未来くん

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星野ファミリーの家族写真。2023年1月10日に誕生した未来くんは、5月で1歳4カ月となった(写真:両親提供)

「わが子は他の子と違うのではないか」

最近よく耳にするようになった「ギフテッド(生まれつき突出した才能を持った人)」かもしれないというよりも、発達や見た目などを周りの子と比べて、“わが子の違い”を心配する親は多い。

「おもちくん」こと、星野未来くん(1歳)は、まさに“他の子とは違う”姿で生まれてきた。すべすべの白い肌によく動く手足。むっちりしたほっぺがチャームポイントの可愛らしい赤ちゃんだが、その瞳を覆うまぶたはない。頭蓋骨の半分と眼窩(がんか:眼球を支える頭蓋骨のくぼみ)、頬骨が欠損しており、鼻の骨や耳は小さい。顔と頭蓋骨の形成異常だが、病名がついておらず、世界でもめずらしい症状だという。

「やってること夜勤の看護師さんなんよ」


生後7カ月まで入院していた病院で3カ月の誕生日を迎えた未来くん。この頃はまだ下まぶたがなかったので、常にラップで眼球を保護している状態だった(写真:両親提供)

手術をして下まぶたを形成したものの眼球が剥き出しになっている部分があるため、一日数回の点眼と、夜眠るときには眼球に軟膏を塗ってラップで覆うケアが必要だ。嚥下障害があるので、よだれや痰は吸引し、食事は胃ろうから摂取する(現在、少しずつ口から食べることも練習中)。夜間は人工呼吸器で酸素を注入している。

最近は週に1度、数時間ほど専門の施設へ通所するようになったが、多くの時間は育休中の両親が自宅でケアしながら育てている。

「大変は大変ですけど、意外と慣れますよ」。母親のしほさん(33歳)はあっさりと言う。

半年前から配信するようになったYouTubeチャンネル「星のミライChannel」で、夜間のケアの様子を公開したところ、「やってること夜勤の看護師さんなんよ」「正直、こんなにいろいろなケアが必要だとは想像していませんでした。ご両親に頭が下がります」といったコメントがたくさんついた。


自宅で使用している医療機器を積んだベビーワゴン(写真:YouTube「星のミライChannel」より)

妊娠中から綴っているブログ「星空の下、優しい世界〜ウサギ顔で産まれた我が息子〜」でも、日々起こる未来くんの突然の体調不良などにも冷静に対処し、医療関係者顔負けの処置をしている様子が読み取れる。

「当たり前のようにやっていたことがここまで驚かれるとは想像していませんでした」。そう笑うしほさんに頼もしさを覚えるが、この境地に達するまでには、もちろん多くの不安や葛藤があった。

「もともと、ものすごくネガティブなんです。後ろ向きというよりは、前に進むためのネガティブというか……。わからないことが怖いので、不安要素を取り除きたいから、とにかく悪いことはすべて考えたり調べたりしておくんです。お腹の中にいたおもちくんに異常が見つかったときもそうでした」(しほさん)

オンリーワンの子が来てくれた!

異常が見つかったのは、妊娠22週で行った中期スクリーニング検査のときだった。そして24週で大学病院に転院。医師から告げられたのは、耳慣れない症状だった。


妊娠24週の頃の未来くんのエコー写真(写真:両親提供)

「頭部を上から見た際に頭蓋骨がレモン型に変形している」「個人差と言えないレベルに目が離れている」「鼻の骨が短い」「下顎がすごく小さい」

しかし、医師にもそうなっている原因はわからない。エコーで見る限り、見た目の異常以外は元気に育っているとのことでホッとしつつも、しほさんは症状から推定される病気をインターネットで鬼のように検索しては不安を募らせていった。

しかしそのとき、父親の孝輔さん(27歳)はこう思っていた。

「オンリーワンの子が来てくれた!」

その意味をこう話す。

「大抵の人が『自分の個性って何だろう』と迷うことが多いですよね。でもおもちくんは、もともとものすごい個性を持っているんです。それって強いな、と。生まれる前からそう思っていたけれど、YouTube配信を始めてからよりそう思うようになりました。


