サクソフォーン奏者・大和田雅洋にインタビュー 「集大成」と語るコンサート『大和田雅洋と吹奏楽』にかける想いとは

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昨年、サクソフォーン奏者としてデビュー25周年を迎えた大和田雅洋。演奏活動自体は40年を超える長いキャリアを誇り、また洗足学園音楽大学で30年も教鞭を執り後進を育成し続けている。
そんな大和田が、2024年6月28日(金)神奈川県立音楽堂(神奈川県横浜市)で、自身の“集大成”と銘打つコンサートを開催する。題して『大和田雅洋と吹奏楽~サクソフォニストとして、コンダクターとして~』。今回のコンサートにかける想いや、自身のキャリアについて、話を聞いた。

ーー『大和田雅洋と吹奏楽~サクソフォニストとして、コンダクターとして』という公演名にはどういう意味が込められているのでしょうか?

サクソフォーン奏者としてデビューした後、洗足学園大学の教員になり、高校や大学の吹奏楽部の指導をしたりと、いつの間にか「指揮者」としての活動がメインに見えるようになっていました。そのキャリアには誇りがありますが、やっぱり「僕はサクソフォーン奏者だ」という矜持があります。指揮もやりたい、サックスもやりたい。とうことで、『大和田と吹奏楽』というタイトルの後に両方並べてみたわけです。

ーー今回、大和田さんが指揮し、共演されるのは「オオワダ・シンフォニックバンド」です。ご自身の名前がついていらっしゃいますね。どういった楽団なのでしょうか?

このバンドは、アニメ『響け!ユーフォニアム』の劇伴を演奏している「プログレッシブ!ウインド・オーケストラ」のメンバーがメインで参加してくれています。彼らは主に、僕が教授を務めている洗足学園音楽大学の1年生のみで結成される「フレッシュマン・ウインド・アンサンブル」出身です。メンバーはもう大学を卒業してプロ活動をしているわけですが、長い付き合いなので家族のようなものです。いてくれないと困るような関係にまでなりました。
「オオワダ・シンフォニックバンド」という名前は、実はこの前に「大和田交響吹奏楽団」という案もあったんですが、ちょっと堅すぎますよね?どうも違うなと思って、ガラっとカタカナに変えたらシックリきました。メンバー達もけっこう気に入ってくれているみたいです。

ーー今回の演奏会で司会を務められるのは、女優・声優の黒沢ともよさんですが、どういう経緯で決まったのですか?

僕、彼女の声も明るさも大好きなんです。今回のプログラムは邦人作曲家ばかりなので堅く見えるかもしれませんが、黒沢さんはそれを和らげてくれると思います。
黒沢さんとは2月に開催した『響け!』のコンサートの時にご一緒したのですが、「僕の演奏会の司会は無理ですよね?」って聞いたら「大丈夫ですよー」って軽く返事してくれたので、逆に僕のほうが「えー?!」って(笑)もちろん後から事務所に正式オファーをさせて頂きましたが、黒沢さんと僕とのトークもありますし、黒沢さんが演奏会を華やかに彩ってくれるのを楽しみにしています。

ーーそれでは、今回のプログラムについてうかがっていきます。演奏される曲は全て邦人作品ですね。吹奏楽のコンサートで外国人作曲家の作品が無いのは珍しいと思いますが、選曲の意図や、曲の内容について教えてください。

今回は敢えて邦人作品にこだわりました。プログラム前半は「古典名曲」、後半は「吹奏楽の今」、という構成です。今の中高生にとって、邦人作品は自分のコンクールの課題曲くらいしか知らないかもしれませんが、名曲はたくさんあるという事を知ってもらいたいと思っています。
たとえば、一曲目に演奏する廣瀬量平の《祝典音楽》は、世に《祝典序曲》といった曲がたくさんある中、今めったに演奏されません。YouTubeで聴く事ができますが、動画は全くヒットしていない(笑)でも名曲には違いなく、この機会にぜひ演奏したいと思いました。
《ベリーを摘んだらダンスにしよう》は1994年の吹奏楽コンクール課題曲ですが、僕が大好きな曲なんです。今の課題曲にはない斬新な響きとか、ミニマル・ミュージックのようなダンス的な要素が続いていくこととか。当時教えに行っていた高校の吹奏楽部員たちと苦労して創り上げていった思い出の曲ですが、今回の演奏会で一緒に演奏する「オオワダ・シンフォニックバンド」はプロなので、彼らとだったらどんな演奏になるかやってみたかったんです。

