北陸新幹線「敦賀駅」、在来線乗り換え時の憂鬱
敦賀駅高架橋直下の1階が連絡する在来線特急ホーム33番線 に「サンダーバード」 、34番線に「しらさぎ」が待ち受ける(写真:久保田 敦)
鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2024年6月号「めでたさも中くらいか いつまで続く?憂鬱な三次元乗り換え」を再構成した記事を掲載します。
みどりの窓口は長蛇の列
3月16日に開業した北陸新幹線金沢―敦賀間の試乗に訪れ、敦賀駅での新幹線と在来線特急の乗り換えを体験した。金沢12時05分発の「つるぎ21号」から「サンダーバード」へと乗り継ぐ。延伸開業に北陸全体が沸いており、金沢駅のみどりの窓口は外国人観光客を含めて長蛇の列。30分から1時間は待ちそうと最後尾の人が言う。列としてははるかに短い「みどりの券売機」に並ぶ。
北陸新幹線と「サンダーバード」「しらさぎ」を乗り継ぐ場合、当日中であれば1本の列車と見なされ(敦賀で途中下車はできない)、別々に買うより530円引きとなる。乗り継ぎ列車は選択できるが、券売機の画面操作を単純に進めると、当然ながら最短の乗り継ぎ列車が表示される。1〜2本あとの「サンダーバード」となると、ひと手間ふた手間、画面操作が増える。傍らの案内駅員にレクチャーしてもらいどうにか発券に漕ぎ着けた。操作のスピードは若者でさえ窓口係員の目にも止まらぬ早業とは段違い。私らには切符も買えないと初老夫婦のボヤキが聞こえる。
金沢から敦賀までは在来線特急時代は1時間20分前後だったのが、新幹線では各駅停車の「つるぎ」でも1時間を切るまで縮まった。速達列車は41分で走る。越前たけふまでは平野部が主だから眺めもよいはずだが、新しい新幹線のつねで鬱陶しい防音壁がしばしば遮る。
小松、加賀温泉、芦原温泉があっと言う間に過ぎ、福井に着く。内陸に入って北陸自動車道が現れると越前たけふ。武生市街地は村国山を挟んで離れているが、高架上から見る駅前の田園の真ん中に四角い造成地ができていた。
越前たけふ―敦賀間はトンネル部分を除いてスプリンクラーが設置されており、冬は貯雪型の区間と異なる光景になるはずだ。ふと視線を正面の車端に移すと、QRコードから敦賀駅乗り換え方法を動画で見られること、運行情報も入手できることの案内がスクロールしている。発車後の自動放送でも停車駅や到着時刻は告げず、「JRおでかけネット、またはJR西日本アプリWESTERからご確認いただけます」と案内していた。そういう時代になった。
ほどなく新北陸トンネルに入り、中で3分経過した頃に敦賀到着の案内が流れてきた。まずは自動放送が北陸線・小浜線・ハピラインふくい、そして「サンダーバード」と「しらさぎ」への乗り換えを告げる。追って車掌の放送が流れ、「京都・新大阪方面の特急サンダーバード22号大阪行きは13時14分、33番のりば、米原方面の特急しらさぎ8号名古屋行きは13時10分、34番のりばから発車します。サンダーバード号にお乗り換えのお客様は青色のライン、しらさぎ号はオレンジ色のラインに沿って……」と知らせる。
敦賀駅では乗り換えを短時間で完結させるため、開業前の1月、JR西日本社員やグループ会社の関係者約1000人を集めてリアルのシミュレーションを行い、その結果を顧みて乗換改札口から床に色分けした誘導線を引いている。「しらさぎ」は停車位置を変更し、階段の混雑集中を緩和した。
新幹線では珍しい1面2線の形式を持つ福井駅の新幹線ホーム。福井は対東京では乗り換えを解消して便利になったが対関西・中京は課題を抱えた(写真:久保田 敦)
どうする大荷物を抱いたエスカレータ駆け下り
大阪・米原方面から北陸新幹線へは「しらさぎ」「サンダーバード」の順で到着して「サンダーバード」が最短8分の接続となり、特急の途中停車駅の関係で多少の幅も生じるが、逆の北陸新幹線から在来線特急へは「しらさぎ」が先の接続で、こちらは標準的に8分である。「しらさぎ」接続がないパターンでは「サンダーバード」が8分接続になる。
定時であっても初体験の8分乗り換えは気が急く。足早の流れに必死でついて行こうとするお年寄りや、杖をついた人の姿も、1人や2人ではない。右空きのエスカレータを靴音を響かせ下りてゆく人もいる。幼児を抱っこしたお母さんの、畳んだベビーカーが右に少しはみ出している。乗換改札で手間取ったのか、少し遅れた旅行者が大荷物を抱いてエスカレータを駆け下りる場面にも遭遇した。
今回の新幹線延伸に合わせて在来線特急の「サンダーバード」と「しらさぎ」は全車指定席とされた。敦賀駅での新幹線から特急への乗り継ぎは3階から2階コンコース、そして1階へと、上から下への流れである。したがって「サンダーバード」と「しらさぎ」に自由席があったなら、大勢が我先に駆け下りることになっただろう。自由席をなくすはずだ。
