声優・伊東健人インタビュー 前編(全2回


数々の人気作品に出演する声優・伊東健人 photo by Matsubayashi Kanta

 人気アニメ『【推しの子】』や『アイドルマスター SideM』など、数々の話題作に出演している声優・伊東健人。今年リリースした5thデジタルシングル『My Factor』は自身初のアニメタイアップとなり、3月27日には2nd EP「咲音(サイン)」が発売されるなど、歌手としても活躍の場を広げている。近年は積極的にボディメイクにも取り組み、声優としてのコンディショニングも欠かさない。

 そんなマルチな才能が光る伊東健人だが、人生の節目ごとには大きな決断と挑戦を繰り返してきたという。声優としてスポットライトを浴びるまでにはどのようなターニングポイントがあったのか。日々のトレーニングの話も交えながら、声優・伊東健人の歩んできた道のりに焦点を当てる。

【「自分はコミュニケーションが下手」から志した"声"の仕事】

──まずは、声優になるまでの経緯を教えてください。

「大学生の頃までは、特に将来の夢や目標はありませんでした。アニメやゲームに関しても、誰もが知っているような、いわゆる王道の人気作品ぐらいにしか触れたことはなかったんです。希望職種もないまま大学3年になって、就職活動の時期に入り、あわてて面接対策など準備を進めていきました。

 そこで、あることに気づいたんです。「自分は人とのコミュニケーションが下手なんだな」と。いかに外の世界の人と話すことに慣れていなかったかを実感し、危機感を持った僕は、会話について勉強できるところがないか探し始めました。

 そして「東京アナウンスアカデミー」という、自分の「声」を仕事や日常生活に活かすためのカルチャースクールを見つけたんです。そのなかの声優コースを選択し、週1日2時間の受講でした。仲間と切磋琢磨しながら少しずつ声優という仕事の面白さを感じて、本気で目指すようになっていったんだと思います。そして翌年、声優プロダクション「81 プロデュース」付属の「81ACTOR'S STUDIO」という養成所のオーディションに合格し、数年後には同事務所への所属が決まりました」

──声優の志望動機としては「好きなアニメの影響」や「声による演技への憧れ」が多い印象だったので、意外でした。どんな学生生活を送っていたのか気になります。

「小学1年から高校1年までは野球をしていました。放課後も友だちと遊ばず練習に向かっていたほど、野球には熱心に取り組んでいたと思います」

──野球以外で印象に残っていることは?

「高校1年で野球を辞めてからは、バンドを組んでみたり、映画製作にも取り組んでいました。どちらも気の合う仲間が熱心に誘ってくれたおかげで経験できたことなので、周りに恵まれた高校生活でした。いま思えば、ここがエンターテイメント業界へのスタート地点だったように思います」

【声優業一本で勝負するために「退路を断った」作品】

──声優業界に入って以降、数々の人気アニメやゲームへの出演を果たされましたよね。ご自身のなかでターニングポイントとなった作品はなんでしょう?

「難しいですね...。本当に作品一つひとつに思い入れがありますし、それぞれの現場で出会った仲間は今も交流がある大切な存在ですから。強いて挙げるとすれば、2015年からゲームやアニメで出演させてもらっている『アイドルマスター SideM』(硲道夫役)になるのかな。ターニングポイントとしては、ある意味"退路を断とう"と思えた作品でもあるので。

 というのも、事務所の所属が決まった当初は、仕事はこなしつつも"これから声優として生きていく"ことに対してまだピンときてなかったんです。そんななかでこの作品に関わっていくと、硲道夫が所属するアイドルユニット『S.E.M』のメンバーとしてのライブステージやイベント出演など、表舞台に立つ仕事が増えていきました。

 アニメやゲーム内で演じるだけではなく、"今の声優は人前に出なきゃいけない"ことを初めて知ったんです。でも歌やダンスはまったく苦ではなかったですし、やりがいも感じていたので、気づいたら、より声優としての覚悟が決まった自分がいました」

──本気で挑戦するために退路を断ったのですね。逃げ道をなくすことは、とても勇気が必要だったと思います。

「そうですね。興味がないことでも"やらないよりは挑戦してみよう"と思える自分の性格が、決断する上で大きかったのかもしれません。この業界に踏み込んだ時もそうですし、スポーツやジムでの筋トレ、最近だとカメラマンの友だちに同行して深夜に星を見に行ったり。どんなことも実際に触れてみたらものすごく面白い、その繰り返しの人生なんです。そういう意味では、いろんなことにチャレンジできる声優という仕事に向いていたのかな、と思いますね」

【筋トレは"ムキムキ"ではなく健康を重視】

──筋トレといえば、伊東さんは積極的にボディメイクに取り組んでいるとお聞きしました。

「はい。もともとジムには通っていたんですけど、体づくりへの意識が強まったのは、2年前の2022年1月頃、新型コロナウイルスに感染してしまったことがきっかけでした。幸い軽症で、一度は高熱が出たものの、熱が下がってからは何も症状は出なかったんです。でもその時は発症日から10日間、自宅等で療養しなければいけなくて。やることがなく、時間を持て余していました。

 運動したいけど外出できないからジムには行けない。じゃあ、体力を落とさないために家でできることはなんだろう。そう考えた時に、フィットネスゲームを活用した自宅での筋トレを思いついたんです。約1週間で2〜3キロの減量に成功するほど、かなりの効果が得られました。仕事復帰した時に周りから「え、痩せた?大丈夫!?」って心配されちゃいましたけど(笑)」

──どんな方のトレーニングを参考にされていたんですか?

