「疲れたときは甘いもの」とよく聞きますが、食べるタイミングを誤ると体に負荷がかかってしまいます(写真:genzoh/PIXTA)

世間一般では「疲れたときには甘いものを食べるといい」と言われています。

しかし、日本リカバリー協会の代表理事をつとめ、疲れと休息を科学的に研究する「休養学」の第一人者・片野秀樹博士によると、疲れた体が甘いものを欲することはあっても、甘いものに疲労回復の効果はないそうです。

疲労と食事・飲食の関係について、片野氏がこのほど上梓した『休養学:あなたを疲れから救う』より抜粋・編集してお届けします。

「食べない栄養」で体を休める

疲労回復や疲れにくい体をつくるのに、食事も大きな影響を与えます。こういうと「栄養のバランスのとれた食事をすればいいんでしょう?」と思うかもしれません。


しかし休養学では「食べないこと」や「食事の量を減らすこと」も重視します。食べすぎないことが体を休めることになると考えるからです。

ですから、休養のために何か特定の食べ物をすすめるというようなこともしていません。

現代社会では食べ物がない栄養不足の害よりも、むしろいつでも豊富な食べ物が手に入るため、「食べすぎ」の害のほうが大きくなっています。

私は「食べない栄養」というものがあると思っています。

たとえば正月三が日はご馳走をたらふく食べるでしょう。しかしその後は七草がゆを食べて胃を休めます。こんなふうに、体の消化器系を休ませたり、老廃物を排出するデトックスに焦点を当てたりするほうが重要です。

無理に食べない、軽い食事で済ませることのほかに、白湯(さゆ)などで体を温めるのもいいですね。

「栄養をとる」という足し算の考え方ではなく、いかに栄養摂取を控える機会をつくるかという引き算の考え方をもってほしいと思います。

ちなみに最近では「時間栄養学」も注目されています。

これは、食事をとる時刻によって、生体時計を調整することができるというものです。

これまで主流だった「どんな栄養をとるか」という考え方ではなく、「いつ食べるのか」に着目したアプローチといえます。

前回の記事《原因不明の不調「自律神経の乱れ」はなぜ起きるか》で、朝に太陽の光を浴びることによって生体時計が24時間サイクルにリセットされるお話をしましたが、朝食を毎日決まった時間に食べることによって、さらにしっかりとリセットされることがわかってきたのです。

食べ物を口に入れると、自動的に消化器系の活動がスタートします。消化器系が動き出すことによって、生体時計を調整するスイッチが入るしくみです。

逆にいえば、朝食をとる時刻を毎日固定するだけで、自律神経を整えることができるというわけです。

なぜドカ食いしてしまうのか?

「腹八分目が健康にいい」とわかっていても、ストレスがかかるとやけ食いをしたり、甘いものを食べたくなったりしませんか?

これはストレスを何とか抑えようとする体の防御反応、自己防衛行動です。

食事をとると、副腎皮質からコルチゾールが分泌されます。コルチゾールとは、ストレスがかかると分泌されるホルモンで抗炎症作用と免疫抑制作用がありますが、そのほかに、血糖値を上げる作用もあります。

まず、食事をとると当然、血糖値が上がります。血糖値が上がるとインシュリンが膵臓から出てきて血糖値を下げようとし、そのあとに血糖値が一気に下がります。今度はこの下がった血糖値を上げないともとの状態に戻りません。このときにコルチゾールが出ます。

コルチゾールはストレスに対抗しようと交感神経を上げるので戦闘態勢に入ることができます。ですから、むしゃくしゃすると何か食べたくなったり、甘いお菓子を欲したりするのです。

「疲れているけれど、どうしてもあと一仕事しなければいけない」

というようなとき、自分を奮い立たせるために、無意識にやけ食いをしたり甘いものを口にしたりしているのかもしれません。逆にいうと、副交感神経を高めてリラックスすべきタイミングで食べすぎてしまったり、甘いものを口に入れたりしてしまうと、緊張・興奮状態になり、リラックスどころか逆効果になります。

家に帰ってきて「ああ疲れた、今日はイヤなことがあったな。忘れるためにスイーツでも食べちゃおう」というのはわかりますが、かえって興奮して、寝つきが悪くなってしまいます。よく「甘いものを食べると疲れがとれる」といいますが、正確には、疲れを一時的に覆い隠しているだけです。楽しみとしてケーキやチョコレートなどを食べるのはかまいませんが、お菓子を食べたからといって疲れがとれるわけではありません。

「糖質は脳の餌だから、頭を使うときは甘いものを食べるといい」というのもよく聞く話ですが、食べたものが消化・吸収されるには時間がかかります。テストの直前に甘いものを食べたからといって、脳がよく働くとは限りません。

お酒も「疲れのもと」になりかねない

お酒が好きな方は、お酒と疲労回復の関係に興味があるのではないでしょうか。昔から「酒は百薬の長」といわれますし、飲むと血のめぐりもよくなります。

しかしお酒は精神的なリラックス効果が期待できるものの、肉体的には負担のほうが大きいようです。私もお酒が嫌いではないので、非常に残念なのですが……。

なぜお酒は体によくないのでしょうか。

これは、飲酒すると、アルコールを分解するために肝臓が大忙しで働かなければいけないためです。ですから「疲れをとるために」といって飲んでも、さらに疲れてしまうだけです。肝臓がアルコールを分解する過程で、アセトアルデヒドという活性酸素のような毒性物質が出ることによって、肝臓を傷つけるという説もあります。

寝つきはよくなるが疲れはとれない

さらにいうと、アルコールを飲むと寝つきはよくなりますが、夜中に目が覚めやすくなるので、睡眠によるリカバリーが十分にできなくなります。


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「お酒を飲むと深く眠れる」という人もいますが、アルコールを飲んで寝ている状態は、麻酔で気を失った状態と似ています。

通常の睡眠であれば、ノンレム睡眠のN1→N2→N3(註:ノンレム睡眠中の眠りの深さのレベル。いちばん浅い眠りをN1、真ん中をN2、いちばん深い3段階目の眠りをN3とする)というようにステップを踏んで浅い睡眠から深い睡眠へと移行します。

しかしお酒を飲んで寝ると、そのステップが踏めないので、本来寝ている間にしなければいけない回復過程が省略されてしまいます。こうしたことからも、お酒を飲んで寝るのはおすすめできません。

(片野 秀樹 : 博士(医学)、日本リカバリー協会代表理事)