ZOZO創業者の前澤友作氏が、SNSの「詐欺広告」に対してX(旧Twitter)上などで抗議の声を上げている。前澤氏は詐欺広告の被害者を集めて、FacebookやInstagramの運営主体であるMeta社に抗議をすることを表明した。

被害にあっているのは前澤氏だけでない。堀江貴文氏、池上彰氏などの著名人の詐欺広告が各所に散らばってしまっている。

巧妙な詐欺広告がFacebook上などに大量氾濫


このような詐欺広告が出回ってしまっている。画像は東洋経済オンライン編集部が発見した詐欺広告のひとつ

最近、Facebook上などで目にした人も多いはずだ。彼らのような著名人が勉強会に招待したり、投資を呼びかけたりする静止画での広告や、ときには巧妙に偽造された彼ら著名人のフェイク音声が入った動画まで出回っている。しかも1人の著名人につき複数種類の広告が出回っているのだからたちが悪い。


前澤氏のコメント(画像:前澤友作氏のXより)

これがきっかけとなって、詐欺広告への取り締まりは強化されるのだろうか? 違法行為が常態化しているSNS広告は健全化に向かうのだろうか?

そもそも「詐欺広告」という言い方がなされるが、2つの意味があるように思う。

1. 行っているビジネスが詐欺行為である

2. 広告が詐欺的である

前澤氏が抗議している詐欺広告は、上記の2つとも満たしている悪質な事例である。健全なメディアであれば、広告表現のいかんにかかわらず、詐欺行為を行っている事業者に広告を出稿させることはしない。

また、2つ目に関しても、消費者に誤認させ、欺かせているだけでなく、前澤氏に対する肖像権の侵害も行っている。勝手に画像を使われた人は、イメージ低下の恐れがあるにとどまらず、詐欺行為に加担したという誤解を招く可能性もある。

あらゆる点において問題なのだが、これをグローバル超大手企業のMeta社が取り締まれていないというのが、さらに問題である。

前澤氏はMeta社に適切な対応を求める内容証明を送付し、同社から回答も返ってきているというが、根本的な対応が取られるかどうかというと、心もとない状況だ。


前澤氏の抗議にメタ社は今後反応するのだろうか(画像:前澤友作氏のXより)

筆者が広告代理店に勤めていた時代、Meta社(当時はFacebook社)をはじめ、SNS大手の日本法人の方々と対面することはあったが、重要な決定は本国アメリカでなされるため、日本法人側に何かを訴えても、本国側に意図が十分に伝わらなかったり、本国側で承認されなかったりすることが多いように見受けられた。

個人においても、不適切な投稿に対して削除依頼を出しても、なかなか対応してくれないという話はよく聞く話だ。

一方で、警察庁の調査によると、2023年のSNS型投資詐欺の被害は全国で2271件あり、被害額はおよそ278億円にのぼっている。しかも、昨年6月から件数は増加している。

日本で起きている問題について、Meta本社側がどのくらい把握しているのか、どのくらい本気で取り組もうと思っているのか、疑問に思わざるを得ない。

こうしたところに、グローバル化による弊害が出てきてしまっている。

放置され続けていたインターネットの問題広告

インターネットの黎明期から、違法広告は問題であったし、健全化が求められてきた。インターネットが海のものとも山のものともつかない時代であればやむを得ないところもある。しかし、現在においては、インターネット広告費は、マスコミ4媒体の広告費を超えるところまで成長している(下図)。


日本の広告 構成比(2023年) 出典: 2023年日本の広告費(株式会社電通)

メディアの信頼性は、コンテンツの信頼性と広告の信頼性によって成り立っている。成長していく過程で、メディアは健全化の道を模索するようになる。そうしなければ、成長は頭打ちになり、継続的な発展は望めなくなってしまう。実際、マスコミ4媒体は、そのような道を辿って現在に至っている。

2018年から、NHK「クローズアップ現代+」などで数度にわたって「ネット広告の闇」の特集が組まれ、インターネット広告が抱える様々な問題が提起されてきた。

詐欺広告に限らず、インターネット広告は、誇大広告や虚偽表記(「ナンバーワン広告」など)、広告効果を水増しするアドフラウド、ステマ(ステルスマーケティング)、なりすましなどのフェイク広告、違法サイトへの広告配信など、様々な問題を抱えていることが明らかにされている。

問題があることが明確でありながら、根本的な対応が取れないのはなぜなのだろう?

