3人の息子が「スタンフォード」アグネス流教育
アグネスさん(右)と三男(写真:『スタンフォード大に三人の息子を合格させた50の教育法』)
2023年の夏の甲子園で活躍した岩手・花巻東の佐々木麟太郎選手が進学することで話題の米スタンフォード大学。
歌手・エッセイストとして活躍するアグネス・チャンさん(68)も、子どもが生まれてからアメリカのスタンフォード大学博士課程で教育学博士号を取得した経歴があります。
そして3人の息子たちも、全員がスタンフォード大に進学したほど教育熱心であったことはよく知られているところです。
アグネスさんの教育とはどのようなものであったのか。アグネスさんの著書『スタンフォード大に三人の息子を合格させた50の教育法』の中から一部を抜粋し、紹介します。
子どもの教育に責任を持つ
「教育の全責任は親にある」と私は確信しています。
学校や先生は大事なパートナーですが、子どもの教育は、基本的に親がすべて責任を持つべきです。
小・中学校では読み書き計算を教えてくれて、高校、大学では社会で必要とする専門知識を教えてくれます。でも、先生の生き方や物の考え方が、いつもすべて正しいとは限りません。なかには、子どもに学んでほしくないこともあります。
たとえば、次男の小学校の参観日に行ったときのことです。ある先生が「人間はみんな卑怯もの」というテーマを掲げ、「日頃、家で家族や自分が卑怯ものだと思ったことを発表しなさい」と言ったのです。
私はびっくりしましたが、成り行きを見守ることにしました。順番が回ってくると、次男は「人間は卑怯ものではないと思う。もし卑怯な人がいたら、よく話して、直してあげたい」と発表しました。
それを聞いた先生は「よくテーマがわかっていないようですが、頑張って発表したので、拍手しましょう」と、まるで次男が間違ったことを発表したかのように話しました。 他の子どもたちは、必死で人のアラを探し出すかのようにして発表していました。
後日、私はその先生に会いに行きました。
「人間がみんな卑怯ものだとは思わないのですが……」と考えを話しました。すると先生は「いえ、自分が卑怯ものだとわかった子のほうが、他人を許すことができると思います。だから、子どもには自分も卑怯ものだと覚えさせたほうがいいのです」と、あくまでも自分の考えが正しいと譲りません。
私は帰宅してから次男に「そんなことはないからね。君もママも卑怯ものじゃないよ」と改めて話しました。「そうだよね」と次男はホッとした表情でした。
このように先生によっては、偏った考え方を持っている人がいるのです。インターナショナルスクールの中には、アジア人に差別意識を持った先生もいました。ルールだけがすべてで、権力で生徒を服従させようとするような先生もいました。
そういう偏った考えから子どもを守るのは、親の役目です。
どうしても子どもと気の合わない先生が担任になる年もありました。
そういうときは「できるだけ先生のいいところを見るようにして、勉強に集中しよう。どうしても先生が好きになれなくても、 1年だけだから」と子どもを慰めました。
そして先生の好き嫌いで子どもの成績が下がらないように、よけいに注意深く学校生活をサポートしていきました。
人間形成の大事な年代に、子どもたちは多くの時間を学校で過ごします。
狭い世界で他の子と比べられ、学業の成績やスポーツの成果で価値を測られます。それは過酷な環境です。
学校生活にうまくなじんで、楽しめる子もいれば、学校に潰されてしまう子もいます。親はそうしたリスクがあることをよく理解した上で、子どもがどんな環境に置かれようとも、自分を信じて可能性を伸ばせるようにする責任があります。
子どもの教育に責任を持つのは、決して学校や先生ではありません。
「子どもの教育の全責任は、親が持つ」。まず、その覚悟をしなければなりません。
「みんなと同じ」は時代遅れ
また、日本の社会や学校には、「平均的でいるのが一番無難」「みんなと同じであることが大事」という風潮があるように思います。
目立ちすぎると何かと睨まれたり、自慢げに見えたりするので、「おとなしくて目立たないのが一番」と、子どもたちも無意識に自己防衛しているのかもしれません。
アグネスさん自身もスタンフォード大学大学院で博士号を取得している。写真は卒業式で撮影(写真:本人提供)
しかし、「何事も日常を乱さず、総合力で勝負」という従来の考え方は時代遅れです。これからの時代は、人と違った考えが求められるようになります。毎日新しいものが求められる世の中なので、自由な発想で、人と違った新しい流行を生み出せる人が必要とされているのです。
そういう人になるためには、人の目を気にせずに、自分の心を自由にすることが大事です。これは自分に自信がないとできません。学校で人と違ったことをして、いじめられても、笑われても、自分の「個性」を大事にできる子が、むしろ今、世の中が求めている人材です。
多くの大学も、このような人材を求めています。
「無理にみんなと同じになることはない」と、私はいつも息子たちに言ってきました。そして、「変わっているね」と言われる子がいると、「あの子いいね。とってもスペシャルだね」と積極的に褒めるようにしてきました。
このようにして、子どもが「個性」を出しやすい雰囲気を作っていくのです。
私は子どもに、簡単に人に合わせるような人間になってほしくないし、人に好かれるために自分の意見を曲げて妥協するような人間にもなってほしくなかったのです。だから、「長いものに巻かれる人間になるより、たとえ打たれることがあったとしても出る杭になったほうがましだ」と教えてきました。
アメリカ留学時に役立った「個性」
これは彼らがアメリカに留学するようになってから、大変に役に立ちました。
アメリカは個の意見を大事にする国です。人の意見に合意するときも、反対するときも、自分の見解を話せない人は信頼されません。みんなに合わせるだけでは、「何も考えていない、無能な人」と見られがちです。
おかげさまで、息子たちは自分の自由な考えを、照れずに人に言える人間に育ったと思います。それが一番できるのは長男。彼は常に独創的な発想を持っていて、進んで意見を言います。
次男は、話がくだらないと思ったときは無口ですが、関心のある話題になると、相手を納得させるまで話す話術を持っています。三男は、笑顔でわかりやすく説明できるのが最大の武器。プレゼンテーションの上手さは小学校時代から評判でした。
三人はそれぞれ態度は違うけれど、みんなと違った意見を持ったり、人と異なる振る舞いをしたりするのを恐れることはありません。
みんなと違っていることは、むしろ恵みであり、最大の武器でもあるのです。
(アグネス・チャン : 歌手・エッセイスト)