未来くんの頭蓋骨の変化。おでこ部分の頭蓋骨がないのがわかる(写真:両親提供)

動画では、ただただ幸せな日常を流しているだけ。それをたくさんの方が見てくれます。幸せに生きているだけで感動を与えられる。これっておもちくんだからできること。周りの子と比べてしまえば、できないこともたくさんあるだろうけれど、将来、『俺ってアドバンテージあるやん!』って考えてくれたらいいなと思っています」

約10カ月間、お腹の中で子どもを育てる不安やプレッシャーもある中での突然の事態で、しほさんの不安は当然だろう。一方、孝輔さんはまだ見ぬ子への実感は薄かったというが、それでも、孝輔さんのその底知れぬポジティブさに、しほさんは救われた。

「僕はまだはっきりしないことは考えても仕方ないと考える性格なんですが、彼女の場合は知ることで安心するんです。夜通し病気のことを調べて落ち込んでいることはわかっていたので、それを僕の前で吐き出してもらいました。そうすれば前に進める人なので。それに、お腹の子は“親ガチャ”に成功しているから大丈夫だって思ったんです。こんなに素晴らしい女性とめちゃくちゃポジティブな僕のもとに生まれてくるんだから」(孝輔さん)


1歳になった未来くんの食事の様子。口から少量の味見をしつつ、大部分は胃ろうで注入している(写真:YouTube「星のミライChannel」より)

“人とは違う”。それも障がいという形の差異だとしたら、ポジティブになれる人は多くないだろう。自分のことでも不安なのに、わが子がそうだったら。どれだけ厳しい世界に置かれてしまうのか心配で、人目に触れることをためらう親もいるかもしれない。

ところが、孝輔さんの発案で2人はYouTubeで未来くんの姿を多くの人に見てもらうことを選択した。現在アップされている動画の再生数は、数十万から多いもので300万回を超えている。

「最初はYouTubeでの発信には慎重だったんです」としほさん。

「妊娠中に異常がわかってからブログで発信していましたが、それは何度も推敲を重ねて言葉を慎重に選ぶことができるから。でも動画だと情報量が多くて、どんなふうに伝わるのかが未知数でした。考えが変わったのは、夫と何度も話し合いを重ねたことと、あとはプロレスラーの本間朋晃さんのお話を知ったことがきっかけでした」(しほさん)

独特のガサガサ声で話す新日本プロレスの本間氏は、試合中の怪我が原因で声が出しにくくなってしまったという。しかし、テレビ番組でその声を使って笑いをとったところ一躍人気者に。「あえてハンデを見せて人に愛されるようになった本間さんを見て、おもちくんにもそういう可能性があるかもしれないと思いました」としほさんは言う。

「使えるものは使ったらいいじゃん」

現に、障がいのある子の日常を発信する親は少なくない。パリコレクションの舞台に立った19歳のダウン症のモデル・菜桜さんや、背骨が湾曲する側弯症を患い、その矯正手術によって胸から下がまひしてしまった7歳のりおなさんなど、SNSやYouTubeでファンを獲得し、メディアにも多く取り上げられる人気者も出てきている。

障がいの有無を抜きにしても魅力的な彼女たちが、人々から支持される姿に勇気をもらう人も多いだろう。しかし、「親が子を売りものにしている」「本当に本人がやりたくて発信しているのか」というようにバッシングする人もいるのが現実だ。

「使えるものは使ったらいいじゃんと思うんですよね」。孝輔さんは言う。

「おもちくんには将来自立してもらいたい。YouTubeはその足掛かりになればと思って始めました。親子3人でずっと家の中に引きこもって、ひっそり生きていこうと思えばできます。でも、隠していても何のメリットもない。むしろ、家ではたくさん愛されてハッピーだったのに、将来進学したときなどにいきなり世間の厳しい目に晒されるほうがダメージは大きい。小さい頃から皆さんに見ていただいて、『人と違うからいいんだぞ』と伝えていきたいんです」(孝輔さん)


