陰謀論情報を発信、30代彼がオカルトに冷めた瞬間
独自にオカルト史、疑似科学、スピリチュアル、悪徳商法を研究し発表している雨宮純さん。彼はどのような人生を歩み、陰謀論の情報を発信するようになったのか?(筆者撮影)
これまでにないジャンルに根を張って、長年自営で生活している人や組織を経営している人がいる。「会社員ではない」彼ら彼女らはどのように生計を立てているのか。自分で敷いたレールの上にあるマネタイズ方法が知りたい。特殊分野で自営を続けるライター・村田らむが神髄を紡ぐ連載の第116回。
コロナ禍で社会問題にまでなった陰謀論
雨宮純さんは、都内で他の仕事もしながら、独自にオカルト史、疑似科学、スピリチュアル、悪徳商法を研究し発表している男性だ。主に、ツイッター(X)や、note (ウェブサイト)、ネットニュースで情報発信している。
コロナ禍のもと、にわかに陰謀論が広がりを見せ社会問題にまでなっているさなかに発売された『あなたを陰謀論者にする言葉』(フォレスト出版)は大きな話題になった。
現在の陰謀論に至るまでの、心霊主義からカウンターカルチャー、ニューエイジ、自己啓発、オカルト、スピリチュアル、という流れを至極丁寧に解説してありとても勉強になった。
現在は「カルト的な熱狂を生む組織の組織論・方法論」について執筆されているそうで、発売を待ち遠しく思っている。
雨宮さんはどのような人生を歩み、陰謀論の情報を発信するようになったのか?
新宿でインタビューをした。
(筆者撮影)
雨宮さんは、昭和の終わりに福岡県の緑豊かな地域で生まれた。
「正直、治安が悪い街でしたね。普通にカツアゲとかありました。小学生時代からクラスメイトに暴力野郎が結構な数いる感じでした」
物騒な価値観が幅をきかせており、集団登下校中は、
「誰が一番強いか喧嘩で決めようぜ!!」
などとバトルが発生しがちだった。
「中学では、もう21世紀も近いのに改造制服を着てる生徒もいて引いてました。部室の灰皿には煙草の吸殻が山積みになっていて、
『こんな状態を放置する教師たちは職務怠慢であり、信用できない!!』
と思ってました。
そういう人たち(不良やヤンキー)って世間に反抗しているふりをしつつ、運動会とか修学旅行とかには熱心に参加するんですよね。ちゃんと反体制を貫いているわけでもなく、共感はできませんでした。
僕自身はそういうヤンキーや荒くれ者がとても苦手だったので、反発してまじめな生徒でいました。反抗した結果まじめになるというのも変な話ですが。あえて校則を忠実に守って部活に入り、反抗心で勉強に力を入れた。本は好きだったので図書館にも通っていました」
子どもの頃に触れたオカルトコンテンツ
幼い頃から本は好きで、ジュール・ヴェルヌや星新一、村上龍などを読んでいたが、その中にオカルト本や、当時ブームだった学校の怪談本も交ざっていた。
そしていつしかオカルトマニアになっていく。1970年代から連綿と続くオカルトの王道ネタ『UFO』『UMA』『超能力』『超古代文明』『都市伝説』といった話題がまとめられている本も小学生の頃から読み漁り、1995年公開の映画『学校の怪談』や1996年公開の映画『地獄堂霊界通信』も見に行った。
夏休みの昼の楽しみは、恐怖体験の再現ドラマが流れる『あなたの知らない世界』だ。当時は子供がごく普通に触れられるオカルトコンテンツが豊富な時代だった。
その過程で『ノストラダムスの予言』も知り、当時の多くの人達と同じように、
「1999年7月に空から恐怖の大王が降りてきて地球が滅びる」
という予言を信じた。
「ノストラダムスの予言を信じる人って2通りあると思うんですよ。1つは、
『世界が滅ぶのが怖い。滅んでほしくない』
と思うタイプ。もう1つは、
『世界が滅んでほしい。一瞬で全てが無になってほしい』
って思うタイプ。僕は後者のタイプだったんですよ」
終末ブームに飛びついた
当時は不穏な殺人事件が起きたり、カルト宗教が問題を犯したりと、まるで世界の終わりを示唆しているようだった。
終末的な内容も含む『新世紀エヴァンゲリオン』も人気だった。『新世紀エヴァンゲリオン』は
「全員液体になって一緒になる」
というようなオチだったが、別に一緒になりたいとは思わなかった。
「それでは苦しみが続いてしまう。潔く全て終わらせないと駄目だろうと。拡大した自殺願望みたいな感情を結構強く持ってました。
そんな折に終末ブームが来たので、当然飛びつきました。
1999年7月の直前まで信じていて、
『もう二度と学校行かなくていいぞ!!これでスパッと死ねる!!』
っていう開放感がありましたね」
しかし1999年7月は何事もなく過ぎ去ってしまった。
「もちろん深く絶望しました。自分の願望は、これに限らず全て実現しないのではないかとすら思いました。
そして、煽るだけ煽って責任を取ろうとしない人たちは信用できないことを思い知りました。
インタビューではよく『ノストラダムスの予言』が外れて意識が変わったって言ってるんですけど、本当はもう1つあるんです。それがスカイフィッシュです」
スカイフィッシュとは、いわゆる未確認動物(UMA)と呼ばれる存在だ。棒状の身体と複数の羽を持ち、空中を高速で移動すると言われている。
「年齢も上がってきていて、さすがに判断力もついてきていたと思うんですけど、スカイフィッシュの映像を見て、
『……これ虫だろ?』