インターネット広告の健全化が図れない理由としては、下記のような特殊事情がある。

1. 広告取引が自動化されており、不適切な広告を排除することが難しい

2. メディアも広告主も変化が激しく、違法広告も多種多様かつ変化が激しいため、取り締まりが困難

3. 既存のメディア企業と比べて、インターネットメディアやプラットフォームはルールや規制を好まない傾向がある

4. グローバル化しているがゆえに、ローカルの問題への対応が手薄になりがち

では、インターネット広告を健全化するのは今後も難しいことなのだろうか? 決してそうではないと筆者は考える。

企業によって対応は分かれる

違法広告に対する対応は、グローバルIT大手をとっても、各社で異なっている。

先月3月27日、米Googleは広告の安全性に関する年次報告書を発表した。それによると、2023年、Googleは55億件以上の広告と、1270万以上の広告アカウントを、ポリシー違反でブロックまたは削除したという。生成AI(人工知能)によって、不正な広告も増えているが、Google側も生成AIを駆使して取り締まりを強化している。

実際、筆者自身が日常的にGoogleを利用していても、不適切な広告は少ないように思えるし、不適切な広告をユーザー自身が簡単に報告できるフォームも用意されている。

広告収入によって莫大な利益を上げているIT事業者が、収益の一部と自社の高度な技術を費やして、広告の健全化を図ることは、企業としての責務である。

米Amazonも同様に、AIを活用して不正レビューを検知し排除するしくみを構築している。また、偽レビュー業者を提訴するといったことも行われている。どの程度の効果が上がっているか、具体的なデータや報告は見つからないが、筆者がAmazonを利用していても、明らかにおかしい評価は、依然と比べて見られなくなってきていると感じている。

Meta社も対策は行っているが、不十分である。日本だけではなく、アメリカ本国でも同社の独立監査機関から、Facebookにバイデン大統領のフェイク動画が投稿されたことに対して、同社の投稿監視ポリシーが一貫性を欠いていると指摘されている。

もともと、Facebookは実名での登録が中心となっており、「荒れにくいSNSサービス」として普及してきた。Facebookは、2008年の大統領選でオバマ陣営が有効活用することで勝利に貢献したり、2010年以降に起きたアラブの民主化運動で反政府運動に活用されたりしてきた。

成長期には、「世の中を良くする民主的なSNS」として期待されてもいた。創業者のマーク・ザッカーバーグ自身も、そうした理念を口にしてきた。その点からすると、現在のMeta社を見る限り、創業時の理念から遠のいてきているようにも見えてしまう。

包括的な取り組みが必要

何よりも重要なのが、メディアやSNSプラットフォーム事業者自身がしっかりとした対策を取ることだ。また、それを可能にするために、被害を受けた側だけでなく、広告主、広告事業者、行政など、関係各所が対策を講じることが重要だ。


前澤氏のX上でも注意喚起されている詐欺広告(画像:前澤氏のXより)

被害者である前澤氏個人に対応を任せているだけでは不十分だし、不適切でもある。イーロン・マスク氏がTwitterを買収した際に、大手の広告主が行ったように、不適切な対応を取るメディアに対しては、企業が広告出稿を停止するといった対応を取ってもよいと思う。広告業界から改善を要求していくことも重要だ。

行政に関しては、金融庁が詐欺広告への注意喚起の呼びかけをSNS上で行っているが、さらなる強化が求められる。また、詐欺広告は金融関連に限らないため、監督官庁の枠を超えたより広範な対応策が求められる。

Meta社に限らず、違法広告に対して十分な対策が講じられることなく、放置されている状況を考えると、行政が動くこと、法規制を強化するといったことも大事であると思う。

詐欺広告の問題は、個別に対処する問題であるだけでなく、インターネット広告をどう健全化していくのか、さらにはインターネットという最も大きな影響力を持つに至ったメディアが、今後どのようにして健全な発展を実現していくかという問題でもある。

(西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授)