『アンメット』はなぜ“リアル”なのか――9話ラストの初挑戦、手術シーン誕生秘話をPが語る
●杉咲花の芝居を引き出す役者・若葉竜也
女優の杉咲花が主演を務めるカンテレ・フジテレビ系ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(毎週月曜22:00〜)が大きな反響を呼んでいる。「こんなドラマ初めて」「演技リアルすぎ」「最強の役者陣」「手術シーンが素晴らし過ぎる」――Xでは絶賛の声が相次ぎ、何度も世界トレンド1位を獲得。評判が評判を呼び、視聴率も回を重ねるごとに右肩上がりだ。
残すところ2話、きょう17日放送の第10話を目前にカンテレの米田孝プロデューサーにインタビュー。杉咲の芝居を最大限に引き出す環境作り、民放連ドラへの出演が珍しい若葉竜也を起用した理由、過剰な演出のない手術シーンへのこだわり、米田Pにとっても“初めての体験”となった撮影秘話など、『アンメット』の魅力の秘密をたっぷりと聞いた。
ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』で主演を務める杉咲花=カンテレ提供
○『アンメット』Netflixでも毎週上位に
――大きな反響を呼んでいる『アンメット』ですが、これほど評価される作品になるという手応えは、制作過程ですでに感じていたのでしょうか。
ありがとうございます。どんな作品も、自分たちはいいものを作っていると信じて取り組んでいますが、実際に評価されるかは世に放ってみないと分からないんです。『アンメット』も、1話放送時にSNSの感想をリアルタイムで追いながら「ああ、届いてるんだな」と、徐々に感触を得たと思います。
――視聴率も右肩上がりですが、今作はNetflixで視聴している方も多いと感じます。
おかげさまで、毎週配信直後にはNetflixのランキング上位に入っています。日本のドラマを作っている人間としては、世界のドラマに負けたくないと、制作過程からあの棚に並ぶということも意識の片隅にはありました。
○三瓶役・若葉竜也起用のきっかけ
――今作でおそらく一番話題をさらっているのは、三瓶役の若葉竜也さんです。最近は、民放の連続ドラマにレギュラー出演することはほとんどなかった若葉さんですが、起用の理由は。
いろいろなところで聞かれているので、もし一貫性がなかったら申し訳ないのですが(笑)、そもそもキャスティングには、詳細な理由があまりないんです。シンプルに「三瓶役として、ベストな俳優だと思ったから」というだけ。地上派にあまり出ていなくて、映画界で活躍している俳優を呼びたいとか、そんなねらいでは全くなくて。ただ、主演の杉咲さんだけが決まっている時点で、キャスティング、スタッフィング、脚本、撮影方法すべてで「杉咲花のお芝居を最大限に引き出せる環境を作ること」、それこそが「『アンメット』が素晴らしい作品になること」だと考えていました。二人のお芝居、特に『おちょやん』(20年、NHK)を見ていると、やりとりをずっと見ていられるというか、信頼関係が伝わってきて。杉咲さんとの組み合わせに魅力を感じたことは、大きな理由の一つでした。
――若葉さんにオファーする際は、どんな思いを伝えましたか。
後から若葉さんに「そういえば、あの話が刺さったかも」と言われたのは、「僕は10年ほどテレビドラマに携わってきましたが、昨今のエンターテインメントの変化を見据えて考えると、これまで考えてきたテレビドラマのセオリーや、制作過程みたいなものはすべて一旦置いておいて、ただ『アンメット』という作品を素晴らしいものにするという原点に立ち返って、そのために何ができるのか、いろんなことにとらわれずに考えていきたい」という話です。
若葉さんは、民放テレビドラマのスピード感ややり方が自分の体になじむのか、どんな座組で脚本が作られていくのかを気にしていたので、脚本はもちろん、いろんなことを一緒に話し合いながら作っていこうと伝えました。そのうえで僕らスタッフも、「俳優がこう言っているからそうします」というつもりは全くなくて、いい作品にするために、お互いの良い意見を採り入れて、疑問が生まれれば納得がいくまで議論をしたいと話しました。
