「トリプルネガティブ乳がんの生存率」はご存知ですか?治療法も解説!医師が監修!

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トリプルネガティブ乳がんは予後不良で、生存率も低いといわれています。

トリプルネガティブ乳がんは進行が早く再発しやすいがんですが、早期に発見して治療すれば完治するケースも少なくありません。

過度な心配によるストレスはがんにも悪影響を与えますので、正しい知識を持って冷静に対処することが重要です。

本記事では、トリプルネガティブ乳がんの特徴・治療法・生存率について解説します。

≫「トリプルネガティブ乳がん」の症状・原因はご存知ですか?ステージについても解説!

監修医師:
上 昌広(医師)

東京大学医学部卒業。東京大学大学院修了。その後、虎の門病院や国立がん研究センターにて臨床・研究に従事。2010年より東京大学医科学研究所特任教授、2016年より特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長を務める。著書は「復興は現場から動き出す(東洋経済新報社)」「日本の医療格差は9倍医療不足の真実(光文社新書)」「病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)」「ヤバい医学部(日本評論社)」「日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか(毎日新聞出版)」。

トリプルネガティブ乳がんとは

トリプルネガティブ乳がんとは、乳がんのサブタイプ分類において以下の3つの陰性を示す乳がんです。

エストロゲン受容体陰性

プロゲステロン受容体陰性

HER2陰性

Triple Negative Breast Cancerの頭文字を取って、TNBCと表記されることもあります。
エストロゲンとプロゲステロンは女性ホルモンで、HER2とは細胞の増殖に関わるタンパク質です。
3つとも健康な人にも存在しますが、乳がん細胞では過剰に発現して、がんを増殖させる場合が少なくありません。
女性ホルモン受容体やHER2が過剰になっている場合にはそれを抑える薬が有効ですが、トリプルネガティブ乳がんでは原因が異なるため使える薬が限定されるのが特徴です。
乳がん全体の約15%が、トリプルネガティブ乳がんといわれています。

基底細胞様の乳がん

トリプルネガティブ乳がんは、基底細胞様といわれる細胞タイプのがんに分類されることが大半です。
乳腺を構成する乳管には、内腔細胞と基底細胞があり、基底細胞に似た細胞のがんを基底細胞様といいます。
基底細胞様の乳がんは、内腔細胞様の乳がんと比較して、悪性度が高くほかの細胞への攻撃性が強いことが特徴です。
がん細胞の悪性度は、正常な細胞とどれくらい違うかを示すもので、基底細胞様のトリプルネガティブ乳がんは全3段階のうちグレード3となります。

リスク因子

乳がんのリスク因子は遺伝によるものが大きく、全乳がん患者数の10~20%が遺伝性乳がんといわれています。
トリプルネガティブ乳がんも遺伝の影響が大きいと考えられており、人種別では黒人やヒスパニックの女性に多く、アジア人や白人には非ヒスパニックの白人には少ないのが特徴です。
後天的に乳がんのリスクを増加させる因子は、主に以下のものがあります。

肥満

飲酒

喫煙

出産経験がないこと

授乳によって乳がんのリスクが減少する可能性は強く示唆されており、出産経験のない方はリスクが増大する可能性があります。
それ以外には生活習慣によるものが大きく、健康的な生活習慣を心がけることで、乳がん予防だけでなく全般的な体調管理に役立つでしょう。

予後不良といわれるトリプルネガティブ乳がんの5年生存率

トリプルネガティブ乳がんは悪性度が高く、予後不良になることが少なくないといわれています。
しかし、国立がん研究センターで公表している乳がんの5年生存率は全乳がんを対象にしたものであるため、トリプルネガティブ乳がんの正確な5年生存率は公表されていません。
全乳がんの10~20%がトリプルネガティブ乳がんと考えられるため、全乳がんの5年生存率からトリプルネガティブ乳がんの5年生存率も推計できます。
ステージ別の症状と5年生存率を解説します。

ステージ1

乳がんステージ1は、がんの大きさが2cm以下でリンパ節や臓器に転移がない状態です。
トリプルネガティブ乳がんステージ1の5年生存率は約90%と考えられています。2cm以下の小さながんでも、乳房のなかにしこりを触知できるケースが少なくありません。
この段階で適切に治療できれば、完治する可能性は高くなります。

ステージ2

乳がんステージ2は、ステージ1よりもがんが大きかったりリンパ節に転移していたりする状態です。
2A期ではがんが2~5cmでリンパ節転移がないか、2cm以下でリンパ節転移があります。2B期ではがんが5cmを超えてリンパ節転移がないか、2~5cmでもリンパ節に転移しています。
トリプルネガティブ乳がんステージ2の5年生存率は、約85%で、転移がある場合は再発の可能性も高くなるでしょう。

ステージ3

乳がんステージ3は、がんの大きさが5cmを超えてリンパ節に転移しているか、がんが胸郭に癒着して固定されている状態です。
また、がんが皮膚に露出して潰瘍が見える場合もあります。がんが固定されてしまうと手術による切除が難しく、薬物療法や放射線治療による緩和ケアとなるケースが少なくありません。
トリプルネガティブ乳がんステージ3の5年生存率は、約40%といわれています。

