ティームーの広告大進撃で D2C 市場が動揺。広告掲載費の高騰が叫ばれるも、業界の問題はさらに大きいかも
D2Cサービスに新しいヒール役が登場した。それは、格安通販サイトのティームー(Temu)だ。この中国企業が所有するオンラインマーケットプレイスは最近、良くも悪くもD2C関係者からの注目を集めている。
マーケターは、メタ(Meta)の広告プラットフォーム全体で広告費が急騰しているのはティームーのせいだ、と非難している。彼らはこれを略奪的成長と見ており、Xでの会話やLinkedInでの議論、ワッツアップ(WhatsApp)などでも怒りの言葉が多数交わした。
マーケターは、メタの有数の広告主のひとつであるティームーが、広告価格を吊り上げているのではないかと疑っている。そしてその疑惑は、いくらかは事実かもしれない。
ティームーの広告費は2023年1月から11月にかけて前年比で1000%という急騰を見せた。その約76%がソーシャルメディアに割り当てられ、大部分がメタに支払われた可能性が高い。
この広告大進撃は2024年も続く見通しだ。
媒体資料ポータルサイトのメディアレーダー(MediaRadar)が提供する2024年1月から3月までのデータによると、2024年第1四半期、ティームーはさまざまなソーシャルプラットフォームの広告に4600万ドル(約71億5700万円)以上を投資し、その98%をFacebookが獲得している。
このような巨額の支出は市場に波及効果をもたらすのは言わずもがなで、それが需要と供給の基本ともいえる。だが、どれほどの影響を及ぼしているのだろうか。これは、クイズ番組なら100万ドルの賞金が出るほどの難問だ。
広告価格に影響を与える要因は、市場の飽和からオーディエンスターゲティングの微妙な違いまで多岐にわたり、これらが複雑に絡み合っているなかで唯一の原因を指摘するのは困難だろう。
すべてのブランドがこれらの要因の影響を同程度に受けているわけではないという事実も、この問題をより難しくしている。最小限のCPMの変化やメタ戦略の変更だけで通常どおりビジネスを続けているD2C広告主がいる一方で、収益性の問題と戦っている広告主もいる。後者は、変化する状況に適応するため、新しいクリエイティブ戦略、メッセージング、広告アカウントなどを模索している。
取り急ぎ確かなことはひとつある。それは、ティームーが広告に多大な支出をしたことと、それに対する反応がD2C広告の現状について示しているということだ。
そこは熾烈な競争の場で、新規参入者による多額の投資が市場のダイナミクスを混乱させる可能性がある。広告掲載コストが高騰するにしたがい、小規模または新規の広告主ほど大きなハードルに直面するため、それらD2C企業は戦略を磨き、より革新的で費用対効果の高い広告アプローチを模索する必要になる。
「いくつかのアカウント、特に、より広範なターゲティング戦術を採用しているクライアントのCPMが急激に上昇している」と、マーケティングエージェンシーのGYKでメディア部門のリーダーを務めるアダム・テリアン氏は述べている。「あるアカウントはCPMが40%近く増加した結果、利益が大幅に減少した」と同氏は言い、「すべてがティームーのせいだとはいえないが、これはD2C広告主に広告チャネルを多様化しろと告げる警鐘に違いない」と語った。
つまり、メタ以外にも目を向け、Eメール、SMS、ロイヤルティプログラムなどさまざまなチャネルでリテンションチームと協力し、ユーザー生成コンテンツやクリエイターおよび開発チームとのコラボレーションなどのクリエイティブ戦略にフォーカスすべきということだ。
このような多様化は、とくにさまざまなプラットフォームで可視性を高めようとしているアカウントにとって、不安定な市場の変化がもたらす影響を和らげる緩衝材となる。鍵は、製品だけにフォーカスするのではなく、ブランド中心のアプローチを促進することだ。過去にティームーと協業したことがあるモバイルマーケティング分析会社のアップスフライヤー(AppsFlyer)でeコマース業界コンサルタントを務めるスー・アザリー氏は、「だからブランドは、ひとつか2つのチャネルに過剰に依存するのではなく、戦略を真の意味で多様化することが重要だ」と話している。
市場調査会社のエッジウォーターリサーチ(Edgewater Research)が公表した、ティームーによるメタ広告が急増したことを示すデータにより、一部のマーケターは、1週間未満で8000以上のメタ広告が追加されたことを鑑みながら、ティームーが金をばらまいて成長した証拠だと解釈した。一方で別のマーケターは、「びっくりする数字ではあるが、支出の増加を決定的に示しているわけではない」ともデータをみながら話している。
独立系アナリストで投資家のエリック・スーファート氏は、「ティームーに関連する広告価格に対する懸念のほとんどは誇張されていると思う」と述べ、こう続けた。「ティームーはメタやそのほかのソーシャルプラットフォームでのアプリインストール広告に前例のない金額を費やしているが、その広告はインプレッションのロングテールで戦っている可能性がある(つまり、もっとも価値の高いユーザーをターゲットにしていない)」。
