現在、ウェアラブルデバイスの主役はスマートウォッチです。正確なデータはありませんが、おそらくウェアラブルデバイス全体の中で、スマートウォッチとスマートバンドが圧倒的なシェアを占めていると思われます。

 

では、2月26日〜29日にスペイン・バルセロナで開催された「MWC Barcelona 2024」において注目を集めたピン型デバイスやスマートリングなどが台頭し、今後ウェアラブルの覇者となり得るのか? 筆者の個人的な見解ではありますがそうはならず、むしろ、これからさらにスマートウォッチの普及が進むと予測します。

 

それはなぜか? ここではその理由を、MWCで出展された注目デバイスを紹介しながら、紐解いていきましょう。

 

次世代のウェアラブルとして注目された「AI Pin」

MWCといえば、個人的にはスマホの最新機種が発表されるのを楽しみにしたイベントでした。ですが、今年は日本市場に進出しているメーカーで新製品を発表したのはシャオミのみ。展示の中心は、デバイスから「AI」や無線アクセスネットワークの仕様をオープンにする「Open RAN」などの技術に移っていました。

↑シャオミはMWCの前日に、最新フラッグシップ「 Xiaomi 14」シリーズを発表。MWCの同社ブースも賑わっていた

 

そんななかで、おそらく来場者から最も注目されていたであろうデバイスは、クアルコムのブースに展示されていた「AI Pin」です。アメリカのHumaneという会社が開発したウェアラブルデバイスで、ピンバッジのように衣服の胸あたりに装着し、主に声で操作する仕組み。小さいながらもマイク、スピーカー、カメラ、レーザープロジェクターなどを搭載し、クアルコム製のチップとeSIMが内蔵されています。

↑AI Pinは衣服を挟むようにマグネットで装着する

 

↑音声やタッチで操作する

 

GoogleアシスタントやSiriのように、話しかけて必要な情報にアクセスすることが可能。AIにより、一問一答ではなく会話する感覚で情報を絞り込んだり、外国語を通訳したり、要約したりといったこともできるとのこと。取得した情報をプロジェクターで手のひらに投影することができ、その際、指先をくっつけたり、開いたりといったジェスチャーで、機能を切り替えることも可能。カメラで何かしらを撮影して、画像認識技術で、被写体についての情報を調べたりすることもできます。

↑調べた情報や受信したメッセージなどを、このようにプロジェクターで映せる。アプリを使わずに、さまざまな情報にアクセスできることも特徴

 

AI Pinは今回初めて発表されたわけではなく、アメリカでは昨年11月から発売されています。価格は699ドル(約10万6000円)。世界中の通信事業者やベンダーが一堂に会するMWCでは、ひときわ注目を集め、多くの国・事業者から引き合いがあったようです。MWCの期間中に、Humaneはソフトバンクとパートナーシップを締結することを発表。正式な発表はまだながら、日本ではソフトバンクが独占発売することになりそうです。

 

サムスンの「Galaxy Ring」の詳細は明らかにされず……

MWCでは、もうひとつ世界から注目されているウェアラブルデバイスが出展されていました。サムスン電子の「Galaxy Ring」です。1月にアメリカで開催した新製品発表会で予告していたもので、MWCで詳細が発表されることが期待されていました。しかし、MWCのサムスンブースでは、ショーケースに収められた状態での展示で、実際に触れることはできず。新たに公開される情報はほとんどありませんでした。

↑Galaxy Ringは、このようなショーケースに展示されていた。カラバリはゴールド、シルバー、ブラックの3色になるようだ

 

↑リングの内側にセンサーらしきものを確認できた

 

ただし、サムスンのVIPの発言などから、Galaxy Ringがヘルスケア機能に特化したスマートリングであるのは確実で、同社が推進する「Galaxy AI」に結び付くデバイスになるようです。

 

ドコモのブースには最新のスマートグラスを展示

MWCではメガネ型のスマートグラスの出展もありました。NTTドコモのブースには、ドコモの子会社でXR事業を手掛けるNTTコノキューがシャープと共同で開発したスマートグラスのプロトタイプが展示されていました。