「これは今もですけど、女性の方のトレーニング方法を参考に実践しています。僕の場合、ムキムキになるほどの筋肉をつけたいわけではありません。とにかく健康第一で、今の体型をキープしていくことが理想。男性は筋肉量を増やす目的の方が多いので、しなやかな筋肉づくりを目指している女性用メニューのほうが、僕には合っているんです」

──自宅とジムでのトレーニングはどのようなスケジュールで行なっているんですか?

「仕事によって左右されることはありますが、自宅ではほぼ毎日、ジムには週1〜2回とやれる範囲で無理なく通っています。1日で行なうトレーニングの時間は、"1時間あればいい"という考え方でメニューを割り当てています。

 たとえば、その日は10時から仕事が始まると仮定して、9時には出発しないといけない。だったら8時から30分のトレーニングをこなして、残りの30分でシャワーを浴びたり、出かける準備に時間を使う。その日のスケジュールから逆算して、どうやって1時間確保し、どういう使い方をするかを日々考えていますね。

 人によっては、1時間すべてをトレーニングに費やしてもいいと思います。けど、それだと大変じゃないですか。せっかく鍛え始めたのに続かない可能性も出てきます。継続することを考えたら、自分に合った配分を決めることが重要だと思っています」

──一般のトレーニーにも参考になる考え方かもしれませんね。さまざまな種類のトレーニングを実践されていると思いますが、好きなトレーニングをあえて3つ選ぶとすれば?

「1つ目はブルガリアンスクワットです。片足を前に出して、お尻や太もも、ふくらはぎなど下半身を鍛えることができます。継続すると体がグラグラしてくるんですけど、軸をキープするために腹筋など上半身の筋肉も使うので、体幹の強化にもうってつけです。

 次はラット・プルダウン。懸垂と同じ動きをするマシンを使って広背筋を中心に鍛えられます。今年で36歳と、首や背中周りの硬さが気になる年齢になってきたので、このトレーニングはすごく大事にしています。

 そして最後は筋トレの代表的な種目でもあるベンチプレスです。どれだけの重量を上げられるか、というより、無理のない範囲で何回挙上できるかを意識しています。先ほどお話したとおり、どのトレーニングも筋肉量を増やすというより、健康と体型維持を意識して取り入れています」

【【主役じゃなくてもいい、ちゃっかりオイシイところを持っていく役柄が理想】

──仕事でもプライベートでも、つねに挑戦を続けている伊東さん。演技に関しては、今後どんな役柄を演じてみたいですか?

「最近は必ずしも主役をたくさんやりたい、ということではなく、ずっと出ているわけではないけど、存在感を放つ役柄をもっともっとやれるようになりたいと思っています。少ない量でも心に残るセリフと、キャラクターを作る。これって結構技術が要ると思うし、スマートにやれたらカッコいいなって思います」

──昨年放送されたアニメ『【推しの子】』の雨宮吾郎(相性:ゴロー)なんてまさに......。

「そうですね! アニメでは第1話のみの登場となりましたが、もしかすると今後、おいしいところをもっていく役回りで出てくる可能性もありますよね。原作を読んでいる方は真相を知っているかもしれませんが(笑)、本当に理想のキャラクターのひとりです。

 よくよく考えると、『【推しの子】』って、主人公のアイやゴローさんをはじめ、1話目で何人もいなくなるじゃないですか。特にアイなんてこの作品のアイコンでもあるのに、早々にいなくなってしまう。それにも関わらず、ほかのキャラクターの回想シーンには何度も登場して、ストーリーの中心として存在し続けている。そういう構成や演出がすごくうまいなぁ......と思いながら観ていましたね」

──登場しないキャラクターが主人公のひとりのような位置づけなのが面白いですね。ちなみに、ご自身が出演されている作品は基本的にチェックされているのでしょうか?

「なんとなくというか、できるだけ何も考えずに見ていることも多いです。真面目に見ようとする場合は『あの時はもっとこうしたらよかったな』と反省してします。大体(笑)。」

後編「伊東健人が語る日々のコンディショニングと声優のこれから」につづく>>

【Profile】伊東健人(いとう・けんと)
10月18日生まれ、東京都出身。声優・歌手。81プロデュース所属。
東京アナウンスアカデミー、81ACTOR'S STUDIOを経て声優としてデビュー。2018年放送の『ヲタクに恋は難しい』(二藤宏嵩役)でテレビアニメ初主演。同じ事務所の中島ヨシキとのユニット「UMake」でアーティストとしても活動を開始。2022年にはソロアーティストデビュー。2024年放送の『月が導く異世界道中 第二幕』のED曲『My Factor』は自身初となるアニメーションタイアップ。

<SportivaのYouTubeチャンネルでインタビュー動画公開中>
https://youtu.be/XsqHla8HlWM