金与正氏「談話乱発」は、北朝鮮側の「焦りと心の揺らぎ」の表れか 家族会・横田代表の読み解き方
北朝鮮による拉致被害者の横田めぐみさん(拉致当時13)の弟で、拉致被害者家族連絡会(家族会)の横田拓也代表(55)が2024年4月5日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で記者会見し、改めて「全拉致被害者の一括帰国」を訴えた。
北朝鮮側は、岸田文雄首相が金正恩総書記に「直接会いたいという意向」を伝えたとする談話を出し、ほどなくして日本側との接触や交渉の拒否を宣言するなど、動きを活発化させている。横田氏は、一連の談話には「観測気球」の側面があるとする一方で、北朝鮮側の「焦りと心の揺らぎ」を反映しているともみている。
水面下交渉での条件闘争不調で「譲歩を迫るような観測気球」?
最近の北朝鮮の動きをめぐる最も分かりやすい事例が、金正恩総書記の妹で朝鮮労働党副部長の金与正(ヨジョン)氏が出した談話だ。3月25日付の談話では、岸田文雄首相が正恩氏に「直接会いたいという意向」を北朝鮮側に伝えたとして、両国間の新しい活路を開くうえで必要なのは「日本の実際の政治的決断」だと主張。その上で
「これ以上解決すべきことも、知るよしもない拉致問題に依然として没頭するなら首相の構想が人気取りにすぎないという評判を避けられなくなる」
としていた。この日、林芳正官房長官が
「拉致問題が既に解決されたとの主張は全く受け入れられない」
と反応すると、与正氏は翌26日にも談話を出し、
「日本側とのいかなる接触にも、交渉にも顔を背け、それを拒否するであろう」
と態度を硬化させた。
横田氏は、与正氏の談話の意図について、日朝で行われているとみられる水面下の交渉を念頭に、
「条件闘争的なところで、まだ彼らなりに受け入れられないところがあって、日本に、ある意味譲歩を迫るような観測気球を上げている可能性がある」
と指摘した。さらに「交渉を決裂させるかのような威勢のいいコメント」は北朝鮮の常とう手段だとして、「私達はうろたえることなく、静観してればいいのではないか」とした。
加えて「個人的な見方」として、与正氏の談話は「私から見ると、焦りと心の揺らぎが見えた、といったような感触を受けた」とも話した。
会見内容を報じることが北朝鮮への圧力になる
家族会は24年2月、親世代の家族が存命のうちに全拉致被害者の即時一括帰国が実現するならば、北朝鮮への人道支援や独自制裁の解除に反対しないとする運動方針を打ち出している。
横田氏は「全拉致被害者の一括帰国」を改めて強調し、
「部分的解決や、段階的解決でお茶を濁して幕引きや時間稼ぎということがあってはならない。その価値観を日本政府には貫いてほしい」
と話した。
今回の記者会見の目的のひとつは、拉致問題の現状を訴えることで、近く予定されている日米首脳会談で北朝鮮の人権問題が取り上げられるように働きかけることにある。横田氏によると、「北朝鮮は、皆様方(メディア)が発信される文字や、報道、放送を、くまなくチェックしている」。会見内容が報道されることが北朝鮮への圧力になると訴えた。
「皆さん方が、『この人権問題が、なおも続いているんだ』『国際社会から非難されているんだ』ということを取り上げてくれれば、そのことが(北朝鮮は)プレッシャーに感じる。私自身が今日こうして、この場で会見していることも、彼らに届くはずだ。それ自体、私が持っている言葉の力だと信じている」
(J-CASTニュース編集委員 兼 副編集長 工藤博司)