明石家さんま「努力報われると思うな」発言の深さ
明石家さんま(写真:時事)
たった言葉1つをかけられただけで、ハッとさせられたり、勇気が湧いてきたりした経験が、あなたにもあることだろう。そんな「神回答」のエッセンスをコミュニケーションに取り入れることで、コメント力が磨かれると、著述家の真山知幸氏は言う。『「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』を一部抜粋・再構成し、人生の風景が変わる「神回答」を紹介したい。
「心が奮い立つ」神回答を3つ紹介する
私は、これまで数多くの名言集を書いてきたが、あるときに「名言は2種類あるな」と気がついた。
1つは「一人の思考から生み出された言葉」。そして、もう1つが、「会話のやりとりから発せられた言葉」で、いわゆる「神回答」と呼ばれるものだ。
「神回答」の魅力は何といっても「即興性」と「化学反応」である。時には、相手の言葉に思わず反応して出た言葉で「自分はこんなことを考えていたのか…!」と知ることさえある。
このたび上梓した『「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』で書いたように、神回答には8つの効果があると、私は考えている。
この記事では、そのなかから「心が奮い立つ」という効果を持つ神回答を3つご紹介したい。第一線で活躍する著名人による「神回答」のポイントを解説しながら、読者のみなさんとともに、私もまた気持ちを新たにしたいと思う。
・「努力は報われる?」への明石家さんまの「神回答」
努力は報われるのか――将棋棋士の羽生善治は著書『決断力』で、こんな持論を述べている。
「何かに挑戦したら確実に報われるのであれば、誰でも必ず挑戦するだろう。報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続してやるのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている」*1
努力は報われないかもしれないからこそ、する価値があるという発想は斬新だ。
見返りを求めないほうがいい
お笑いタレントの明石家さんまは、「努力が報われるなんて絶対に思っちゃいけない」*2とまで言っている。
MBSラジオ「MBSヤングタウン土曜日」(2014年6月7日放送)でアイドルが「努力をしていれば必ず誰かが見てくれていて、報われることがわかりました」と発言すると、「それは早くやめたほうがええね、この考え方は」とバッサリ。理由についてこう語った。
「こんだけ努力してるのに何でってなると腹が立つやろ。人は見返り求めるとろくなことないからね。見返りなしでできる人が一番素敵な人やね」
元メジャーリーガーのイチローも「見返りを求める姿勢が駄目」*3と語る。己を信じて、自然体で突き進もう。
【神回答ポイント】
表現の仕方はそれぞれだが、「努力に結果を求めるべきではない」という点では共通している。重要なのは、途中でどんな結果が出ようと、努力を継続することだ。
・「どんなときがカッコよいか」に気づかされる江頭2:50の「神回答」
江頭2:50は、下ネタや脱ぎネタで周囲を騒然とさせる、型破りなお笑いタレントだ。
雑誌などのアンケートによるランキング企画では「嫌いな芸人No.1」「抱かれたくない男No.1」の常連だったが、ユーチューブチャンネル「エガちゃんねるEGA-CHANNEL」を開設すると、たった9日でチャンネル登録者が100万人を超える。現在は420万人を突破しているのだから、すさまじい人気だ。
ユーチューブチャンネルで、「NHKの『プロフェッショナル』のオファーが来たらどうするか」というドッキリ企画を仕掛けたところ、江頭は「それは、辞める」と即答。
その理由として「カッコつけたくないんだよ」と明かす江頭に対して、仕掛け人が「江頭さんを密着するとカッコよくなっちゃうんですか?」と尋ねたときの答えがこれだ。
「なっちゃうよね。だって真剣にやってんだもん」*4
江頭は、カメラにずっと密着されるのが嫌だということも、「プロフェッショナル」のオファーを断る理由として挙げている。
「撮られることにものスゴい負担がかかると思う。本番前とか……クオリティがどんどん下がっていく」
これはカメラが回っていると知らないなかでの発言。江頭のプロフェッショナルぶりがよく伝わってくる。
ドッキリだとネタ晴らしが行われると、冒頭の言葉について「肛門見られるより恥ずかしい」と悶絶した江頭。一切取り繕わない、このスタンスこそが、これだけの支持を集めている理由だろう。
【神回答ポイント】
どんなことでも真剣にやれば、かっこよくなる――。すべての職業の人が励まされる「神回答」である。
イメージを損なうことは怖くない
・「AVの帝王」の気遣いに対する山田孝之の「神回答」
「日本のアダルトビデオ業界」という特殊なテーマが、世界的な関心を呼び寄せることになった。ネットフリックスの日本オリジナル連続ドラマシリーズ「全裸監督」のことだ。
もっとも本作が世界的ヒット作となったのは、モデルとなった「AVの帝王」村西とおるの圧倒的な存在感が大きな要因だろう。村西は前科7犯、借金50億円、そして、アメリカ司法当局から懲役370年を求刑されているという。メチャクチャである。
そんな個性的すぎる人物を演じるとなると、不安になるのが当然だろう。これまでのイメージを損なってしまうかもしれないからだ。
本作の主演を務めた俳優の山田孝之に対して、村西が心配になって「こんな役柄を演じたら仕事が来なくなるんじゃないの?」と尋ねたところ、返ってきたのが、次の言葉だという。
「僕は役者でCMタレントじゃない。これで仕事が来なくなっても一向に構いません」*5
覚悟を持って新境地に挑んだことが、ひしひしと伝わってくる。村西は「なんて立派な心構えだろうと感服しました」と感動を伝えている。
これまでのイメージにはない役を演じることで開かれる扉もあるのだろう。歌舞伎俳優の十代目坂東三津五郎も、さまざまな役を引き受けて観客を驚かせている。
その理由について「一役者として、ほとんど使われていない細胞もあるはずなんです。それを刺激するような作品に巡り会いたい」*6と語っている。
【神回答ポイント】
イメージ通りの仕事ばかりでは、どんなビジネスでも生き残っていくことは難しい。リスクを恐れずに新境地を開拓することで、新しいステージに上がっていくことができる。
さまざまな効果を持つ「神回答」を取り入れよう
この記事では、「心が奮い立つ神回答」をご紹介したが、『「神回答」大全 人生のピンチを乗り切る著名人の最強アンサー100』では、そのほかにも「心がスッと楽になる」「人間関係を円滑にする」「相手に寄り添う」「視野が広がる」「雰囲気を解きほぐす」「切り返しで相手を圧倒する」「相手のイメージを膨らませる」といった効果別に分類して『神回答』を取り上げた。
考え方1つで日々の過ごし方は、まるで違ったものになる。本書を活用して、発想の転換を促す言葉の数々に、ぜひ触れてみてほしい。
●コメント引用出典
*1: 『決断力』(羽生善治著、角川新書、2005年)
*2:「『努力は必ず報われる』論争に明石家さんま参戦 『そんなこと思う人はダ
メですね、間違い』」(J-CASTニュース、2014年6月9日)
*3:「イチロー氏 高校生から目標達成後に大切なこと問われ WBCで世界一の栄冠も『残酷だけど…』」(スポニチ、2023年12月17日)
*4:「この動画は本当に公開していいのか?」(エガちゃんねる EGA-CHANNEL、2022年3月21日)
*5:「山田孝之、村西とおるの「『全裸監督』主演で仕事に支障は?」という質問へ神回答」(デイリー新潮、2019年9月13日)
*6: 「初の井上ひさし作品にして、初のひとり芝居! 『芭蕉通夜舟』を演じる坂東三津五郎の心境は?」(チケットぴあ、2012年5月21日)
(真山 知幸 : 著述家)