日本経済はよくなったのか

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「ロスジェネ世代はつらいよ」

学校卒業後の就職活動では氷河期、やっと入社しても......。

日本中が「歴史的賃上げ」に浮かれるなか、「ロスジェネ世代」といわれる30代後半〜50代前半は、今回も賃上げの恩恵を受けない可能性があることが、第一生命経済研究所の永濱利廣さんの分析リポートで明らかになった。

家庭では子育てと仕事の両立に奮闘、企業では管理職として頑張る働き盛り世代だ。その世代を冷遇してニッポンはどうなる? 永濱利廣さんに話を聞いた。

「春闘の歴史的賃上げ」で始まる最悪シナリオ?

<ロスジェネ世代はつらいよ...昨年は「歴史的賃上げ」でも賃金増えなかったが、今年は恩恵ある?(1)/第一生命経済研究所の永濱利廣さんに聞く>の続きです。

――すると、実質賃金がプラスに転じるのは難しいですか。

永濱利廣さん その問題も統計のトリックがからんできます。

たとえば、あなたが月10万円の副業を始めて、月給が30万円から40万円に増えたとします。あなたの賃金が上がるわけですが、統計上はあなたと副業を始めた人物が別人とカウントされます。

統計上は、賃金は「総賃金」を「総労働者数」で割った値ですから、40万円÷2=20万円で、あなたの平均賃金は副業をすると、30万円〜20万円に減ることになります。

このように副業人口が増えると、実質賃金が増えにくくなる計算になります。

――変な仕組みですね。ところで、今後の日本経済はどうなるでしょうか。

永濱利廣さん 「春闘の賃上げ」率が大きく上昇したことによって、日本銀行が今年3月19日にマイナス金利政策を解除しました。

私は、マイナス金利解除自体の影響は軽微と考えますが、日本経済の病気がまだ完全に治っていない段階での追加利上げはよくないと思っており、状況次第では最悪のシナリオになりかねないと見ています

日銀の政策変更によって、3月22日に発表した政府の月例経済報告から、アベノミクスの3本の矢に関する文言が完全に消えました。

そして、日銀と「緊密な連携」を図ることを強調し、デフレ脱却に向けて「あらゆる政策手段を総動員していく」と明記されました。

さらに、6月に策定される政権の重要課題を示す「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)では、「2025年のプライマリーバランス(PB)の黒字化」の方針が復活されるかもしれません。

日銀の政策修正で始まる「増税」負担が、日本経済に打撃

――どういうことでしょうか。

永濱利廣さん プライマリーバランス(PB)とは、国と地方の基礎的財政収支のことです。

現在はまだ赤字です。2025年に黒字化を目指すという方針は、経済がまだ弱いことなどを理由に22年度から棚上げされています。ところが、日銀が政策修正をして経済成長の好循環を認めたことをきっかけに、復活させようとする動きが政府内で起きています。

そして25年PB黒字化目標が復活すれば、緊縮財政や負担増が進みやすくなります。自民党の中でも緊縮派と積極財政派がせめぎ合いを始めていますが、岸田文雄首相直轄の会議「財政健全化推進本部」が緊縮派の牙城です。

もう1つの積極財政派が「財政政策検討本部」です。

そして6月に公表される骨太の方針で25年PB黒字化目標が復活すると、国民負担増や歳出削減に拍車がかかることになりかねず、デフレマインドが癒えていない日本経済に打撃を与え、「失われた30年」に戻りかねないかと心配しています。

有権者としてボリュームが大きい、政治を変えよう

――「失われた30年」ですか。もうこりごりですよね。最後に、ロスジェネ世代へのエールをお願いします。

永濱利廣さん 政府や地方自治体もロスジェネ世代を気にかけており、積極的に公務員に中途採用する動きを拡大していますが、競争率はかなり高いと聞いています。

人手不足が続いており、企業は若い層の獲得に懸命ですから、なかなか賃上げも望みにくいでしょう。結局、自分で打開するしかありません。

私も含めたロスジェネ世代は、小さい時から割を食ってきました。人数が多く、受験での競争率が高く、就職では苦労の連続でした。

しかし、先ほど述べた「転職に保守的な価値観」が染みついているとはいえ、転職を少しでも前向きに考えて、チャンスがあればチャレンジしてほしいです。

副業やすき間バイト、ポイ活やフリマアプリなども有効に活用して収入元を増やしましょう。また、比較的年収が高めであれば、ふるさと納税の活用も効果が高いでしょう。

――私も団塊の世代でしたから、ボリュームが大きいため、小学校ではクラスの人数が多くて(70〜80人もいた)先生に名前を覚えてもらえない、受験では競争率が高いといった苦労の連続でした。

永濱利廣さん ロスジェネ世代は、そんな団塊の世代の子ども世代として、第2次ベビーブーマーになりましたが、バブル崩壊後の不況により第3次ベビーブーマーを作れなかったことが残念です。

ただ、ボリュームが大きいのがロスジェネ世代の最大の強みでもあります。それは、有権者としてもボリュームが大きいということです。選挙を通じて政治に影響を及ぼすことで、世代のパワーを見せつけてやりましょう。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)


【プロフィール】
永濱 利廣(ながはま・としひろ)
第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
担当:内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。
1995年第一生命保険入社。1998年日本経済研究センター出向。2000年第一生命経済研究所経済調査部。2016年4月より現職。
著書に『エコノミストの父が、これだけは子どもたちに教えておきたい大切なお金の話 増補・改訂版』(ワニ・プラス)、『給料が上がらないのは、円安のせいですか?』(PHP研究所)、『日本病 なぜ給料と物価は安いママなのか』(講談社現在新書)、『日本病 なぜ給料と物価は安いままなのか』(講談社現代新書)など多数。