Apple Batterseaにおけるライブストリーミングの舞台挨拶に立ったグレッグ・ジョズウィアック氏(筆者撮影)

アップルは日本時間5月7日23時からオンライン発表イベントを開催。iPad Pro、iPad Airのラインナップを刷新し、それぞれ11インチ、13インチモデルの展開となった。また新しいアクセサリーの追加、そして第10世代のiPadは1万円の値下げとなった。

イギリスで初めてのイベント開催

今回、アップルのイギリス・ロンドンの拠点である「Apple Battersea」でプレスイベントが開かれ、最新のiPad製品が披露された。ストリーミングに先駆けて舞台挨拶に立ったアップルのワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデント、グレッグ・ジョズウィアック氏は、アップルのイギリスでの40年間の歴史の中で、初めてのイベント開催であるとし、30カ国から集まったプレスを歓迎した。

発表された新製品と日本での価格は次の通り。いずれの価格も税込み、iPad Airは128GB Wi-Fiモデル、iPad Proは256GB Wi-Fiモデルの価格。

・ iPad Air 11インチ 9万9800円〜

・ iPad Air 13インチ 12万8800円〜

・ iPad Pro 11インチ 16万8800円〜

・ iPad Pro 13インチ 21万8800円〜

・ Magic Keyboard 11インチ(M4モデル向け) 4万9800円〜

・ Magic Keyboard 13インチ(M4モデル向け) 5万9800円〜

・ Apple Pencil Pro 2万1800円〜

なお、iPad(第10世代)は5万8800円〜に値下げ、iPad miniは8万4800円〜に値上げされた。

iPadはiPhoneから派生したタッチ操作を可能とする、スマートフォンよりも大きな画面サイズを持つデバイスだ。アプリを追加し、さまざまな用途で活用することができるが、小中学生に1人1台のデバイスを持たせる文部科学省の取り組み「GIGAスクール構想」でも、3分の1のシェアを獲得する重要な存在となった。

世界のタブレットPC市場を見ると、iPadはカテゴリーを牽引する代表的な製品で、40%のシェアを誇る。しかしながら直近の四半期決算(2024年第2四半期)では、新製品投入の遅れもあり、55億5900万ドルの売上高は前年同期比16.7%減という結果だった。

今回の新製品で、iPadラインナップ、ひいてはタブレットPC市場そのものへのテコ入れを図りたい狙いがアップルにはある。そのキーワードは、ディスプレー、AI、そして操作性の向上だった。

iPad Airに待望の大画面サイズ

iPadの代表的なモデルであるiPad Airは、これまでのM1チップがM2チップに刷新され、処理性能15%、グラフィックス性能25%、メモリーの帯域幅50%がそれぞれ向上し、AI処理を司るニューラルエンジンも40%高速化され、毎秒15兆8000億回の処理が可能となった。


13インチの大画面モデルが追加されたiPad Air (M2)(筆者撮影)

そのiPad Airに、これまでのモデルを踏襲する11インチに加えて、画面を拡大した13インチモデルが登場した。これまで大画面モデルはiPad Proにしか用意されておらず、最高の性能と大画面がセットで、もちろん価格もその分高くなっていた。

今回iPad Airに大画面モデルを用意することで、iPad Proの13インチを選ぶ場合と比べて、9万円安い選択肢を提供できるようになった。Proほど先進的な性能は必要ないが、大画面のiPadがほしい、というニーズに応えるようになった。

※ただしiPad Airは128GBストレージ、iPad Proは256GBストレージの違いがある。同じ256GBストレージに合わせると、価格差は7万4000円に縮まる。

ニュースが多かったのは、最上位モデルとなるiPad Proだ。

13インチモデルはアップルの製品の中でこれまでで最も薄い5.1mmを実現し、前モデル6.4mmだったことから、1.3mmも薄くなった。重さも682gから579gと、100g以上軽量化された。持っただけで薄さ、軽さを体験できるほどの変化だ。

なお11インチの新モデルは、前のモデルに比べて、0.6mmの薄型化、22gの軽量化にとどまっている。


iPad Pro 13インチ(手前)と11インチ(奥)。13インチには反射を防止するナノテクスチャガラスのオプションが追加された(筆者撮影)