――若葉さんからは、カメラは何を何台使うのか、フレームレートはどうするのかと、細部まで質問されたとか。プロデューサーとして「叶えられるだろうか」と不安に感じたことは。
最初から、時間も予算も有限だから、無理なものは無理。だからその中でのベストを追求しようと伝えているし、そこを理解してくれない方では全くないので、不安はなかったです。思っていることは全部ぶつけてくれと言った通りに、いい話し合いをずっと続けてこられたと自負しています。
●手術シーン、第9話ラストの長回し…リアル生む工夫
○ミヤビたちが世界のどこかに生きているリアルを
――『アンメット』は準備期間も非常に長く、昨年の9月頃から、1回につき8時間ぐらいかけて、杉咲さんや若葉さん、監督たちとミーティングを重ねてきたとのことですが、そのなかで『アンメット』を作るうえでこれは大事にしようと決めたことはありますか。
杉咲さんはよく、視聴者の方が自分を投影できるような登場人物たちであってほしい、実際に自分たちが生きているこの世界のどこかに、地続きでミヤビたちが生きているような感覚を持ってもらいたいと言っていて。その思いを受けて、どんな脚本、台詞にすればそれを表現できるのかを話し合う場面が多かったかもしれません。ドラマである以上、視聴者の方に情報をちゃんと理解していただかないと話が進んでいかないのですが、“説明台詞”って、役者にとっては今自分は誰に向かって話しているんだろうと違和感を持ってしまうし、医者同士で、医者じゃない誰かに聞かせるための台詞が出てくるだけで、一気にリアリティが失われてしまう。でも説明しなきゃ成り立たないし、どうバランスを取ろうかとたくさん議論しました。そこも含めて、『アンメット』は登場人物も多く、一本の線にまとめて構成していくのが本当に難しく、複雑な作品。ここまで世界観をしっかりと構築して、緻密な構成の脚本にしてくれたのは、完全に脚本家の篠崎絵里子さん(崎はたつさき)の力です。
○静かな手術シーンが生まれたきっかけ
――説明台詞以外が少ないという点は、手術シーンにも表れていると感じます。目のアップ、手のアップ、時計の音、といったシンプルな情報で構成された静かな手術シーンは、これまで多くのドラマで描かれてきた疾走感あふれるダイナミックな手術シーンとは全く違った演出だという印象を受けました。あの手術シーンはどのように生まれたのでしょうか。
まず、『アンメット』は「手術して何かが変わって、すごく良くなった」という変化を描くドラマではないから、手術シーンがエピソードの見せ場、盛り上がりのピークに見せたくないという前提があります。そのうえでどう演出するのかは一つの課題でしたが、昨年末頃、手技の練習のために監修でお世話になっている病院に行ったら、「今手術が入ったから、見学する?」と先生が言ってくださって。人数に制限があったので、僕は見られなくて、杉咲さんと若葉さんと監督が見学したのですが、もう、目からウロコを落として帰ってきました。僕らがこれまで数々のドラマや映画で見てきたイメージで、一言も交わせないくらいの緊張感がずっと続く空間なのかと思いきや、もちろん集中力がグッと高まる瞬間もありますが、役割によっては世間話をしているようなリラックスした時間もあったらしく。監修の先生から「実際はこんな感じなんだよ」と話を聞いていたものの、3人は自分の目でつぶさに見て衝撃を受けたようで、『アンメット』の手術シーンの方向性が決まる大きなきっかけになりました。実際に5話や7話で、準備をしながら餃子の話や他愛もない世間話をするやりとりを入れてみたのですが、これまでにあまり見たことのない、リアルなシーンになったんじゃないかと思います。
――あのやりとりでは、野呂(佳代)さん演じる成増先生がとてもいい味を出していました。