トリプルネガティブ乳がんの生存率に影響する浸潤・転移

トリプルネガティブ乳がんの予後が悪いといわれる理由は、ほかのタイプの乳がんよりも浸潤や転移をしやすいためです。
がんが発生してから進行が早いため、ステージ0の段階で早期治療できるのは稀で、治療しても再発するケースが少なくありません。
トリプルネガティブ乳がんの生存率が低くなる理由を解説します。

ほかの乳がんより浸潤しやすい

がんがほかの細胞へ広がっていくことを浸潤といい、トリプルネガティブ乳がんは攻撃性が高く浸潤しやすい乳がんです。
非浸潤がんのステージ0で発見して治療できれば、転移や再発することはほぼありません。
しかし、トリプルネガティブ乳がんは進行が早いため、発見されたときにはステージ1以上となっているケースが大半です。

再発・遠隔転移の確率が高い

トリプルネガティブ乳がんは細胞増殖能力が高く、ほかの臓器に遠隔転移しやすい乳がんといわれています。
また手術で切除しても3年以内に再発する可能性が高く、再発した場合は治療方法が少なく、がん死に至るケースが少なくありません。

トリプルネガティブ乳がんの治療法

トリプルネガティブ乳がんは女性ホルモンやHER2のような明確な標的がないため、有効な治療法の選択肢が少ないことが特徴です。
これが予後不良になる原因となっていますが、まったく治療法がないわけではありません。
トリプルネガティブ乳がんの主な治療法を解説します。

化学療法

化学療法とは、抗がん剤などの薬物を使用したがん治療で、薬物療法とも呼ばれます。
女性ホルモンやHER2の過剰な影響による乳がんでは、女性ホルモン阻害薬やHER2阻害薬を使用できますが、トリプルネガティブ乳がんでは使用できません。
トリプルネガティブ乳がんでは、細胞増殖の仕組みを阻害する細胞障害性抗がん薬によって、がん細胞の増殖を抑え込むのが基本となります。
細胞障害性抗がん薬はがん細胞以外の正常の細胞も影響を受けるため、人によっては吐き気・脱毛・下痢などの副作用が生じます。

外科手術

乳がんの治療は、外科手術によってがんを取り除くのが基本です。トリプルネガティブ乳がんでも外科手術の有効性は変わらず、がんが胸に固定されていなければ切除できます。
がんが小さければ乳房をできるだけ残す部分切除を行い、がんが大きかったり、複数あったりする場合には乳房を全切除せざるを得ません。
切除する範囲を小さくするために、手術前に化学療法や放射線治療でがんを小さくすることが一般的です。

免疫療法

免疫療法とは、がん細胞が免疫細胞を抑え込む仕組みを阻害して、免疫によるがんの排除を促す治療法です。
トリプルネガティブ乳がんでは使える薬物が限られますが、免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法が行われることもあります。

トリプルネガティブ乳がんの生存率についてよくある質問

ここまでトリプルネガティブ乳がんの特徴・治療法などを紹介しました。ここではトリプルネガティブ乳がんの生存率についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。

トリプルネガティブ乳がんの10年生存率を教えてください。

上 昌広(医師)

全国がんセンター協議会によると、乳がん全症例の10年実質生存率は82.4%で、ステージが進行する程生存率は低くなります。トリプルネガティブ乳がんだから生存率が低いわけではありませんが、ステージ進行が早いため生存率にも影響を受けるでしょう。生存率を高めるためにも、早期発見・早期治療が重要になります。

トリプルネガティブ乳がんの再発は生存率に影響を与えますか?

上 昌広(医師)

トリプルネガティブ乳がんはほかの乳がんよりも再発率が高く、再発すると治療が難しいため生存率は低くなります。術後3年以内と早期に再発するケースが多く、5年を超えて晩期に再発する可能性は低いことも特徴です。

編集部まとめ

トリプルネガティブ乳がんの特徴・治療法・生存率を解説してきました。

女性ホルモンやHER2など明確な標的がないため治療法の選択肢が少なく、浸潤や転移が早いのがトリプルネガティブ乳がんの治療が難しい原因です。

しかし早期に適切に治療すれば、再発せずに完治している患者さんも少なくありません。

乳房のしこりなど基本的な症状はほかの乳がんと変わらず、検査によって早期発見できる点も同じです。

早く発見できる程治療の可能性も高まりますので、定期的な乳がん健診を欠かさないようにしましょう。

トリプルネガティブ乳がんと関連する病気

「トリプルネガティブ乳がん」と関連する病気は3個程あります。
各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する病気

乳腺症

線維腺腫

葉状腫瘍

乳がんではない病気や、良性の腫瘍によって乳がんに似た症状がでる場合もあります。
良性の腫瘍であっても、大きい場合は手術が必要なこともありますので、違和感があるときは早期に受診しましょう。

トリプルネガティブ乳がんと関連する症状

「トリプルネガティブ乳がん」と関連している、似ている症状は4個程あります。
各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。

関連する症状

乳房のしこり

乳頭の陥没

乳頭からの出血・分泌物

乳頭や乳輪のただれ・びらん

乳がんの症状は乳房のしこりが有名ですが、ほかにも胸部の違和感や痛み・皮膚の病変が起こる場合があります。
トリプルネガティブ乳がんは進行が早いため、早期発見がより重要です。乳腺科や乳腺外科を早めに受診して、早期発見・早期治療につなげてください。

参考文献

乳がん(国立がん研究センター)

乳がんについて(国立がん研究センター)

乳がん 治療(国立がん研究センター)