より簡単にいうと、メタの広告エコシステムは非常に広大であるため、1件の広告主が急激に支出を増やしたからといって、それで広告価格が大幅に上昇するとは考えにくいということだ。それも一理あるかもしれないが、現実を見ると、このような変化によって大きな負担を被る人は常に存在する。
ブランドコンサルタントに注力するエージェンシー、アパーチャー(Aperture)の創業者で、ティームーの宣伝活動の中心にいたハンナ・パルヴァズ氏が証言する。
「ティームーが1週間で8000件の広告をローンチしたことで、キャンペーンのCPMが急上昇し、クライアントがノイズをはねのけられるようにエージェンシーが最低支出額を引き上げた動きがあるのは知っている。これは現在、非常によくいわれている理屈だが、もちろん、ティームーだけが要因ではない」。
ティームーがD2Cの星を丸ごと消し去った主要因か? 確かに、一部のビジネスの勢いをそいではいるが、完全に消滅させているわけではない。Facebookの広告価格の高騰や広告測定の混乱から、配送料の高騰、公開市場の低迷、予想を下回る顧客ベースに至るまで、暗い要因の組み合わせがこれらのD2C企業に影を落としている。
単刀直入にいうと、D2Cはバブルがはじけ、真正面から現実にぶつかっているともいえる。
[原文:Temu’s ad blitz exposes DTC turmoil: decoding the turbulent terrain]
Seb Joseph、Krystal Scanlon(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:島田涼平)
マーケターは、メタ(Meta)の広告プラットフォーム全体で広告費が急騰しているのはティームーのせいだ、と非難している。彼らはこれを略奪的成長と見ており、Xでの会話やLinkedInでの議論、ワッツアップ(WhatsApp)などでも怒りの言葉が多数交わした。
巨額の支出が市場を変える
ティームーの広告費は2023年1月から11月にかけて前年比で1000%という急騰を見せた。その約76%がソーシャルメディアに割り当てられ、大部分がメタに支払われた可能性が高い。
この広告大進撃は2024年も続く見通しだ。
媒体資料ポータルサイトのメディアレーダー(MediaRadar)が提供する2024年1月から3月までのデータによると、2024年第1四半期、ティームーはさまざまなソーシャルプラットフォームの広告に4600万ドル(約71億5700万円)以上を投資し、その98%をFacebookが獲得している。
このような巨額の支出は市場に波及効果をもたらすのは言わずもがなで、それが需要と供給の基本ともいえる。だが、どれほどの影響を及ぼしているのだろうか。これは、クイズ番組なら100万ドルの賞金が出るほどの難問だ。
小規模D2C企業hは広告チャネルの多様化を迫られる
広告価格に影響を与える要因は、市場の飽和からオーディエンスターゲティングの微妙な違いまで多岐にわたり、これらが複雑に絡み合っているなかで唯一の原因を指摘するのは困難だろう。
すべてのブランドがこれらの要因の影響を同程度に受けているわけではないという事実も、この問題をより難しくしている。最小限のCPMの変化やメタ戦略の変更だけで通常どおりビジネスを続けているD2C広告主がいる一方で、収益性の問題と戦っている広告主もいる。後者は、変化する状況に適応するため、新しいクリエイティブ戦略、メッセージング、広告アカウントなどを模索している。
取り急ぎ確かなことはひとつある。それは、ティームーが広告に多大な支出をしたことと、それに対する反応がD2C広告の現状について示しているということだ。
そこは熾烈な競争の場で、新規参入者による多額の投資が市場のダイナミクスを混乱させる可能性がある。広告掲載コストが高騰するにしたがい、小規模または新規の広告主ほど大きなハードルに直面するため、それらD2C企業は戦略を磨き、より革新的で費用対効果の高い広告アプローチを模索する必要になる。
「いくつかのアカウント、特に、より広範なターゲティング戦術を採用しているクライアントのCPMが急激に上昇している」と、マーケティングエージェンシーのGYKでメディア部門のリーダーを務めるアダム・テリアン氏は述べている。「あるアカウントはCPMが40%近く増加した結果、利益が大幅に減少した」と同氏は言い、「すべてがティームーのせいだとはいえないが、これはD2C広告主に広告チャネルを多様化しろと告げる警鐘に違いない」と語った。
つまり、メタ以外にも目を向け、Eメール、SMS、ロイヤルティプログラムなどさまざまなチャネルでリテンションチームと協力し、ユーザー生成コンテンツやクリエイターおよび開発チームとのコラボレーションなどのクリエイティブ戦略にフォーカスすべきということだ。
結局、広告価格高騰の要因は何か?