本当は、ミヤビの脳外科医としての手技がすごく速くて上手だということをもっと表現したいんですけど、野呂さんと千葉(雄大)さんの“目”に頼っています(笑)。手術シーンといえば、7話の嗅神経を剥がして腫瘍を切除するシーンで、「“一番”見えました」というミヤビの台詞があって。脳外科医の先生は嗅神経を「一番神経」と呼んでいると聞いて、じゃあ当然ミヤビもそう言うよねということで取り入れました。嗅神経を剥がすことはちゃんと説明したから、視聴者も「一番って何?」と集中力が途切れることにはならないんじゃないかと信じて、やってみようと。リアリティにこだわりながらも、視聴者を置いてけぼりにしないよう、不親切になりすぎないように、紙一重なのですがバランスを取りながら演出しています。
手術シーン撮影の様子
○第9話ラストは最大の挑戦だった
――リアリティといえば、先週10日に放送された9話の、杉咲さんと若葉さんの長回しのラストシーンも、「ドキュメンタリーのようだった」と話題を呼んでいます。あのシーンはどのように生まれたのでしょうか。
あのシーンは、『アンメット』最大の挑戦だったのではないかと思います。もちろんほとんどの台詞は脚本に沿っていますが、「アリを見ていた」など三瓶の子ども時代の話は、二人の会話をより自然で感情豊かなものにするために、台詞ではなく、脚本の篠崎さんが作ったいくつかのエピソードや情報を若葉さんに預けて、本番のときの感情で選んで話してもらいました。もちろん初めての試みでしたが、お芝居がリアリティを帯びる大きな助けになったと思います。また、撮影は一発勝負の長回しで、役者二人もスタッフも、とてつもない緊張感の中にいました。プロデューサーとしては、全員が最高のシーンを撮るために集中しているリハーサルの光景にも、実際に撮れたシーンと同じくらいの感動を覚えました。
●民放連ドラでは異例の機材や制作陣が集結
○配信作品にも負けない“生っぽい質感”の創出
――9話ラストが「初めての試み」だったとのことですが、ほかにも、これまでもドラマをプロデュースしてきた米田さんが『アンメット』で初めて挑戦していることがあれば教えてください。
たくさんありますが、「ALEXA35」という、とてもいいカメラを使っていることもその一つです。本来、民放連ドラでなかなか使えるようなものではなく、映画でも最高峰レベルの機材で。「一番いい画を撮るために何ができるか」とスタッフィングとともに模索するなかで、Yuki Saito監督(ドラマ『おっさんずラブ』など)をはじめとするいろいろな方のつながりをたどって、Yohei Tateishiさん(映画『OUT』など)という映画畑で活躍されている撮影監督や、ALEXA 35というカメラにたどり着くことができて。
――予算は大丈夫だったのでしょうか。
日々ハラハラしています(笑)。
――(笑)。なかなかない色味や風合いになっていると素人の私でも感じるのですが、ALEXA 35を使うことで、どんな画が撮れるのでしょうか。
今回の作品においては、他のカメラでは撮れない、生っぽい質感が生まれて、『アンメット』の世界観を手助けしてくれています。カメラを活かす照明がないと宝の持ち腐れになってしまうのですが、照明部には、川邊隆之さん(映画『シン・ゴジラ』など)という方に来ていただけました。まさに体験したことのないスタッフの座組で、こんなすごい方々が、まさか民放連ドラの中でも、決して大規模な予算とは言えないカンテレのドラマに参加してくださるなんて、と。見たことのない画がたくさん撮れて、配信のウインドウに並んでも負けない作品になったと思います。
――きょう17日には、10話が放送されます。見どころを教えてください。
ゲスト患者を迎えるのは10話が最後なのですが、脳腫瘍のなかで最も悪性の強いグリオブラストーマを患う、『アンメット』では初めて命に期限のある患者さんとミヤビが向き合っていきます。患者さんご夫婦の思いと、ミヤビの気持ちがリンクするエピソードになっているので、ミヤビの医者としてのあり方、三瓶との関係性に注目していただければと思います。
カンテレ 米田孝プロデューサー
■カンテレ米田孝プロデューサー