↑NTTコノキューとシャープの合弁会社、NTTコノキューデバイスが開発中のXRグラスのプロトタイプ。今年半ばの発売になる見通し

 

スマホと無線で接続して使う仕様で、一般的なメガネよりもひと回り大きい程度なので、長時間かけていても疲れないことが特徴です。クアルコムの「Snapdragon AR2」というチップを採用し、カメラ、マイク、スピーカーも搭載。レンズが透過型ディスプレイになっていて、実際に見える状況に重ねて、ARで情報を見られる仕組みとなっています。ハンズフリーで映像と音声の情報を受信することができ、さまざまな用途での導入を想定しているとのこと。

 

これからウェアラブルの主役になるのは?

冒頭で「これからさらにスマートウォッチの普及が進む」と述べましたが、ここで改めてスマートウォッチについて簡単に振り返ってみましょう。

 

スマートウォッチの本格普及が始まったのは、アップルがApple Watchを発売した2015年頃から。当初はスマホの補助的な機能とヘルスケア機能が中心でした。その後、決済機能が追加され、eSIMに対応して単独での通話が可能になり、さらに医療機器としても進化しつつあります。実はまだ発展途上にあるわけです。

 

2023年来、注目されている生成AIはスマートウォッチとも好相性。スマホより画面が小さいスマートウォッチはキー操作が難しく、そもそもキーボードでの文字入力ができない機種も多くあります。そのため、スマホではそんなに使わないのに、スマートウォッチでは音声アシスタントを使う人が多いようですが、AIのデータベースにアクセスすることで、さらに便利に使えるようになります。

↑MWCに出展されるスマートウォッチは以前よりも減った印象。シャオミは、グーグルのWear OSを搭載する新モデル「Xiaomi Watch 2」を発表した

 

スマートウォッチはユーザーの健康状態も取得できるため、情報のパーソナライズにおいても強みを発揮しそうです。

 

AI Pinのようなデバイスの普及も期待したいところですが、衣服によっては装着感に差が出そうなのが気になるところ。スマートリングも、すでに指輪を着けていてさらにもう1つとなると、どの指に着けるかを迷うことになりそうです。また、サイズ的に機能は限定的になります。スマートグラスは、メガネをかけたことがない人には常用するデバイスとしては違和感を否めないでしょう。

 

となると、もともと時計やバンドを装着する場所として定着している手首は、やはりウェアラブルに格好のポジションと言えます。

 

スマホを腕に巻くのもアリ!?

AIに対応し、eSIMを内蔵したスマートウォッチは、スマホの代替デバイスにもなり得ます。スクリーンタイムを減らすために、海外ではスマホではなくあえてガラケー(最近は「ダムフォン」と呼ぶそうですが)を選ぶ人も増えていると聞きます。そうした人にもスマートウォッチは好都合でしょう。

 

しかし、やはりスマホは手放せないという人のほうが多いでしょう。そこで、スマホそのものをウェアラブルにするという試みを進めているメーカーもあります。

 

今回のMWCでは、モトローラが出展した、腕に巻くスマホのコンセプトモデルが注目を集めていました。「アダプティブ・ディスプレイ」と呼ぶもので、さまざまな形に折り曲げることができ、卓上に置いたり、棚などに引っ掛けたりして使うことも可能。サムスンディスプレイのブースにも同様のコンセプトの端末が出展されていました。

↑モトローラが出展したアダプティブ・ディスプレイ端末のコンセプトモデル

 

↑腕に巻いて操作するデモンストレーションも披露された

 

会場でデモンストレーションを見た際は、興味を惹かれるものの、実際に腕に装着すると大きすぎて目立つことが気になった次第。ですが、操作しないときに腕に巻いて、時計として使えるのは実用的にも思えました。

 

「スマホ代わりになるスマートウォッチ」だけでなく、「スマートウォッチになるスマホ」というのも商用化の可能性がありそうです。

↑腕に巻けるデバイスは、サムスンディスプレイもコンセプトモデルを展示。残念ながら、筆者が取材した際は、ディスプレイが消えていた

 

↑内側は蛇腹のようになっていて、カメラやセンサーらしきものも搭載

 

【フォトギャラリー】(画像をタップすると閲覧できます)