長年にわたって人類を悩ませ続けている感染症「結核」が広がる要因とは?
中世から近世にかけて大流行し、多くの人間を死に至らしめた恐ろしい病が「ペスト」です。ペストは適切な治療が行われなかった場合、死亡率がほぼ100%に達するなど、危険な感染症として知られていますが、現代では医療技術の発展により、毎年の死亡者数は2000人程度に抑えられています。しかし、結核は現代でも1年間で百数十万人が死亡しており、医療における脅威となっています。そんな結核について、科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtが解説しています。
結核は医療技術が発展した現代でも、感染症による死亡の原因の第一位を占めており、1815年のイギリスでは4人に1人が結核で死亡したほか、過去200年では結核で約10億人が死亡したことが報告されています。
Kurzgesagtによると、現代に生きる我々の4人に1人が結核菌に感染しているとのこと。しかし、「結核に感染した」という報告を聞くことはほとんどありません。
その理由は、結核菌は感染力が非常に強く、人間の免疫システムに完璧に適応していることにあります。
通常、細菌は気道から体内に侵入し、肺に住み着きます。
肺は何十億ものマクロファージで守られており、結核菌を含む細菌は生きたままマクロファージに食い殺されることになります。
しかし、これが結核菌の戦略です。マクロファージは発見した細菌をファゴソームの中に閉じ込め、酸で溶かす働きがあります。これに対し結核菌は自身の被膜を進化させることで、酸に対して完全な抵抗性を持つようになりました。
そして結核菌は逆にマクロファージを捕獲し、自身の宿主となるように改造します。
その後、結核菌は人間に病気をもたらすほかの微生物の60分の1というかなり遅いスピードで増殖。このスピードにより免疫システムに発見されることなく結核菌は体内で徐々に増加することになります
結核菌に感染したからといって、すぐに症状が現れるわけではありません。しかし、体内の免疫システムが結核菌の感染を抑えられなくなると、肉芽腫が破裂し、肺にマクロファージの死骸と元気な結核菌が広がります。
その結果、体内の免疫システムはパニックに陥り、感染部位を攻撃。
結核菌などを一掃しようとして攻撃した結果、肺炎や呼吸困難、吐血、高熱などの症状が現れます。
結核の症状は医療機関で治療を受けたとしても数週間から数カ月程度持続するほか、治療が不十分な場合、数カ月〜数十年単位で徐々に体をむしばんでいきます。
致命的なダメージを受けた結核患者は最終的に肺機能が破壊され、死亡に至ります。実際に、2023年だけで全世界で130万人が結核によって死亡したとのこと。
結核の恐ろしい点はその感染力です。2020年に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを引き起こした新型コロナウイルスでは、1人の患者が感染させる人数はおよそ2〜3人と言われている一方、結核患者は1年間で5〜15人に感染させるそうです。
その多くが咳やくしゃみによる飛沫(ひまつ)感染と考えられています。
結核の感染は混雑した場所や換気の悪い住宅や職場で広がることが多く、産業革命の時代には、劣悪な都市環境によって結核が大規模に広がりました。
現代では、4カ月にわたって4種類の抗生物質を服用することで結核を完治させることが可能です。
これらの治療薬は1940年から1965年の間に開発されましたが、全世界での治療薬の流通を成し遂げることはできませんでした。現代でも、全結核患者のうち3分の2がインドや中国、インドネシア、パキスタンなどの国に住んでいるとのこと。
さらに、結核は気候変動と同様に、ゆっくりと進行する問題であるため、積極的に闘うことなく無視され続けてきました。その結果、近年では結核菌は抗生物質への耐性を持つようになりました。
にもかかわらず、1965年以降、結核に対する新薬はほとんど開発されていません。
Kurzgesagtは「結核について多くの人々に知ってもらい、関心を持ってもらうことで結核を地球上から根絶できるはずです」と主張しています。