2004年4月、カンテレ入社。事業部、制作部、営業部を経て、現在はコンテンツ統括本部 制作局 制作部 部次長を務める。代表作にドラマ『僕たちがやりました』(17)、『健康で文化的な最低限度の生活』(18)、『まだ結婚できない男』(19)、『竜の道 二つの顔の復讐者』(20)、『エ・キ・ス・ト・ラ!!!』(20)、『エージェントファミリー 〜我が家の特殊任務〜』(21)、『恋なんて、本気でやってどうするの?』(22)など。
女優の杉咲花が主演を務めるカンテレ・フジテレビ系ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(毎週月曜22:00〜)が大きな反響を呼んでいる。「こんなドラマ初めて」「演技リアルすぎ」「最強の役者陣」「手術シーンが素晴らし過ぎる」――Xでは絶賛の声が相次ぎ、何度も世界トレンド1位を獲得。評判が評判を呼び、視聴率も回を重ねるごとに右肩上がりだ。
ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』で主演を務める杉咲花=カンテレ提供
○『アンメット』Netflixでも毎週上位に
――大きな反響を呼んでいる『アンメット』ですが、これほど評価される作品になるという手応えは、制作過程ですでに感じていたのでしょうか。
ありがとうございます。どんな作品も、自分たちはいいものを作っていると信じて取り組んでいますが、実際に評価されるかは世に放ってみないと分からないんです。『アンメット』も、1話放送時にSNSの感想をリアルタイムで追いながら「ああ、届いてるんだな」と、徐々に感触を得たと思います。
――視聴率も右肩上がりですが、今作はNetflixで視聴している方も多いと感じます。
おかげさまで、毎週配信直後にはNetflixのランキング上位に入っています。日本のドラマを作っている人間としては、世界のドラマに負けたくないと、制作過程からあの棚に並ぶということも意識の片隅にはありました。
○三瓶役・若葉竜也起用のきっかけ
――今作でおそらく一番話題をさらっているのは、三瓶役の若葉竜也さんです。最近は、民放の連続ドラマにレギュラー出演することはほとんどなかった若葉さんですが、起用の理由は。
いろいろなところで聞かれているので、もし一貫性がなかったら申し訳ないのですが(笑)、そもそもキャスティングには、詳細な理由があまりないんです。シンプルに「三瓶役として、ベストな俳優だと思ったから」というだけ。地上派にあまり出ていなくて、映画界で活躍している俳優を呼びたいとか、そんなねらいでは全くなくて。ただ、主演の杉咲さんだけが決まっている時点で、キャスティング、スタッフィング、脚本、撮影方法すべてで「杉咲花のお芝居を最大限に引き出せる環境を作ること」、それこそが「『アンメット』が素晴らしい作品になること」だと考えていました。二人のお芝居、特に『おちょやん』(20年、NHK)を見ていると、やりとりをずっと見ていられるというか、信頼関係が伝わってきて。杉咲さんとの組み合わせに魅力を感じたことは、大きな理由の一つでした。
――若葉さんにオファーする際は、どんな思いを伝えましたか。
後から若葉さんに「そういえば、あの話が刺さったかも」と言われたのは、「僕は10年ほどテレビドラマに携わってきましたが、昨今のエンターテインメントの変化を見据えて考えると、これまで考えてきたテレビドラマのセオリーや、制作過程みたいなものはすべて一旦置いておいて、ただ『アンメット』という作品を素晴らしいものにするという原点に立ち返って、そのために何ができるのか、いろんなことにとらわれずに考えていきたい」という話です。
若葉さんは、民放テレビドラマのスピード感ややり方が自分の体になじむのか、どんな座組で脚本が作られていくのかを気にしていたので、脚本はもちろん、いろんなことを一緒に話し合いながら作っていこうと伝えました。そのうえで僕らスタッフも、「俳優がこう言っているからそうします」というつもりは全くなくて、いい作品にするために、お互いの良い意見を採り入れて、疑問が生まれれば納得がいくまで議論をしたいと話しました。
――若葉さんからは、カメラは何を何台使うのか、フレームレートはどうするのかと、細部まで質問されたとか。プロデューサーとして「叶えられるだろうか」と不安に感じたことは。