2023年の夏に退院した日の未来くん。名前には「明るい未来を作ってほしい」という願いを込めたという(写真:両親提供)

そう考えるようになったのは、作家の乙武洋匡氏の存在が大きいと話す。

「乙武さんが街を歩いていて、『うわあ』と言う人ってあまりいないですよね。『あ、あの有名な乙武さんだ!』ってなると思うんです。将来、おもちくんも可哀想な人ではなく『おもちくんだ!』と思われてほしい。有名になることで可能性が広がると思っています」(孝輔さん)

すでにたくさんのファンがいる未来くんだが、これから心ないことを言う人もいるだろう。それでも、「そういう人は、きっとリアルでもひどい言葉を投げかけてくる人。それだったら、アンチを恐れるよりも、発信し続けて仲間を増やしていったほうがいいと僕は思う」(孝輔さん)。

他の子をうらやましいと思う気持ちを認める

“人と違う”子の中には、未来くんのようにオンリーワンの個性や見た目にわかる特性を持つ子だけではない。

2022年に公表された文部科学省の調査によると、公立小中学校の通常学級で「知的発達に遅れはないものの学習または行動面で著しい困難」を示す発達障害の可能性がある子は8.8%。前回調査の10年前よりも2.3ポイント増えているという。見た目にはわからないけれど他の子とは違う、発達障害といった特性について悩む親もいる。

筆者も生後7カ月の息子を育てているが、わが子の発達にいちいち敏感になり、「他の子よりも遅れているのでは」「発達障害があるのでは」と不安になったり検索魔になったりしてしまうことが多々ある。

「人と比べてしまうのは当たり前。私も『おもちくんは人と違っていい』と思っている反面、周りの子と発達の違いが出てくるようになって落ち込むことがあります。でも最近、『他の子をうらやましい』と思う自分の気持ちを認めてあげようと思ったんです」(しほさん)

それはどういうことか。

「自分の子に障がいがあって生まれてほしいと思っている親はいないですよね。ショックを受ける気持ちは当然です。でも、子どもにそれは関係ない。障がい児の母親となった私の人生と、おもちくんの人生は別ものです。自分の人生だから、ショックを受けたり人をうらやんだりする気持ちは認めてあげたい。でも、親としての責任を忘れず、おもちくんの人生もしっかりサポートしていきたいと思っています」(しほさん)

そんなの綺麗事だと思う人もいるかもしれない。わが子の悩みに対して前向きに生きられる人ばかりではないだろう。でも、「たとえ綺麗事でも、それが本当になったらよっぽどいいじゃんって僕は思いますね」。超ポジティブな孝輔さんが思いっきり笑い飛ばした。

未来くんの“表情”から読み取れたこと


パパの手を握る、未来くんの小さな手(写真:両親提供)

未来くんは現在、1歳4カ月を迎えた。障がいの影響はわからないことが多く、検査を重ねているが、診断名もいまだついていない。

それでも、身長87?、体重10.8kgとなり、同年齢の子の中でも大柄なほうだ。孝輔さんの口の動きを真似したり、おもちゃのピアノを弾いたり、元気にたくましく成長している。

「あ、未来が泣いてる。パパちょっと見てくれる?」

取材中、しほさんが孝輔さんを促した。はた目には未来くんの表情に変化は見られない。呼吸を確保するために生まれたときから気管を切開しているので、未来くんは声を出せないのだ。また、まぶたを閉じることができないため、目で表情を作ることも難しい。でも、2人には未来くんの「泣いた」「笑った」などの感情の変化がわかるという。

帰り際、「よかったら、おもちくんに触ってあげてください」と声をかけていただいた。しほさんと孝輔さんに愛おしそうに見つめられた未来くんの小さな手を握る。

はた目ではなく正面から向き合うと、その空気感から確かに彼が笑っているのがわかった。それは、ただただ幸せそうな子どもの笑顔に見えた。

(折野 美佳 : 東洋経済 編集者)