摩訶不思議・千変万化なフードコートをテーマに、図鑑のように記録していく新連載。第1回は神奈川県川崎市高津区溝口の「マルイファミリー溝口」内のフードコートです(筆者撮影)

時にレストランであり、喫茶店であり、高齢者の集会所にもなる「フードコート」。その姿は雲のように移り変わりが激しく、楽しみ方は無限大。例えるなら「市井の人々のオアシス」だ。

本連載では、そんな摩訶不思議・千変万化な「フードコート」を巡り、記録しながら、魅力や楽しみ方を提唱していく。第1回は神奈川県川崎市・溝口の「マルイファミリー溝口」のフードコートを訪れる。

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フードコートについて、どんなイメージを持っているだろうか。

休日に家族で行って、無邪気にラーメンやらジュースやらを楽しんだ子どものころを思い出す人もいれば、友人と何をするでもなく、ただただ話し続けた学生時代を思い起こす人もいるだろう。

いやいや、現在進行形で、毎週のように家族を連れていっていますよ、という子育て世帯もいれば、町内会の集会所代わりにしているシルバー世代もいるかもしれない。空いている時間帯は、何ならオフィスにもなりうる。

このように、利用者のライフステージやニーズに応じて、姿を変えるのがフードコートの大きな特徴だ。


(写真:やえざくら/PIXTA)

さらに、フードコートは「これ」と決まった組み合わせがない。つまり立地によって入居している店舗は全く違うし、数カ月で店舗が入れ替わることもある。

結論、フードコートとは何か。私たちは何度も通い、何十時間も過ごしたことがあるのに、何一つとして確たることを断言できない。強いて表現すれば、何でも書き込める白紙、とでもいおうか。

本連載では、そんな摩訶不思議・千変万化なフードコートをテーマに、図鑑のように記録していく。記念すべき第1回は神奈川県川崎市高津区溝口の「マルイファミリー溝口」内にあるフードコートを扱う。

【画像】溝口マルイファミリーのフードコートはまさに「無限の可能性」を感じる場所だった…街とフードコートの様子を見る(27枚)

平成と昭和が同居する街・溝口

神奈川県川崎市。市内中心地は間違いなく、多くのJR線が通っており、ラゾーナ川崎プラザなどの商業施設、さらに富士通や東芝といった企業の拠点がある「川崎駅」周辺だが、第2の“都市”が高津区溝口だ。


東急田園都市線・溝の口駅(筆者撮影)


JR南武線・武蔵溝ノ口駅。こっちは『の』ではなく『ノ』。なお地名は『溝口』だ(筆者撮影)

溝口中心部には、東急田園都市線の「溝の口駅」、そしてJR南武線「武蔵溝ノ口駅」の2つが存在する。地図上で見ると、縦に長い川崎市を縦断するような形で走るのが前者であり、やや横に走るのが後者だ。両駅は「キラリデッキ」という名のペデストリアンデッキで連結しており、夕方どきは東急からJRへ、あるいはJRから東急へと乗り換える学生やサラリーマンが行き交う。

溝口の魅力といえば、住民視点なら東急線とJRの2本が通っており、特に田園都市線に乗れば1本・20分弱で渋谷までアクセスできる点が挙がる。逆に、外から訪れる身からすれば、その懐の広さに魅力を感じるし、驚かされる。


近代的な北口(筆者撮影)

バスロータリーや前述のキラリデッキがある北口は、開けた印象があり、老若男女が行き交う。学生にとっては、大型のゲームセンターに、パッと見ただけでカラオケが1つ、2つ、3つ――と、この上ない遊び場であるし、商業施設も、1997年に開業したノクティ1と2(ほぼマルイファミリー)があるため、買い物にもうってつけだ。

西口の商店街は「昭和レトロ」でよくバズる

一転して、反対側にはかなりディープな「溝の口西口商店街」が広がる。溝の口駅西口を降りて左を向けば、昭和に文字通りタイムスリップしたかのような薄暗いアーケードが口を開けている。


北口と打って変わって、レトロな雰囲気漂う西口(筆者撮影)


アーケードの入り口を入ると、居酒屋が立ち並ぶ(筆者撮影)

線路沿いに居酒屋が連なり、夕方前にもかかわらず客足もそこそこ。どこに入ろうか物色する人と、奥の住宅地へ足早に通り過ぎようとする人のコントラストが面白い。古めかしい印象とは裏腹に、意外にも新陳代謝が機能しているようで、新規オープンすると思われる店もあった。

フードコート激戦区? 異例の「1施設2フードコート」

さて、本題のフードコートへと(徐々に)話を進めていこう。実はここ溝口は「フードコート激戦区」である。激戦区といっても2つしかないのだが、驚くべきはその2つが同一施設にあるということ。そしてその施設こそが、北口にあるノクティ2≒マルイファミリー溝口だ。


北口にはノクティ1・2があり、2はほとんどマルイ(筆者撮影)

丸井グループの決算資料によると、2023年3月末時点のマルイの店舗数は22店舗。そのうち、マルイファミリーは3店舗で、オープンが古い順に溝口、志木、海老名というラインアップになっている。立地から考えて郊外店舗であり、その分売り場面積も広いことから、2023年3月期の小売り取扱高はECも含めたグループ内ランキングで4位と、それなりに上位に位置している。

