マンション前には、建設反対の看板も

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 一橋大学を擁する国立市は1952年に東京都初の文教地区に指定されて以降、住民により景観が守られてきた。そんな自治体で引き渡し間近だったマンションの解体を、大手住宅メーカーの積水ハウスが発表した。異例の決定に至った本当の理由を探ってみると……。

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【写真を見る】奥に富士山が見える「絶景」! 地元住民が誇る富士見通り

 JR国立駅周辺には、パチンコ店など娯楽系の店舗がほぼ存在しない。品位ある学園都市の国立市は、住民によってその美しき景観が守られてきたからだ。

 中でもJR国立駅南口を起点に延びる「富士見通り」から眺める富士山は、国交省が「関東の富士見百景」の一つに選定しているほど絶景で、かねて地元民の誇りであった。

マンション前には、建設反対の看板も

「しかし、積水ハウスが21年2月、その富士山の眺望を遮るマンションの建設計画を発表したのです。これに対して地域住民は『国立市まちづくり条例』に基づき市に間に入ってもらうなどして、積水ハウス側と協議を重ねましたが、おおむね要望を聞き入れてもらえなかった。結局、23年1月に着工し、すでにいくつかの部屋が成約済みとなり、今年7月には引き渡される予定でした」(経済誌記者)

不動産業界に衝撃が

 完成間近だった当該物件は富士見通り沿いの地上10階建て。7000万〜8000万円台を中心に全18戸が用意されていたが、

「突然、積水ハウスが今月4日付で市に対して、事業中止とマンションの解体を届け出たのです。引き渡し間近での事業中止は極めて異例で、不動産業界に衝撃が走りました」(同)

 積水ハウスは11日、この決定の理由を〈富士山の眺望に与える影響を再認識し、改めて本社各部門を交えた広範囲な協議を行いました〉と説明した。企業理念に「人間愛」を掲げるゆえの決定とも見えるが、今さらの感は否めない。

 国立市議会議員の小川ひろみ氏はこう語る。

「昨年末、一橋大学の竹内幹准教授が自身のXに、建設が進んだマンションによって富士山が遮られてしまった様子をかつての眺望と比較できるように、2枚の写真を並べて投稿しました。ショッキングだったこの画像はほどなくしてSNSで広がり、日本中から積水ハウスに批判や苦情が殺到したのです」

採算ライン

 つまり、積水ハウスが〈眺望に与える影響を再認識し〉たのは事実かもしれないが、それは決して地元の声を聞いた結果ではなく、単にSNSで悪評が広まったからであろう。

 また、協議に参加したさる地域住民が言うには、

「着工前、われわれは“高さを7階建てに抑えてほしい”とお願いしたのですが、積水ハウス側は“それだと全12戸になってしまい採算がとれない”と反論し、最終的に10階建ての計画を強行してきました」

 これは、当該物件が何階建てなのかはさて置き、販売数が12戸だと採算ラインを割ってしまうという目安を示しているが、

「SNSで反対運動が盛り上がった影響で売れ行きが滞り、直近でも18戸のうち12戸しか成約していなかったようです。よって、積水ハウスとしては“このままでは商売上のうまみがなく、販売を継続したところで中長期的なレピュテーションリスクのほうが大きい”と判断し、事業を中止したのだと思われます」(同)

 ブランドを傷つけないための土壇場での英断ということらしい。

週刊新潮」2024年6月27日号 掲載