企業のオウンドメディアの更新が止まるのは「運営担当者がいなくなったから」 なぜそれが起こるのか?
企業のPRを目的に、自社で広報媒体の制作を行う「オウンドメディア」。自社の言葉で正確な情報を届けられる、広告費がかからないなどのメリットから手掛ける企業は多いが、その一方で続けられずに中断する会社も少なくない。
オウンドメディア担当者を対象にした調査によると「オウンドメディアを持っているが更新されていない」「過去に運営していたことがある」と答えた人は合わせて27%を占めたという。
運営が停止した会社「開始後半年以内」が6割
この調査は、全研本社がオウンドメディア運用担当者300人を対象に実施したものだ。オウンドメディアが更新されなくなった期間は、開始後「3ヶ月以内」「半年以内」を合わせると60.3%を占めた。
意外と早く更新が止まっていることが分かるが、現在オウンドメディアの運営が止まっている会社に、その理由を尋ねたところ、「自社の運用担当者がいなくなったから」が54.3%でトップとなった。
オウンドメディアの担当者に任命されたものの、サポートしてくれる人もおらず、嫌気が差して辞めてしまったのだろうか。ただし別の調査によると、オウンドメディアの効果を感じている会社は多いようだ。
「広報会議」が広報担当者・オウンドメディア担当者117人に尋ねたところ、オウンドメディアについて「非常に効果がある」と答えた人は26.5%、「効果がある」と答えた人は55.6%で、合わせると82.1%にものぼる。
効果を感じているものは「企業イメージ、ブランディング」が76.7%で最も多く、次いで「採用の強化」が52.4%、「社内コミュニケーション」が51.5%、「企業の認知向上」が50.5%となった。好意的な評価が多いのは「広報会議」の読者だからだろうか。
評価項目(KPI)について聞いたところ「ページビュー数」が69.2%とトップで、2位以下に「記事公開本数」の48.7%、「ユーザー数、新規・リピート訪問者数」が35.0%、「コンバージョン数(購入や申し込み、問い合わせなど)」が27.4%となっている。
メディアが始まれば「ついPVを追いたくなってしまう」
企業のオウンドメディア制作やコンサルティングを受託するフリー編集者のAさんは、これらの調査結果に「オウンドメディアをめぐる状況がよく現れている」と評する。
「オウンドメディアの運営が止まるのは、KPIの設定が原因であることが多いんです」
Aさんによると、オウンドメディアの多くは社長などトップの「鶴の一声」で始まることが多いという。最初はメディアの名前を議論したり、企画のアイデアを出し合ったりして、楽しいムードで盛り上がることが多いらしい。
「しかし実際に記事が出てみると、事前にSNSなどでアクセス導線などを作っていない限り、読者はなかなか集まりません。そのうち社長が『ページビューが足りない』と言い出し、担当部署はしょうがなく『3ヶ月後までに◯万PVを達成します』と目標を掲げざるを得なくなるのです」
ページビューを追うためには、人の感情を動かすような「見出し(記事タイトル)」をつけることが求められ、「会社のイメージアップ」などの当初の目的からどんどん離れていく。それでもPVはなかなか伸びず、社長もイライラしてくる。
「そうなると、担当者だって嫌になりますよね。担当を外れたいと言い出すだけでなく、会社を辞めたいという人も出てきます」
「いくらバズっても企業のイメージアップにはつながらない」
Aさんが企業のコンサルティングをするときには、まず「ページビューを主軸のKPIにしない」という。採用や購入などの「成約」(コンバージョン)をゴールとし、それを増やすための「送客数」などの中間指標をKPIツリーとして整理する。
「ページビューは広告モデルの場合にのみ有効なのですが、バズる行為には中毒性があって、ついついPVを追いたくなってしまうんですよね。でも、いくらバズっても購入や採用につながらないし、イメージアップにもつながらない。オウンドメディアは、少数でいいから刺さる人に刺さればいい。そこを勘違いしないように運営することが効果を上げるコツといえます」