新型iPad Proは史上最高峰だけど「何でもできる」わけではない
「アップル史上最も薄い製品」iPad Pro、気になる!
5月7日のイベントで発表された新型iPad Pro、米Gizmodoによる長文レビューをお届けします。
iPad Pro M4
概要:M4チップ搭載のiPad Proは美しくてパワフルですが、このハードウェアのポテンシャルを活かしきるだけのソフトウェアが必要。新しいOLEDスクリーンとチップのおかげで、ハードウェア面ではノートPCに近づいていますが、MacOSに搭載されているソフトウェアほど多機能ではありません。
価格:11インチモデル16万,800円(アメリカでは999ドル)〜、13インチモデル21万8800円(アメリカでは1,299ドル)〜。
いいところ:綺麗なOLEDスクリーン、めちゃくちゃ軽くて薄い、iPadで行なうタスクには充分なパワー。
残念なところ:iPadOSは「全てをこなせる」わけではない、カメラに特筆すべきものはない。
「全てをこなせるデバイス」に近づいている
先日発表された最新のM4搭載iPad Proは、今年のApple(アップル)製品の中でも最もワクワクさせてくれるものです。個人的にはVision Proよりも、です。2年前のiPad Proよりも小さくなって軽くなったからというのもありますが、大きな理由は新しく美しいOLEDスクリーンにあります。
そして「想像の域を超えないスマホの進化系」には留まらない、Appleによる真の「全てをこなせるデバイス」にかなり近づいていると感じさせてくれます。今回のiPad Proはとても素晴らしく、このハードウェアにソフトウェアが追いつけば、どれだけより素晴らしい体験になるだろうかと、今からとても楽しみです。
Appleが今回のiPad ProとiPad Airを発表したときの最初の謳い文句は、iPadがノートパソコンの代わりになるとか、少なくともMacBook以上のものになる可能性があるなどと言っていましたが、懐疑的でした。
報道発表資料にも新しいiPad Proには「デスクトップクラスのアプリ」があると記載されていましたし、発表イベントでは、Magic Keyboardがあれば「まるでMacBookを使っているようだ」と発言しています。
数多くのクリエイター向けのアプリが提供されているにもかかわらず、iPad ProはMacBookに代替されるほどにはなっていません。有能なクリエイターはM2よりもグレードアップしたM4チップをフル活用できるかもしれませんが、ウェブサイトの見るだけなら、タブレットよりもデスクトップのほうがスムーズです。
iPadはiPad、メインデバイスとして使おうとしても制約に阻まれる
iPadのタッチスクリーン環境は、iPhoneやMacに比べて一貫性がないように感じますし、11インチのiPad Pro M4が16万8800円(アメリカでは999ドル)から、13インチが21万8800円(アメリカでは1,299ドル)という値段を考えると、そこまで素晴らしいものではありません。ストレージ容量を増やし(1TBと2TBモデルではわずかによいCPUが搭載されます)、セルラー接続やMagic KeyboardやApple Pencil Proのオプションも課金していくと、恐ろしい値段になります。
また、Instagram等のアプリはiPadでは非常に使いにくいし、相変わらずUSB-Cポートは1つのみでアクセサリー等の接続は厳しい。普通の12MPカメラにLiDARスキャナーは、犬の写真を素早く撮るか、SketchUpのような一部のアプリで使う以外にはあまり役に立ちません。
これはApple製品に限った話ではありませんが、iPadをメインデバイスとして利用しようと試みても、いつもどうしてもタブレットに過ぎず、さまざまな制約に断念することが多々あります。13インチの画面と改良されたプロセッサを搭載しながら、iPadは複数のウィンドウでマルチタスクをするには向いていません。
新しく生まれ変わったMagic Keyboardもあり、M4による強力なパフォーマンス、そしてめちゃくちゃ明るく美しいスクリーンは、素晴らしい体験を提供しますが、それでもまだ何か物足りなさを感じます。
Apple Pencil Proのユニークな機能を使ってみたいのですが、macOSと同じくらい多機能なものにアクセスできるのが理想的です。全てのアクセサリを備えたら、Appleの製品の中では、最も2-in-1デバイスに近い製品になると思います。しかし、iPad Proは、ノートPCの代わりにならないというのが感想ですかね…。
