2024年のドラフト上位候補、大商大・渡部聖弥 キレッキレの体を武器に走攻守にグレードアップ
試合前に発表された先発オーダーには「4番・中堅手」に名前が記されていた。それでも、大阪商業大の渡部聖弥(わたなべ・せいや)はシートノックが始まると三塁ベースに向かって走り出した。
「オープン戦ではほとんどサードで出ていて、センターはリーグ戦前に1試合やっただけなんです。今は逆にサードのほうが慣れていますね」
大商大のスラッガー・渡部聖弥 photo by Kikuchi Takahiro
ひとしきり三塁でノックを受けたあとは、中堅のポジションまで走って外野ノックを受けた。ショットガンを放つようなバックホームは、今すぐプロに入っても見栄えがするだろう。それは広陵高の3年後輩で、今春大阪商業大に入学してから中堅守備を始めた真鍋慧に、手本を示しているかのようだった。
4月6日、大阪学院大とのリーグ初戦で大阪商業大は5対0で快勝した。だが、主砲の渡部はボテボテの内野安打による1安打に終わっている。
それでも、相手の好守に阻まれた打席もあり、打撃の感触は悪くないように見えた。そんな印象を伝えると、渡部は「調子はいい感じです」と認めた。
「今日はそれが裏目に出て、ボール球に手を出してしまいました。なんとか気持ちを抑えて、抑えて......と修正したんですけどね。でも、芯でとらえたいい打球もありましたし、悪いとは全然思っていません」
渡部の打撃のキモは、スイングの瞬発力にある。ボールを極限まで手元に呼び込み、一瞬で振り抜く。このスイングの瞬発力があるからこそ、猛烈なスピードの打球を広角に打てるのだ。
今季から三塁守備を始めたのは、「選手としての幅を広げるため」と渡部は語る。もともと高校時代に外野に転向したのも、広陵高・中井哲之監督が「一歩目がいい」と渡部の外野適性を認めたため。決して内野守備を見限られたわけではなかった。冬場は三塁や二塁に入ってノックを受け、手応えを深めている。
渡部の高校時代の同期に、今秋のドラフトの目玉格である宗山塁(明治大)がいる。宗山の守備力は、今すぐプロに入れてもトップクラスと言われている。
渡部も内野をやってみて、あらためて宗山の存在の大きさを感じたのではないか。そう聞くと、渡部は「彼は高校時代からうまかったですから」と答えた。
「あの柔らかくて軽い身のこなしはすごいです。うまく見せる守備ですし、バッティングと両立させているのもさすがですよね」
【走攻守にグレードアップ】渡部が今季にかけて挑戦したのは、内野守備だけではない。「体のキレを出す」ことをテーマにトレーニングに励んだ。
「瞬発系のトレーニングを増やして、食事量を調整して、体のキレがすごく出てきました。体重は90キロから86〜87キロに落ちましたけど、打球が鋭くなっていますし、飛距離は落ちていません」
走攻守にグレードアップしている実感があるという。渡部の口ぶりからは、充実感が伝わってきた。
そんな渡部に水を差すことを聞かなければならなかった。約1カ月前、侍ジャパントップチームに宗山を含む大学生4名が招集され、欧州代表戦でプレーした。宗山は右肩甲骨骨折が判明したため欠場したが、西川史礁(青山学院大)は2試合で3打席連続安打をマーク。守備でも好守を連発して、一躍全国区の知名度を得た。
同じ右投右打の外野手として、スポットライトを浴びる西川を複雑な思いで見ていたのではないか。そう聞くと、渡部は苦笑を浮かべながらこう答えた。
「あの時、京セラ(ドーム大阪)まで見に行っていたんです。いい場面で西川に打順が回ってきて、『自分がもし逆の立場だったら、めちゃくちゃ緊張するだろうな......』と感じました」
── 西川くんが好捕した打球を渡部くんなら余裕をもって捕れましたか?
煽るような質問をぶつけると、渡部は「やってみないとわからないですけど、捕れたらいいですよね」と笑った。その愛嬌にあふれた笑顔もまた、渡部の魅力に思えた。
そして、渡部は「でも」と言葉を紡いだ。
「悔しかったですけど、今となってはあそこで選ばれなくてよかったと思います。自分を見つめ直して、練習できてよかったと思うしかない。自分は目の前の一戦、一戦を戦っていくだけです」
シーズンは始まったばかり。その実力を今までどおりに発揮できれば、野球ファンの間で渡部聖弥の名前が浸透するのも時間の問題のはずだ。