放流前のホタテの稚貝(筆者:提供提供)

2023年8月に中国が処理水の放出をめぐり、日本からの水産物輸入を停止しました。中国は日本の水産物にとって最大の輸出先であり、その輸出シェアは22.5%ありました(農林水産省2022年の数値、以下同)。さらに香港の19.5%を加えると42%にも及び、その影響について大きく報道されていました。

特にホタテガイは、中国向け輸出が51.3%を占め、輸出が止まった影響がクローズアップされていたのは記憶に新しいのではないかと思います。

中国向け輸出が止まったのに金額は「過去最高」

ところで2023年の水産物輸出金額は結局どうだったのでしょうか? 農林水産省が発表したデータによると、結果は減少どころか、3901億円と前年の3873億円を1%上回り「過去最高」更新でした。魚種や輸出国によって金額や数量の凸凹はありますが、全体としては減少ではなく増加でした。


農林水産物・食品の輸出実績(出所)農林水産省「2023年1ー12月 農林水産物・食品の輸出額」

輸入停止が始まった2023年8月の記事「『中国がダメなら他国に売る』が難しい納得理由」で、2014年にロシアによるクリミア半島の併合で、ロシアがノルウェーから水産物の輸入停止をした件を紹介しました。

ノルウェーは、世界第2位の水産物輸出国。そのノルウェーにとって最大の輸出先がロシアでした。同国向けシェアは当時13%でした。それがゼロに。大きな影響が懸念されました。しかしながら、輸出金額は減るどころか過去最高を更新するという結果でした。

中国による輸入停止の影響を受けた日本も同様の展開になったと言えます。

ホタテや他の魚種はどうなったのか?

農水省のデータの内訳を見ると、ホタテガイの輸出金額は689億円と24%減少しました。その他にサバが35%減の122億円、イワシが15%減の99億円などとなっています。サバについては、水揚げ量の減少で、輸出数量が4割も減少しています。

一方で、輸出金額が増加したのは、輸出重点品目の真珠が456億円と92%大幅に増加したほか、ブリが15%増加して418億円、カツオ・マグロも27%増加して227億円となっています。

増減はありますが、トータルでは1%の増加という結果でした。世界の水産物貿易は増加を続けていますので、どこかの国の輸入が止まってもその分は、ほかの国々や自国で消費されていくのです。それだけ水産物に食料としての価値があり、また貿易商材としてのポテンシャルは高いのです。

国別では中国が30%減の610億円と輸出金額が大きく減少し、その他では韓国で7%減の228億円、台湾で5%減の330億円となっています。

一方で、香港が35%増の1016億円と大幅増。アメリカが14%増の612億円、ベトナムが10%増の238億円。タイが4%増の245億円となっています。

中国同様に、香港でも東京・福島・千葉・栃木・茨城・群馬・宮城・新潟・長野・埼玉の10都県からの水産物の輸入禁止措置をしました。ところが香港向けの輸出は減るどころか大幅に増加しています。

迂回ルートなしでも消化される水産物

2023年の水産物の輸出金額は、中国向けが約260億円減少し、香港がほぼ同額増加していました。中国向けがその分香港を経由して輸入されているのでは?と状況を調べたところ、昔と異なり罰則が厳格化しているとのことでした。

レストランや飲食店の水産物は、輸入先がきちんと証明できなかったり、輸入停止命令後に日本から輸入したと疑われたりした場合、厳しい罰金刑や営業停止などの処分を受ける可能性があり、迂回ルートでの中国向けは、ほぼ無理な様子でした。

また、上述した2014年にロシアによるクリミア半島の併合で、ロシアがノルウェーから水産物の輸入停止をした後に、迂回ルート、ベラルーシ経由でロシアに輸入されるケースがありました。

ノルウェー、アイスランド、EUから水産物の輸入制限をしたことで、これらの国々の水産物がロシアの隣国ベラルーシが水産原料を輸入して、そこで加工してロシアに再輸出されるケースが急増し、ベラルーシの水産業は活況を呈することになりました。

しかしながら、ノルウェーからベラルーシ向けに輸出された数量の推移を示した次のグラフをご覧ください。ノルウェーからのベラルーシ向けはクリミア半島併合前の2013年には2.1万トンから2017年には4.8万トンに増加しました。

ところが2023年は1.4万トンと併合前の数量さえ下回っています。迂回ルートなしでも、水産物は世界各国で十分消化されているということなのです。


中国の魚介類輸入量はどうだったのか?

中国の輸入数量を見てみましょう。日本からの水産物輸入を停止した2023年の輸入数量は、日本からの輸入を8月から停止しても、467万トンと過去最高数量を更新しています。日本食レストランでの日本食材不足がクローズアップされていました。ところが全体数量でみれば、中国側は日本からの輸入が止まっても数量面では問題なしで、右肩上がりに輸入数量が増加していることがグラフからわかります。


中国の水産物輸入はもともと自国消費が主ではありませんでした。日本を先頭に欧米諸国が、水産原料を持ち込み水産物の加工場として利用していたのでした。商社側がノルウェーなどから原料を持ち込み、加工賃を中国側に支払って製品を再輸出するというパターンでした。

それが、日本をはじめとした国々の加工ノウハウが中国に移っていきました。そして他国のトレーダーなどに原料を持ち込んでもらわなくても、すでに中国側が独自で買い付けができるようになっています。

また、自国の輸入水産物に対する需要も増えています。こうなってくると、中国の水産加工の位置づけは、「世界の水産加工場」から、自国と輸出先の両方を見ながら水産物原料を買い付ける強い立場に変わってきます。

水産物の輸入はどんどん減少

次の表は世界の水産物輸入金額を示しています。オレンジ色の折れ線(赤い矢印)グラフが日本です。2006年まで、日本は世界最大の水産物輸入国でした。現在では、EUを個々の国とした場合、アメリカ・中国に次ぐ第3位です。


水産物輸入金額推移(出所) Global note

傾向を見れば一目瞭然ですが、今後も世界全体の水産物輸入の需要増を背景に、日本の水産物輸入量は減少していきます。そして中長期的には、輸入単価は上昇を続けることになります。

世界の水産物需要は今後も確実に増えていきます。水産物輸出は成長産業です。しかしながら、そのもとなる水産資源があってこそです。自国の水産資源管理を科学に基づいて行い、付加価値の高い水産物を輸出して行くことが重要です。

また、輸出だけでなく国内への供給も同時に重要であることは言うまでもありません。そしてその両者を実現するためには資源の持続性・サステナビリティが不可欠であることを最後に付け加えておきます。

(片野 歩 : Fisk Japan)