが、米国並みの充実には少し時間がかかりそうです。

600gを超える重さも気になったポイント。1時間ほど使っているとだんだん重さが気になり、外してみるとオデコのあたりが少ししびれた感覚になっていました。標準で2種類のバンドが付属するので交換しつつ使ってみましたが、大きな変化は感じられませんでした。個人差はあると思いますが、事前の試用で重さはしっかり確認した方がよいでしょう。

最大の壁は、やはり60万円近い価格。24回の分割払いも用意していますが、それでも毎月25,000円の支払いは大きな出費です。iPhoneのように、2年後の返却を前提に月々の支払いを抑えられる購入方法があるといいなと感じます。

当面買う気のない人も、まずはストアで体験してほしい

Apple Vision Pro、アプリのラインナップや価格などの課題があるため、アプリ開発など仕事ですぐに必要という人でなければ、少し待ってみるのも悪くないでしょう。3〜4カ月も経てば、Apple Vision Pro対応アプリやサービスもグンと充実してくるはずなので、その段階で改めて購入を検討すればよいと思います。

しかし、Apple Vision Proがもたらす空間コンピューティングの新しい体験は、買う買わないにかかわらず誰でも一度は試してほしいと感じます。文章と画像でまとめた今回の記事では、Apple Vision Proの魅力の1割も伝わらないと思うからです。特に、エンターテインメント系のコンテンツは現時点でもそこそこ充実しているうえに驚きも感じられるので、体験する価値はあります。

全国のアップルストアでは、専任スタッフのレクチャー付きでApple Vision Proが30分ほど体験できます。事前にWebで予約する必要はありますが、もちろん料金はかかりません。すでに、どのストアも土日の予約は埋まっており、平日も取りにくくなっています。いち早く体験した人からの「思っていた以上にすごかったから一度試してみなよ」という口コミが広がり、この夏「Apple Vision Proの体験」がちょっとしたブームになる可能性もありそうです。

Apple Vision Proの世界はぜひ多くの人に体験してほしい。エアコンの効いたストアで涼みながら体験、がこの夏のトレンドになるかも