ですので、来月のWWDCでiPadOS 18を発表の内容にとても期待しています。(AIの宣伝だらけにならないといいけど…。)
ディスプレイ:アップル史上最高峰の大画面
新しいOLEDディスプレイは、前世代のLiquid Retina XDRミニLEDディスプレイよりもシャープで明るく色鮮やか。iPad Pro M4とiPad Pro M2、両方のデバイスで同じコンテンツを見てみましたが、新しいUltra Retina OLEDディスプレイは、これまでのiPadやMacBookと比べて、深みとコントラストは、はるかに優れていると思いました。前世代のディスプレイは全体的に輪郭がはっきりせず、灰色がかって見えるほどです。
ディスプレイには「タンデムOLED」を使用しており、2層のOLEDパネルを使って全体の明るさを向上させている点がユニークです。新しいiPad Proは、1000ニトのSDR輝度と、1600ニトのピーク輝度(HDRコンテンツのみ)を実現しています。画面の明るさを25%にしたテストでは、SDRで1000ニト弱、HDRで1500ニト弱、フルスクリーンで500ニト弱でした。新しいiPad Proは確かに前世代よりも明るく感じられ、暗い部屋や屋外での利用にもばっちりです。
Apple製品以外のOLEDディスプレイと比較すると、飛び抜けて優れているかと言うとそれほどではありませんが、全体としての明るさの向上は、Razer Blade 16やROG Zephyrus G14のような他のOLEDノートPCよりも優れていると思います。
iPadには、10Hzから120Hzまでの可変リフレッシュレートが搭載されており、iPadで利用する限りは充分なパフォーマンス性能です。ただし軽めのゲームならば問題なく処理しますが、リフレッシュレートが重要な大半のゲームタイトルでは、必要なフレームレートには達していない印象です。
タッチスクリーンはどうしても触るもの。それで画面が汚れて視聴体験が損なわれるのは、2024年のiPad Proでも避けられません。そばにあるライトからの反射はある程度防ぐことはできますが、スポットライトの下では反射してしまいます。
iPad Proには、反射を軽減するためのナノテクスチャディスプレイガラスのオプションがありますが、マイクロファイバークロスで拭き取ったり、指の皮脂に対して、どれだけ表面が保たれるかまでは確認できませんでした。
また、フロントカメラが横向きになったことはうれしいポイントです。Apple製品の中でも最高峰の大画面ですが、未だにディスプレイを囲むベゼルはあり、過去のiPadとサイズは同等です。MacBook Air 13と比較すると、iPad Proのほうが縦に長く、わずかに大きなベゼルはありますが、Webカメラ用の煩わしいノッチはありません。
パフォーマンス:M2を大幅に上回る。ただしM3とは大差ないかも
iPad Proに初めて搭載されたM4チップは、2023年末のMacBook Proに搭載されたM3からたった半年程度しか経っておらず、やや出てくるのが早すぎる感があります。M4がパワフルなチップではないということではありませんし、iPadの潜在能力を考えれば非常に強力なものです。ただし、新しいハードウェアというよりは、M3の上位互換のように感じます。
Appleによれば、M4は主にiPad向けに設計されていて、OLEDディスプレイを処理するための新しいディスプレイエンジンを搭載しているとのこと。また、38 TOPS(1秒間に数兆回の演算)の新しいニューラルエンジン(NPU)も含まれていて、これはAIタスクを処理するためのものです。
理論上は同じARMベースのCPUであるQualcommのSnapdragon X Eliteが掲げるものよりわずかに劣ります。が、実際のところ、タブレット端末でAIの処理能力を実感することはあまりなさそうです。
これまでのMシリーズのチップにもニューラルエンジンは含まれていましたが、Appleはそんなにアピールしていなく、今回のiPad Proで言及しだしているのは何故なのかは気になるところです。
しかしながら、今回の新しいM4のCPUとGPUは、新しいiPadの能力を確実にパワーアップさせています。
M4搭載の新しいiPad Proと、最新バージョンのiPadOSを搭載したM2 iPad Proを比較してみました。
M2とM4を比較してみるとその差は歴然