今回の大きな進化のポイントは、新しいチップであるM4搭載と、ディスプレーを「Tandem OLED」という技術を用いたUltra Retina XDRへと進化させた点だ。これまでミニLED方式だったiPad Pro 12.9インチのディスプレーにはバックライトが存在し、その分厚みが必要となっていた。

有機ELはバックライトが不要となってディスプレーが薄型化され、配線など内部構造の大幅な再設計を伴って、5.1mmという薄型化を実現したという。

Tandem OLEDは、2枚の有機ELパネルを重ねて、反応速度と輝度の向上を狙う技術で、これを用いたUltra Retina XDRディスプレーを13インチモデルだけでなく11インチのiPad Proにも採用した。


M4チップと新ディスプレーを搭載したiPad Pro 11インチモデル(筆者撮影)

これまで11インチモデルは大画面モデルのような高輝度・高コントラストに対応しなかったため、小型モデルのユーザーにとっては待望の高品質ディスプレーとなる。通常は1000ニト、最大輝度は1600ニトに引き上げられた。

引き締まった黒と明るさ、発色を見ると、新しいディスプレーは非常に魅力的に映る。しかしこのディスプレーを実現するためには、Appleシリコンの再設計から出発しなければならなかった点には、アップルのエンジニアリングへのこだわりを強く感じさせる。

M4チップ投入で過激化するAI性能

今回のサプライズは、iPad Pro向けに最新のアップル自社設計のチップとなるM4が搭載されたことだ。

第2世代3nmプロセスを採用し、これまで100GB/秒だったメモリー帯域幅が120GB/秒に向上。M3で搭載したレイトレーシングなどのハードウェアアクセラレーションといったグラフィックス性能、そしてオンラインビデオの規格であるAV1のサポートなどが盛りこまれた。

Macにもまだ搭載されていないM4をiPad Proに搭載した理由は、新しいディスプレー技術であるTandem OLEDを搭載するためだという。これまでより複雑なディスプレーを、低遅延、低消費電力、正確な色と明るさの再現で制御する設計が盛りこまれた。明言はされなかったが、将来の有機EL搭載Macへの布石ともなるだろう。

加えて、機械学習、AI処理を司るニューラルエンジンも高速化され、M2で毎秒18兆5000億回だった処理性能は、M4では毎秒38兆回にまで引き上げられている。

iPad上で、画像やテキストの処理、画像解析、映像や音声のリアルタイム処理などを行うアプリケーションが揃いつつあり、同等のパフォーマンスを発揮できるライバルが存在しない状態をアピールすることで、生成AIとは異なるより幅広いAIの活用において、「iPadの圧倒的な差」があることを強調している。

新アクセサリーにも「驚き」が

薄くなったiPad Pro向けには新しいMagic Keyboardが用意された。キーボードのパームレスト部分の素材がアルミニウムに変更され、耐久性が向上している。

またキーボードには、画面の輝度や音声入力、再生コントロールなどを行うことができるファンクションキーが新たに搭載され、操作性が向上している。


iPad Pro向けMagic Keyboardも刷新され、アルミニウム素材とファンクションキーが追加された(筆者撮影)

それ以上に注目すべきは、大幅な軽量化だ。特に13インチモデルとMagic Keyboardの組み合わせは、13インチMacBook Airと同等の重さになるよう目指しており、可搬性でMacを選択していたユーザーにとっては、iPad Pro 13インチモデルという選択肢が広がることになる。

もう1つの新しいアクセサリーが、Apple Pencil Proだ。これは、新しいiPad ProとiPad Airで利用できる。


Apple Pencil Proは、握る(スクイーズ)操作が追加され、ツール選択が素早くなった。また感触フィードバックや、向き・回転の検出も新たに対応する(筆者撮影)

新たに感圧センサーと感触フィードバック、そしてジャイロセンサーが内蔵された。軸を押し込むと、ペン先がある画面に筆先や色の選択ができるツールチップが表示される。また、操作の取り消しを行う際に感触フィードバックがあり、操作がわかりやすくなっている。

これらはアプリに合わせた機能の割り当てが可能だ。開発者によって、Apple Pencil Proの活用方法が広がる道筋を付けたことで、iPad向けのアプリ開発競争が激化することが期待できる。

2017年以降取り組んできたデバイス上でのAI処理の大幅な性能向上に加えて、そもそものタブレットの操作性向上や活用範囲拡大に取り組んだiPadの新ラインナップは5月15日に発売される。

(松村 太郎 : ジャーナリスト)