このような多様化は、とくにさまざまなプラットフォームで可視性を高めようとしているアカウントにとって、不安定な市場の変化がもたらす影響を和らげる緩衝材となる。鍵は、製品だけにフォーカスするのではなく、ブランド中心のアプローチを促進することだ。過去にティームーと協業したことがあるモバイルマーケティング分析会社のアップスフライヤー(AppsFlyer)でeコマース業界コンサルタントを務めるスー・アザリー氏は、「だからブランドは、ひとつか2つのチャネルに過剰に依存するのではなく、戦略を真の意味で多様化することが重要だ」と話している。
市場調査会社のエッジウォーターリサーチ(Edgewater Research)が公表した、ティームーによるメタ広告が急増したことを示すデータにより、一部のマーケターは、1週間未満で8000以上のメタ広告が追加されたことを鑑みながら、ティームーが金をばらまいて成長した証拠だと解釈した。一方で別のマーケターは、「びっくりする数字ではあるが、支出の増加を決定的に示しているわけではない」ともデータをみながら話している。
独立系アナリストで投資家のエリック・スーファート氏は、「ティームーに関連する広告価格に対する懸念のほとんどは誇張されていると思う」と述べ、こう続けた。「ティームーはメタやそのほかのソーシャルプラットフォームでのアプリインストール広告に前例のない金額を費やしているが、その広告はインプレッションのロングテールで戦っている可能性がある(つまり、もっとも価値の高いユーザーをターゲットにしていない)」。
より簡単にいうと、メタの広告エコシステムは非常に広大であるため、1件の広告主が急激に支出を増やしたからといって、それで広告価格が大幅に上昇するとは考えにくいということだ。それも一理あるかもしれないが、現実を見ると、このような変化によって大きな負担を被る人は常に存在する。
多くの課題が見え隠れするD2C
ブランドコンサルタントに注力するエージェンシー、アパーチャー(Aperture)の創業者で、ティームーの宣伝活動の中心にいたハンナ・パルヴァズ氏が証言する。
「ティームーが1週間で8000件の広告をローンチしたことで、キャンペーンのCPMが急上昇し、クライアントがノイズをはねのけられるようにエージェンシーが最低支出額を引き上げた動きがあるのは知っている。これは現在、非常によくいわれている理屈だが、もちろん、ティームーだけが要因ではない」。
ティームーがD2Cの星を丸ごと消し去った主要因か? 確かに、一部のビジネスの勢いをそいではいるが、完全に消滅させているわけではない。Facebookの広告価格の高騰や広告測定の混乱から、配送料の高騰、公開市場の低迷、予想を下回る顧客ベースに至るまで、暗い要因の組み合わせがこれらのD2C企業に影を落としている。
単刀直入にいうと、D2Cはバブルがはじけ、真正面から現実にぶつかっているともいえる。
[原文:Temu’s ad blitz exposes DTC turmoil: decoding the turbulent terrain]
Seb Joseph、Krystal Scanlon(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:島田涼平)