M3とM4がM2チップよりも強力であることは当然ですが、ベンチマークテストでは実際にその差が如実に現れました。Geekbench 6では、M4はCPUのシングルコア設定で1,000ポイント多く、マルチコアでは約4,500ポイントの差をつけました。また、ブラウザのベンチマークテストでも遥かによい結果がでました。
Octane Xでのレンダリングテストでは、最新版のiPad Proがサンプルとしてテーブルの上のネジのシーンをレンダリングするのに1分3秒かかり、第6世代のiPad Proでは1分53秒かかりました。iPadでレンダリングを行ないたい場合は、新しいiPad Proのほうが明らかにパワーがあります。
またグラフィック性能においては、理論上10コアGPUを搭載したM4は、基本的なM2を圧倒するはずで、3D Markのテストでは、新しいiPad Proは2年前のiPad Proモデルと比べて、23%も性能がアップしていました。
さらにMacBookのM3チップと比較してiPadがどのくらいパフォーマンスを発揮するのかは気になるところ。そこで、同じ性能のRAMを搭載した最新のMacBook Air 15でOctane Xを実行してみたところ、ネジのシーンのレンダリングは約57秒で完了しました。
しかしながらタブレットとMacBookのチップ性能を比較する手法はそんなに多くなく、特にiPadには、ゲームのフレームレートを調べるための確立された方法がありません。しかし今回比較するべく、Resident Evil 4のゲームを、2024年のiPad Pro、2022年のiPad Pro、およびM3 MacBook Airでロードしてみました。
全てのデバイスにおいて、デフォルトの低〜中設定で比較的安定したパフォーマンスを発揮しました。iPadにはグラフィックオプションはありませんが、正直2024年と2022年のiPad Proの画質の違いはあまりわかりませんでした。
M3 MacBookでは、Resident Evil 4のほとんどの環境で約40FPS「Death Stranding」でも同様のプレイ環境を得られました。
ラップトップ版ではキーボードとマウスの操作オプションがあり、iPadではMagic Mouseを接続できますが、ゲーム上、どの操作をしているのか混乱してしまいます。iPadでゲームをプレイする場合は、サードパーティ製のBluetoothコントローラーを接続することが最善の方法になります。
タッチ操作だけでなんとかしたい人は、Netflixで無料で提供されているモバイル中心のゲームが体験としてよく、おすすめです。結局のところ、新しいMagic Keyboardによって、どれだけMacBookに近づいたとしたも、iPadの本質的な制限は絶対に感じると思います。
デザインと使い勝手:最薄の手に持った感触は最高、でもアプリは未だに問題アリ
iPad Pro 2024にアクセサリーとアタッチメントを装備したならば、Apple史上最もオールインワンデバイスに近い存在になります。本体重量だけだと、13インチのMacBook Airよりも0.77kgも軽量で、新しいMagic Keyboardを装着した場合でも、Appleの最も軽いノMacBook Airとほぼ同じ重さになります。
また新しいMagic Keyboardにファンクションキーが追加されたことで、、MacBookのキーボードにかなり近づきました。ただし、1mmのキーストロークはMacBookよりも浅く、スカスカに感じます。
アルミニウムのパームレストとトラックパッドが搭載されたことは大歓迎です。他のサードパーティー製のiPad対応のキーボード(例:Logitech Combo Touch Keyboard)には既に搭載されていましたが、Apple純正好きな人からすると、これはうれしい機能追加だと思います。
これまでにiPadで使用できていたFreeformやNotes等はすべて引き続き利用可能です。より美しくなったディスプレイでNetflixやYouTubeを視聴するのはよいのですが、ほとんどの映画のアスペクト比はiPadの画面サイズと一致していないため、13インチの画面でも、画面の上下に黒いバーが表示されることがあります。
受動的なコンテンツを楽しむ場合は問題ありませんが、所詮iPadはiPadです。いくつかのアプリはPC版と同じ機能を扱えますが、そうでないアプリも多々あります。例えば、Chromeでリンクを右クリックして新しいタブを開く、といった操作はiPadではできませんし、Google Docsでの右クリックによる貼り付けや、フォーマットのプロンプトもありません。