そんなマルイファミリーにあるフードコートが2階の「HARA8(はらっぱ)」と、1階の「FIND WOOD FOOD COURT」だ。


2つの施設に、これでもかとばかりに飲食店がギッシリと入居している(筆者撮影)


フードコートらしからぬ? ラインアップのはらっぱ。細かい話だが1階がノクティの運営、2階がマルイの運営のようだ(筆者撮影)

はらっぱのほうは、どちらかというとハイソな印象を受ける。「シナボン」に「シュマッツ ビア スタンド」といった海外系のチェーンに加え、天ぷらの「えびのや」や寿司店「鮨一輝」といった高級路線の店が並ぶ。座席も、ちょっとおしゃれな感じでソファ席などもあり、地元の有閑マダムといった風体の人が多い印象を受けた。

一方、フードコートとして模範的ともいえるラインアップがそろっているのは、1階にあるFIND WOOD FOOD COURTだ。


「ザ・フードコート」なラインアップのFIND WOOD FOOD COURT(筆者撮影)

「リンガーハット」に「ペッパーランチ PLUS」、さらに「ケンタッキーフライドチキン」や「ミスタードーナツ」など、王道中の王道と呼ぶべきチェーンが営業している。

客層もはらっぱと違い、小さな子ども連れや学生が多い。それだけでなく、高齢層や主婦層もちらほらと、連載の第1回にふさわしい「ごった煮」感があるフードコートだ。はらっぱではなく、こちらで時間を過ごしてみよう。


雰囲気はこんな感じ(出所:店舗デザイン.COM)

夕方、午後5時前で客入りはそこそこ。空席率は2〜3割ほどといったところだ。着席してあらためて全体を見渡すと、食事メインの店に加え、「ドトールコーヒー」もあるのは珍しい。周囲に学校も多いことから、学生需要も狙っているのだろう。

しかし、意外にも学生の多くはドトールでドリンクを買うのではなく、他の店を選んでしっかりと食事をしている。「早弁(早めの弁当)」ならぬ「早晩(早めの晩ご飯)」といったところか。

いや、育ち盛りゆえ、「おやつ」として食べているのだろうか。アラサーの筆者には、その感覚はもはや懐かしいものである。


とにかく赤・黄色が多い(筆者撮影)

迷ったが、初回だし食事をとることにする。さてどこにしようか。パッと目に入る「すき家」も「ゴーゴーカレー」も、赤と黄色主体の看板でインパクトが強い。ペッパーランチも看板が黄色基調で、どの店舗も主張が強く、迷わされる。

ファミリーになり切る

どうしようかと悩んだ結果、マルイファミリーにちなみ、休日にはボリュームゾーンになると思しきファミリー層の気分に浸ってみようと考えた。チョイスはゴーゴーカレーにペッパーランチ、さらにリンガーハットで、カレー・肉・麺と死角のないメンツをそろえる。

それぞれの店舗で注文して、呼び出し用のデバイスを受け取る。フードコートといえば、これである。今か今かと見つめて待ち、驚かないように待機するも、結局、毎回のように呼び出し音の大きさに驚かされる……でも、これも込みでの「フードコート」だ。

呼び出し音に驚いた後で…いただきます!

今回は、ピークタイムというわけでもないので、早々に各店舗から呼び出された。


各店舗で違う、呼び出し用のデバイス。左から、ゴーゴーカレー、ペッパーランチ、リンガーハット(筆者撮影)


絶対に外さないラインアップがここにはある。なお今回は担当編集と2人で来ているので、この量と相成った(筆者撮影)

何となくのイメージとしては、子どもが注文したゴーゴーカレーの「ゴリえもんカレー」、親がそれぞれ頼んだちゃんぽんとビーフペッパーライスといった感じ。

ビーフペッパーライスは調理する工程が楽しく、子どもが「焼かせて!」と喜ぶ姿が目に浮かぶ。ちゃんぽんは野菜たっぷりなので、ちょっと小分けにして子どもに食べさせるのも良いだろう。


これが(筆者撮影)


こう(筆者撮影)

食べながら周囲を眺める。授業や部活が終わってから、あるいはゲームセンターやカラオケで一通り遊んでから来たのだろうか、徐々に学生が増えてきた。

そして、食事をして、食べ終わった後も楽しそうに話し続ける、長っ尻の学生が多い。そう、そのシームレスな楽しみ方もフードコートならではの風景といえる。


「ゴリ“えもん”」といいつつ、ウルトラマンっぽくないか?(筆者撮影)

瞬く間に3つの姿を見せる、だからフードコートはやめられない

時刻は17時を過ぎたが、幸いにもこの日の席の埋まりは6〜7割ほど。テーブル席もちょこちょこ空いている。

ということで、筆者もちょっと長居してみよう。そうなると、さっきまでは腹ペコだったこともあり、何を食べようか迷う「魅惑のレストラン」だったフードコートが、一気にコワーキングスペースにも思えてくる。

ドトールがあることで、Wi-Fiを使えるのがかなり良い。給水所があるので水は無限に飲めるし、ドトールのコーヒーをベースにしながら、小腹が空いたらミスドも、「サーティワンアイスクリーム」もある。

フードコートをさながらオフィスにして、いま筆者はアイスコーヒーを飲みながらこの原稿を書いている。レストランから喫茶店、さらにコワーキングスペースへ。わずか数十分の間に「3つの姿」を見せてくれる、やはりフードコートは摩訶不思議である。

(鬼頭 勇大 : フリーライター・編集者)