ノットビア(Not Beer)という新たな炭酸水ブランドが、アルコールのようなパッケージの缶入り飲料水の人気に便乗している。

ノットビアは、見た目も飲み心地もビールのようだが、味は「ビールテイストゼロ(zero beer taste)」のノンアルコール飲料、として宣伝されている炭酸水だ。このブランドはリキッドデス(Liquid Death)の成功や、ノンアルコール飲料への関心が高い禁酒中の愛飲家を惹きつけようとする大手ビールメーカーの試みからインスピレーションを得ているという。ノットビアの赤と白の配色の缶はバドワイザー(Budweiser)の定番の缶を彷彿とさせる。同ブランドはエンジェル投資家から190万ドル(約2億9000万円)を調達し、4月にAmazonと一部小売店で発売された。創業者のディロン・ダンデュランド氏によると、この新しいサブカテゴリーには、アルコールのヘルシーな代替品やTikTok向けの風変わりなブランディングなど、現在進行中のトレンドがいくつか取り入れられている。

「このアイデアを思いついたのは、運転中に『炭水化物ゼロ』と書かれたバドライト・ネクスト(Bud Light Next)の看板を見たときだった」とダンデュランド氏は米モダンリテールに語った。「それなら、一体どの時点でこれはただの水になるのだろうかと思った」。

アルコールを飲まないZ世代へのアピール戦争



Z世代はミレニアル世代に比べてアルコール摂取量が20%少ないと報告されており、この世代を獲得するためにノンアルコールブランドのあいだで競争が起きている。新たな資金調達ラウンドにより14億ドル(約2159億円)の評価額に達したことを最近発表したリキッドデス(Liquid Death)に加えて、もう1社有望な新興ブランドがある。それは、ホップウォーター(Hop Wtr)だ。2020年に設立されたホップウォーターは、ノンアルコールのホップ入り炭酸水を販売している。2021年、モデロ(Modelo)とコロナ(Corona)の親会社であるアルコールポートフォリオブランドのコンステレーション・ブランズ(Constellation Brands)は、ホップウォーターの少数株式を獲得した。

しかしダンデュランド氏は、ノットビアのようなブランドにはまだホワイトスペースがあると話す。「アルコールのメリットの多くは、ファンタジーの世界に浸れる点」であり、その感覚はノンアルコールカクテルでは簡単には再現できないと同氏は言う。「当社は炭酸水としてノンアルコールのトレンドに乗っているので、それに合わせてアルコールマーケティング的なアプローチを取っている」。

「私には、ノンアルコール飲料の多くはアルコール飲料の味を真似して、ヘルシーな代替品としての位置付けを試みているように思える」とダンデュランド氏は話したが、必ずしもそうとはいえない。カクテルを模倣したノンアルコールドリンクにアルコールは含まれていないが、モクテルの多くには依然として糖分や炭水化物がかなり含まれている。

リキッドデスの影響力



「ビールに似せて、飲料水売り場の陳列棚で目立つようにしたかったので、この名前を選んだ」とデュランド氏は語る。ノットビアは米国産の水を使用しているので、国内のどこででも製造できる。アルプスからの輸入水ではない。リキッドデスは発売当初、アルプスの輸入水を使っていたが、のちに米国産に切り替えている。

配合を考え出して、缶入り飲料水の製造パートナーを見つけるのは予想以上に困難だったとデュランド氏は話した。同氏によると「味わいと水分補給効果を高めるために、我々は逆浸透膜浄水システムを用いて、独自の電解質とミネラルをブレンドしている」という。その結果、ほかの炭酸水ブランドよりも炭酸を弱め、ビールに近い泡立ちを実現している。「舌が刺激でピリピリするようなこともあまりないので、たくさん飲んでも大丈夫だ」。

ダンデュランド氏は、リキッドデスがノットビアへ与えた影響について率直に語っている。結局のところ、リキッドデスは精製水をビールのように売り出すことでその存在を世に知らしめた。このカテゴリーの発展は、リキッドデスの急成長を見れば明らかだ。リキッドデスは2023年に、2億6300万ドル(約403億円)の小売売上高を記録したという。

「いまがスタートするのに絶好のタイミングだと思う。(リキッドデスによって)人々がこのような楽しい飲料水を求めていることが証明された」。

いつでも飲めるということをアピール



そのなかで際立つには独自のマーケティングが鍵となるため、ノットビアは「never a bad time(ノットビアを飲むのに悪いタイミングはなく、アルコール飲料のように飲み過ぎて体調が悪くなることはないの意)」というスローガンを掲げている。また、ダンデュランド氏はブランディングのためのコンテンツのチャンスも多くあると語る。「TikTokやインスタグラムのリールズ(Reels)に最適な短い動画を作成し、1日のさまざまな時間にノットビアを飲んでいる様子をアピールすることができる」。

まず手はじめに、同社は本拠地があるテキサス州での迅速な販売促進に注力している。「テキサス州は重要な市場だが、一般的にブランドが次々と進出するロサンゼルスやニューヨークほど競争は激しくない」とダンデュランド氏は言う。ノットビアはまずAmazonで発売され、その数週間以内に、テキサスを拠点とするスーパーマーケットチェーンのブルックシャイアーズ(Brookshire’s)を皮切りに一部の小売店に参入するという計画を立てた。

ベンチャーファンド兼新興スタジオであるサイエンスインク(Science Inc.)の共同創業者兼マネージングディレクターを務めるマイク・ジョーンズ氏は、リキッドデスの初期投資家だった。同氏はこうした健康志向のノンアルコール製品の市場は今後も成長し続けると予想している。「社交の場において、アルコール飲料の外観に似せた缶入り水を持つことには、シンプルな魅力がある」。

ノンアルコール市場での商機拡大を狙う



しかし現在、アルコールを控えている人々には、モクテル、炭酸飲料、フレーバーウォーター、普通の水など、さまざまな選択肢がある。ジョーンズ氏はそのなかで革新性と関連性を維持するために、ブランドはブランディングやフレーバー開発、インパクトのあるマーケティングキャンペーン、コラボレーション、楽しいパートナーシップを通じて目立たなければならないと話す。たとえばリキッドデスは、e.l.f.のような美容ブランドとのコラボレーションを通じて、消費者へのリーチ拡大を狙っている。

これはノットビアが採用予定のマーケティング戦略だ。いまのところ同社は有料デジタル広告に投資する予定はなく、むしろその戦略の大部分は、小売とインフルエンサーマーケティングの両方でできる限り多くのサンプリングを実施することに注力している。「我々は大手インフルエンサーに送る予定の楽しいVIPメーラーを用意している」とダンデュランド氏は語る。そのメーラーではコミカルな「never a bad time」コンテンツが紹介される予定だ。今後数カ月間には、自社コンテンツやオーガニックなソーシャルメディアキャンペーンも計画している。

ダンデュランド氏によると、これまでのところ同社のこのカテゴリーへの参入は小売バイヤーから喜ばれているようだ。「これは退屈なペットボトル飲料に代わるものであり、市場に出回っている既存の炭酸水より遊び心のある代替品だ」。

[原文:New sparkling water brand Not Beer wants to capitalize on Liquid Death’s popularity]

GABRIELA BARKHO(翻訳:ぬえよしこ、編集:都築成果)
Image courtesy of Not Beer