また、前述したようにInstagramなどのMeta製アプリはiPadではうまく動作しません。Appleがコントロールできる範囲には限界があるものの、それでもiPad全体の体験がまだ十分ではありません。
クリエイター向けアプリを駆使するならよさそうだけど
3DモデリングをZBrushのようなアプリで行ないたい場合は、iPad Proは有力な選択肢になると思います。今回Appleは米Gizmodoに対して、Procreate Dreamsの新しいアプリ、Adobe Fresco、そしてiPad向けのLogic Pro等、クリエイティブ向けのアプリのベータ版も提供してくれています。
アプリを試用して機能を使ってみてはいるものの、日常的にイラストを描いたり音楽制作をしている人間ではないので、実際にそれらアプリがiPad Proで使い勝手がよいのかどうか、評価が難しいところです。ライターにとっては、ZinniaやGoodnotesのようなアプリが使えれば、iPadの本領が発揮できるはずですけどね。
一方、新しい2万1800円(アメリカでは129ドル)のApple Pencil Proのスクイーズ機能とバレルロール機能は気に入りました。これによって、E Inkのスクリーンがなくても、実際にペンで書くのに近い感覚でアイデアを書き留めておくことができます。
iPadは1つの外部ディスプレイに接続することは可能ですが、ご存知のとおり、USB-Cポートが1つだけなので不便です。
iPadをStudio Displayに接続したところ、両方パフォーマンスの遅延なしに正常に動作したのはいいのですが、使い勝手は微妙です。ウィンドウをひとつの画面から別の画面に移動するのが簡単にできません。代わりに、大きな画面にアプリをロードし小さな画面にはアプリを表示しないようにしたりしました。また画面サイズが異なっていても、一度に分割ビューで2つのアプリしか表示できないという制約があります。
バッテリー寿命はまあまあ、カメラは普通
ここ数日間、iPad Proをメインデバイスとして使ってみましたが、Apple製品のバッテリー寿命は他のポータブルデバイスと比較してやはり強力でした。公称10時間のバッテリー寿命であるものの、実際にはそれよりも若干持たない印象はありますが。
それでも、13インチのiPad Proを丸一日利用しても、バッテリーが赤くなることはありませんでした。ゲームやビデオのテスト、レンダリングアプリの使用、普通にインターネットをブラウジングしたり、タイピングを行ないながらの使用で、約7時間持ちました。これはかなり使いまくった結果です。
カメラに関しては、あまり期待できません。リアカメラとフロントカメラはどちらも12MPで、メインの広角カメラは4Kで最大60FPSの撮影が可能です。しかしiPhone 14や15 Proと比べると品質は見落とります。リアセンサーアレイには、LiDARスキャナー、フラッシュ、およびマイクも含まれています。
間違いなくアップル史上最高峰のタブレット、でも来月のWWDCまで待つべし
すべてのアクセサリ、キーボード、Apple Pencil Proを含めて考えると、M4搭載のiPad Proは、ゲームを除くすべての用途でメインデバイスになろうとしているようにみえます。今回試用した13インチは、間違いなくApple史上最高峰のタブレットです。前モデルよりもはるかに美しい。だってそれもそのはず、2年前のモデルより200ドル高い価格からスタートしていますからね。
個人的にAppleデバイスの中で最も好きなプロダクトに近い存在ですし、iPhoneよりもずっと魅力を感じます。しかし、日常使いをするならば、このタブレットを買う前に、MacやPCに手を伸ばすでしょう。
Apple Pencil Proの使用感もとても素晴らしく、1つのアプリに集中せざるを得ないというのもポイントです。
iPad Proのソフトウェア環境は、まるでフェラーリに軽トラのエンジンを積んでいるかの如く、まだまだ改善点が多い、言い換えればポテンシャルは非常に高いものです。
もしあなたがクリエイターなら、新しいiPad Proがどのくらい価値があるかどうか、すでにわかっているはず。それ以外の方には、すぐに飛びつかず、WWDCまで待って、iPadがそのポテンシャルを発揮できるかどうかを見極めることをオススメします。
写真多数。新型iPad Proを見て触ってきた。思ってる以上に薄くて軽い