って思ったんですよ」
テレビ番組では、スカイフィッシュの住処と言われているメキシコの洞窟にテレビスタッフが入り、粘着テープを貼った板を運んでいた。
「この人、どんな気持ちでやってるんだ? って思って。ギャグでやってるんだろうか? まぁ仕事か……と。それで、スッと憑き物が落ちたように冷めちゃいました。これでは世界は変えられないなと思いました」
オカルトに代わるもの
熱が冷めたのは中学のときだった。
「『終わりなき日常を生きろ』(ちくま文庫)と宮台真司先生は言ってて、今は理解できるんですけど、当時は
『そんなのうるさい!!』
と思ってました。日常を壊したかった。
オカルトに代わって、日常を壊すのは科学じゃないか? と思いつきました。具体的に言うと、ドラッグと爆弾ですね。それで理系に進むことにしました。その頃の地元には旧態依然としたジェンダー感覚があり、
『男は理系に進むべし!!』
というのは好まれました」
小学生時代から、一貫して成績は良かった。
理系に進み、首都圏の大学院を卒業するまで化学・生物系の分野を専攻した。
「大学院ではネズミの脳の研究をしてました。脳波をとったり、電極を刺したり。『攻殻機動隊』(講談社)が好きだったので、楽しかったですね。まじめに修士論文も書いて、ちゃんと卒業しました。
この頃もまだ『終末』の話は好きでしたね。『すぐ死にたい』までは時々行くくらいで、何とか生き残りましたが。『ぼんやり死にたい』『ぼんやり世界が終わってほしい』というのは常にありましたけど、むしろ『日常から超越したい』という気持ちのほうが強くなりました。世界が終わるより、科学技術の進歩で精神変容が起こるとか、そういう改革が起きてほしかったです。
今からすればとんでもない価値観をしていたと思いますが、技術や勉強の良いところって『成果を出せればOK』なんですよね。僕のように価値観が不穏でも、成績が良かったり、まじめに研究していればうるさく言われない環境が学生の頃はあったので過ごしやすかったです。
(筆者撮影)
苦痛だった就職活動
そんな環境で何とか生きていたので、新卒就活は辛かった。日本の就活で問われるのは、技術というよりは志望動機や社会に適合する内容の自己PR。何だか価値観の踏み絵を迫られているようで、ひどく苦痛でした。価値観は関係なく技術や成績一発で採ってくれたら楽だったのですが、そうはいかない。仕事をしている今ではそれらが大事なことがよく分かるのですが……」
雨宮さんが就職活動をはじめた時期は、リーマンショックの影響で氷河期だった。
雨宮さんは、卒業後も東京にいたかったので、東京で就職することにした。
「理系の罠がありました。今は違うかもしれませんが、就職が良いのは主に機械・電気・情報で、生物は不利でした。また、東京で刺激のある生活を送りたかったので、首都圏勤務になれそうな会社を探しました」
雨宮さん自身、大学院で研究をしながら、生物よりもプログラミングのほうが向いていると思うこともあった。
「生物って理屈通りいかないんですよ。ネズミN匹で実験したら結果がバラバラになったとか、普通に起きます。それから生き物なので成果が出るのが遅い。元々趣味でやっていて研究でも使っていたプログラミングは、書いたら書いた通り動く上、すぐに結果が分かるので、そっちのほうが自分の性格に合っているような気がしました。『攻殻機動隊』も好きだったし、脳神経科学の次はITに行ってみるかと考えました」
IT系の企業に就職し、システムエンジニアとして働くことになった。
「元々ネットにどっぷりはまっていたし、プログラミングも経験はしていたので、エンジニアとしての仕事にはすんなり適応できました。
新人の頃はプログラミングが中心だったんですが、段々、
『クライアントに話を聞いて、要求に答える』
のがメインの仕事になっていきました。相手は人間、つまり生物なので理屈通りには動かないのですが(笑)、それでも仕事として充実しており、結果としては良かったと思います」
仕事をしていく中で、小さい頃からあった破滅願望が薄れていくのを感じた。
破滅願望は薄れたが、興味は尽きない
「幸いなことに会社にはまともな大人が多く、ちゃんと仕事をしたら正当に評価してくれました。会社に対して反発心はわかず、逆に徐々に自分の中の何かが癒やされるのを感じました。今でも同じ業界に関わりながらこの活動をしています」
雨宮さん自身の破滅願望は薄くなったが、それでも、オカルト史、疑似科学、スピリチュアル、悪徳商法に対する興味は尽きなかった。
2019年頃、雨宮さんが暇つぶしに街コンに出席すると、
「夢を叶えるためには起業しなくちゃダメだ!!」
とやたら煽ってくる人がいた。
別の機会で、知り合いが主催したプレゼン練習会に出席しても同じような話をしてくる人がいた。
「彼らについて調べたり、問い詰めたりした結果、マルチビジネスの会員が紛れ込んで勧誘していることが分かりました。彼らが仕掛けてくる自己啓発思想には、宗教思想から巧妙に宗教色を抜いたものが含まれていました。それを『宗教ではない、身近な真理』であるかのように物知り顔で言ってくるのですごく腹が立ちましたね」
(後編に続きます)
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(村田 らむ : ライター、漫画家、カメラマン、イラストレーター)