最初から、時間も予算も有限だから、無理なものは無理。だからその中でのベストを追求しようと伝えているし、そこを理解してくれない方では全くないので、不安はなかったです。思っていることは全部ぶつけてくれと言った通りに、いい話し合いをずっと続けてこられたと自負しています。
●手術シーン、第9話ラストの長回し…リアル生む工夫
○ミヤビたちが世界のどこかに生きているリアルを
――『アンメット』は準備期間も非常に長く、昨年の9月頃から、1回につき8時間ぐらいかけて、杉咲さんや若葉さん、監督たちとミーティングを重ねてきたとのことですが、そのなかで『アンメット』を作るうえでこれは大事にしようと決めたことはありますか。
杉咲さんはよく、視聴者の方が自分を投影できるような登場人物たちであってほしい、実際に自分たちが生きているこの世界のどこかに、地続きでミヤビたちが生きているような感覚を持ってもらいたいと言っていて。その思いを受けて、どんな脚本、台詞にすればそれを表現できるのかを話し合う場面が多かったかもしれません。ドラマである以上、視聴者の方に情報をちゃんと理解していただかないと話が進んでいかないのですが、“説明台詞”って、役者にとっては今自分は誰に向かって話しているんだろうと違和感を持ってしまうし、医者同士で、医者じゃない誰かに聞かせるための台詞が出てくるだけで、一気にリアリティが失われてしまう。でも説明しなきゃ成り立たないし、どうバランスを取ろうかとたくさん議論しました。そこも含めて、『アンメット』は登場人物も多く、一本の線にまとめて構成していくのが本当に難しく、複雑な作品。ここまで世界観をしっかりと構築して、緻密な構成の脚本にしてくれたのは、完全に脚本家の篠崎絵里子さん(崎はたつさき)の力です。
○静かな手術シーンが生まれたきっかけ
――説明台詞以外が少ないという点は、手術シーンにも表れていると感じます。目のアップ、手のアップ、時計の音、といったシンプルな情報で構成された静かな手術シーンは、これまで多くのドラマで描かれてきた疾走感あふれるダイナミックな手術シーンとは全く違った演出だという印象を受けました。あの手術シーンはどのように生まれたのでしょうか。
まず、『アンメット』は「手術して何かが変わって、すごく良くなった」という変化を描くドラマではないから、手術シーンがエピソードの見せ場、盛り上がりのピークに見せたくないという前提があります。そのうえでどう演出するのかは一つの課題でしたが、昨年末頃、手技の練習のために監修でお世話になっている病院に行ったら、「今手術が入ったから、見学する?」と先生が言ってくださって。人数に制限があったので、僕は見られなくて、杉咲さんと若葉さんと監督が見学したのですが、もう、目からウロコを落として帰ってきました。僕らがこれまで数々のドラマや映画で見てきたイメージで、一言も交わせないくらいの緊張感がずっと続く空間なのかと思いきや、もちろん集中力がグッと高まる瞬間もありますが、役割によっては世間話をしているようなリラックスした時間もあったらしく。監修の先生から「実際はこんな感じなんだよ」と話を聞いていたものの、3人は自分の目でつぶさに見て衝撃を受けたようで、『アンメット』の手術シーンの方向性が決まる大きなきっかけになりました。実際に5話や7話で、準備をしながら餃子の話や他愛もない世間話をするやりとりを入れてみたのですが、これまでにあまり見たことのない、リアルなシーンになったんじゃないかと思います。
――あのやりとりでは、野呂(佳代)さん演じる成増先生がとてもいい味を出していました。
本当は、ミヤビの脳外科医としての手技がすごく速くて上手だということをもっと表現したいんですけど、野呂さんと千葉(雄大)さんの“目”に頼っています(笑)。手術シーンといえば、7話の嗅神経を剥がして腫瘍を切除するシーンで、「“一番”見えました」というミヤビの台詞があって。脳外科医の先生は嗅神経を「一番神経」と呼んでいると聞いて、じゃあ当然ミヤビもそう言うよねということで取り入れました。嗅神経を剥がすことはちゃんと説明したから、視聴者も「一番って何?」と集中力が途切れることにはならないんじゃないかと信じて、やってみようと。リアリティにこだわりながらも、視聴者を置いてけぼりにしないよう、不親切になりすぎないように、紙一重なのですがバランスを取りながら演出しています。