ーー今回の演奏会、最大の目玉が、サクソフォーン協奏曲の世界初演だと思います。作曲は松田彬人さん。松田さんに委嘱された経緯を教えてください。

吹奏楽で自分がソリストとして演奏する協奏曲の新曲というのは、実は僕自身も初めての経験です。
松田彬人さんは、僕も携わっているアニメ『響け!ユーフォニアム』シリーズの劇中曲全曲を書いています。作曲家としては物凄くセンスの良い方で、松田さんとは10年くらい一緒に仕事をしていますが、「この人はサックスのための曲を書ける貴重な人だな」と常々思っていました。それで、今回いきなり「コンチェルトを書いてくれない?」と頼んだところ、快諾してくださったんです。
彼は主にアニメやゲームの音楽を手掛けていますが、吹奏楽もオーケストラも書けますし、メロディーメーカーなんです。今回の協奏曲≪El Dorado≫も本当に素晴らしい曲に仕上げてくださって、歌わせるメロディーに惚れ込んで練習しています。

ーー≪El Dorado≫がどういう作品か、もう少し教えてください。

サックスは誕生して200年くらいの新しい部類の楽器ですから、オリジナル曲はいわゆる現代音楽の委嘱作品ばっかりなんです。でも今回の≪El Dorado≫は、新しい作品だけどちゃんと和声が考えられていたり、三楽章形式になっていますが、各楽章の物語が音楽で表現されていることがよくわかります。第3楽章なんて“スペース・ファンタジー”と言えるくらい壮大な曲ですよ。

ーー≪El Dorado≫の初演に向けて、ソリストとして意気込みをお聞かせください。

日本初演というより「世界初演」となる曲が含まれた吹奏楽コンサートは本当に珍しいので、気合を入れていきますね!
……と、意気込みは満々なんですけど、もう緊張してきた(笑)。でも頑張りますよ。僕自身がすごく楽しみにしています。

ーーところで、大和田さんは「演奏者」「指揮者」「教育者」の三つの顔をお持ちで、どの分野でも活躍されていらっしゃいますよね。ご本人的にはどの活動をメインで考えていますか?

それはね、11歳からやってるコイツ(サックス)ですよ。大学もコイツが専門だったし、今持ってる楽器はアドルフ・サックス国際コンクールを共にした思い出深い楽器なんです。使い始めて30年以上も経っていますが、結構きれいでしょう?
僕自身は「演奏者」だと思っていますが、なぜか仕事は「指揮者」「教育者」が7~8割になっているような気がします。教員生活は30年に及びますしね。自分が育ててきた生徒はやっぱり可愛くてしょうがない。それに30年もやってると、日本中に僕の弟子がいたりして、それって自分の宝だと思うんですよ。やっぱり人と人の繋がりは一番大事で、特に音楽は一人では絶対できませんし、いつか僕が楽器を吹けなくなっても、サックスを通じて出会った人たちとは繋がり続けていたいと思います。

ーー今回の演奏会は大和田さんにとっての「集大成」とのことですが、「演奏者」「指揮者」「教育者」のどれの「集大成」なのでしょうか?

この三つすべてですね。ソリストとして協奏曲を演奏しますし、指揮もする。バンドメンバーには自分の教え子が集まっている。僕のこれまでの活動の全てが詰まっているといえます。こんな大きな規模のコンサートは初めてで、もう出来ないかもしれません。
でも、今後もコンサートは大なり小なり予定しています。老人ホームでの演奏やアウトリーチなんかも含めて。
やっぱり僕は「演奏者」なので、楽器を衰えさせたくないんですよ。だから、どんなに小さい会場でも、お客様が少なくても、「サックスを演奏し続けていきたい」と思っています。


大和田雅洋プロフィール

宮城県出身。1990年東京藝術大学入学、同年第7回日本管打楽器コンクール第2位受賞。1994年第1回アドルフ・サックス国際コンクール第5位受賞。1996年東京藝術大学大学院修士課程修了。1998年デビューリサイタルを浜離宮朝日ホールにて開催し好評を博す。2000年第12回ワールド・サクソフォーン・コングレスに出演し、啼鵬作曲《フォー・カラーズ》を世界初演する。
2015年より放送開始したアニメ『響け!ユーフォニアム』全シリーズ、映画『リズと青い鳥』の音楽監修・吹奏楽監修および指揮者を務める。劇中演奏シーンやサウンドトラック、効果音に至るまでの全録音、監修に携わっている。
現在、洗足学園音楽大学教授。『響け!ユーフォニアム』公式吹奏楽団であるプログレッシブ!ウインドオーケストラ指揮者、Wind Orchestra RESOUND 常任指揮者・音楽監督、みやひろウインドアンサンブル音楽監督兼指揮者、グラールウインドオーケストラ・トレーナー、日本サクソフォーン協会運営委員、セルマー・アーティスト、バンドーレン・アーティスト。