そして、万が一に長いエスカレータを駆け下りる人が踏み外したら、ふとした弾みで大荷物が手を離れたら……とにもかくにも、まずはエスカレータの右空けと駆け下りを強制的に阻止しなければならない。ハンドマイクで呼びかけたり、自動音声を流すだけでは効果はないと思う。
8分乗り換えを見ていると、やはり相当にきびしそうだった。下車したホームを離れるのが遅れる人もいる。改札口で時間を喰う人もいる。敦賀駅ではそういった人が乗り遅れないよう、神経を尖らせていた。けれども、前日の喧噪の中を含めて「お急ぎください」と連呼する声は聞かなかった。そして若い駅員がコンコースから人の消えたホームまで小走りで確認し、階段の下で頭上に大きなマルを描いてコンコースの駅員に伝達している。それからややあって、出発信号機が赤から青に替わった。駅員の確認が運転事務室に伝わり、当務駅長の最終チェックを経て信号を切り替えているのだろう。
混雑時間帯の乗換改札口の光景。自動改札を奔流のように人が流れてゆくが、発車標を見上げて立ち止まる人は多く、有人改札口もすぐに渋滞が発生する(写真:久保田 敦)
今は関西でも北陸人気に沸いているが
今般の北陸新幹線金沢―敦賀間開業は、在京各社の報道では東京から福井まで1本で行けるようになり、とても便利になったと伝えていた。バラエティ番組も福井や北陸に焦点を当てた。東京からすれば、米原あるいは金沢での乗り継ぎがなくなり、雪や風雨に気を揉む確率も格段に減った。しかし、名古屋や関西視点に切り替えると、事情は反転する。例として北陸新幹線が金沢まで開業した際、金沢は空前の観光ブームとなり、富山も少なくない数の企業が本社を移したり機能を分散させるなどの動きがあった。だが、そのぶん東京に顔が向いてしまったと評される。
今回、富山は乗り換えが敦賀に移っただけの変化と言ってもよいが、関西・名古屋にとって福井・金沢までが煩わしさを伴うこととなり、北陸全体が遠退く事案と見られ、心配されている。現実はどうなのか。
在阪の旅行社に聞いたところ、今のところはじつは好調だと言う。添乗員が同行する団体旅行を例にすると、さすがに1〜3月は能登半島地震の影響で前年より2割減ったが4〜6月の予約は逆に2割も増えている。個人タイプの商品も1〜3月は半分以下だったが、4〜6月分は前年並みに回復し、新幹線が延びたことと「ふっこう割」の適用が相まって北陸の注目度が高まっている。一般に関西人は新しいもの好きと言われるせいか、今のところ乗り換えや、特急料金の値上がり分に伴う商品価格の上昇といったデメリットが影響するような判断はできないらしい。
ただ、値引きが適用される旅行商品においてはJRの料金分の値上げは個人できっぷを買う場合より以前との差が大きく出るので、開業ブームが去った後は未知数だ。しかしそうしたことも織り込んで、北陸は顧客の目減りを避けるべく関西方面で強いプロモーションを展開しており、今秋10〜12月のデスティネーションキャンペーンに向けても準備を進めている、と言う。
九州などでは新幹線で流動が大いに活発化した一方、区間によっては高速バスが攻勢を強めた。しかし、北陸では今のところ、それもない。と言うのは、関西〜北陸間ではほぼ全線で時速130km運転を行ってきた「サンダーバード」が東海道新幹線のごとく圧倒的で、高速バスはごくわずかな路線と便しかない。その速度、所要時間の面では金沢や富山は新幹線により磨きがかかる。果たして運転手不足に悩む中で、バス事業者は動きを見せるのかどうか。
敦賀の乗り換えの状況を首都圏で考えてみると
敦賀を発車した「サンダーバード」は、すぐにループ線を巻いて敦賀の街を見下ろした後、県境の深坂トンネルで福井から滋賀へ。すでに高速運転に移った列車は近江塩津から湖西線へ。琵琶湖の西岸に延びる高架線には、比良山系の側に設置された防音壁が絶え間なく続く。真っ白い色からして設置からまだ年月は浅いとわかる。
今回の北陸新幹線ダイヤでは、在来線特急と接続する列車として北陸地方内で完結する「つるぎ」が大幅に増発された。”比良おろし”や関ヶ原の雪などに影響されやすい在来線特急の遅れを、東京直通の列車との接続として東北・上越新幹線も錯綜する首都圏に持ち込んでは至ってまずいためのダイヤ上の工夫である。それと合わせて、在来線特急の遅れ自体を減らす取り組みも行われているのだ
そうした車窓を見つつ、やはり大きな思いが脳裏に浮かぶ。敦賀の乗り換えはいつまで続くのか。敦賀―大阪間に新幹線がつながっていない事実は、東海道新幹線が熱海で止まり、東北・上越新幹線が宇都宮や高崎で止まってしまっているに等しいと考えると、首都圏の人々にもその重大性がわかるのではないだろうか。
(鉄道ジャーナル編集部)