手術シーン撮影の様子
○第9話ラストは最大の挑戦だった
――リアリティといえば、先週10日に放送された9話の、杉咲さんと若葉さんの長回しのラストシーンも、「ドキュメンタリーのようだった」と話題を呼んでいます。あのシーンはどのように生まれたのでしょうか。
あのシーンは、『アンメット』最大の挑戦だったのではないかと思います。もちろんほとんどの台詞は脚本に沿っていますが、「アリを見ていた」など三瓶の子ども時代の話は、二人の会話をより自然で感情豊かなものにするために、台詞ではなく、脚本の篠崎さんが作ったいくつかのエピソードや情報を若葉さんに預けて、本番のときの感情で選んで話してもらいました。もちろん初めての試みでしたが、お芝居がリアリティを帯びる大きな助けになったと思います。また、撮影は一発勝負の長回しで、役者二人もスタッフも、とてつもない緊張感の中にいました。プロデューサーとしては、全員が最高のシーンを撮るために集中しているリハーサルの光景にも、実際に撮れたシーンと同じくらいの感動を覚えました。
●民放連ドラでは異例の機材や制作陣が集結
○配信作品にも負けない“生っぽい質感”の創出
――9話ラストが「初めての試み」だったとのことですが、ほかにも、これまでもドラマをプロデュースしてきた米田さんが『アンメット』で初めて挑戦していることがあれば教えてください。
たくさんありますが、「ALEXA35」という、とてもいいカメラを使っていることもその一つです。本来、民放連ドラでなかなか使えるようなものではなく、映画でも最高峰レベルの機材で。「一番いい画を撮るために何ができるか」とスタッフィングとともに模索するなかで、Yuki Saito監督(ドラマ『おっさんずラブ』など)をはじめとするいろいろな方のつながりをたどって、Yohei Tateishiさん(映画『OUT』など)という映画畑で活躍されている撮影監督や、ALEXA 35というカメラにたどり着くことができて。
――予算は大丈夫だったのでしょうか。
日々ハラハラしています(笑)。
――(笑)。なかなかない色味や風合いになっていると素人の私でも感じるのですが、ALEXA 35を使うことで、どんな画が撮れるのでしょうか。
今回の作品においては、他のカメラでは撮れない、生っぽい質感が生まれて、『アンメット』の世界観を手助けしてくれています。カメラを活かす照明がないと宝の持ち腐れになってしまうのですが、照明部には、川邊隆之さん(映画『シン・ゴジラ』など)という方に来ていただけました。まさに体験したことのないスタッフの座組で、こんなすごい方々が、まさか民放連ドラの中でも、決して大規模な予算とは言えないカンテレのドラマに参加してくださるなんて、と。見たことのない画がたくさん撮れて、配信のウインドウに並んでも負けない作品になったと思います。
――きょう17日には、10話が放送されます。見どころを教えてください。
ゲスト患者を迎えるのは10話が最後なのですが、脳腫瘍のなかで最も悪性の強いグリオブラストーマを患う、『アンメット』では初めて命に期限のある患者さんとミヤビが向き合っていきます。患者さんご夫婦の思いと、ミヤビの気持ちがリンクするエピソードになっているので、ミヤビの医者としてのあり方、三瓶との関係性に注目していただければと思います。
カンテレ 米田孝プロデューサー
■カンテレ米田孝プロデューサー
2004年4月、カンテレ入社。事業部、制作部、営業部を経て、現在はコンテンツ統括本部 制作局 制作部 部次長を務める。代表作にドラマ『僕たちがやりました』(17)、『健康で文化的な最低限度の生活』(18)、『まだ結婚できない男』(19)、『竜の道 二つの顔の復讐者』(20)、『エ・キ・ス・ト・ラ!!!』(20)、『エージェントファミリー 〜我が家の特殊任務〜』(21)、『恋なんて、本気でやってどうするの?』(22)など。