「聞き分けがよくて助かる」そんな子どもは将来損をする…年収100万円の差を生む"わがまま"の重要性
※本稿は、西剛志『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教える「やりたいこと」の見つけ方』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■協調性が強すぎる子どもは将来の年収が100万円低くなる
「聞き分けがいい子ども」は、大人ウケがよく、可愛がられます。
その反面、大人になって大きな成果を出しにくくなる傾向が報告されています。
ドイツの心理学者ヘッツァーは強い反抗期を示した2歳から5歳の「聞き分けのない100人」を青年期まで調査しました。その結果、84%の聞き分けのない子どもが大人になってから「意思が強く、しっかりとした判断力のある大人になる」ことがわかりました。聞き分けがよかった子どもは、24%しか意思が強く判断力のある大人になれませんでした。
聞き分けが悪いことは一般的によくないことだと思われがちですが、逆にしっかりとした考えがあるからこそ、言う通りにしないことがあると言えるでしょう。
実際にルクセンブルク大学の2015年の研究でも、当時小学6年生の約3000人を40年かけてリサーチしたところ、勉強熱心と評価された生徒は大人になってよい仕事についていましたが、「規則を守りすぎる子供」より「規則を守らない子供」ほどより収入が高い仕事についていました(※1)。
※1: Marion Spengler, et. al., "Student Characteristics and Behaviors at Age 12 Predict Occupational Success 40 Years Later Over and Above Childhood IQ and Parental Socioeconomic Status" Developmental Psychology, July 2015
さらに、協調性が強すぎる子どもは、そうでない子どもと比べて、大人になってから約7000ドル(日本円で約100万円)も収入に差が出るという結果もコーネル大学の研究で報告されています(※2)。
※2:T.A. Judge, B.A. Livingston, C. Hurst.,“Do nice guys--and gals-really finish last? The joint effects of sex and agreeableness on income.” J.Pers. Soc. Psychol., 2012, Vol.102(2), p.390-407
■人の意見に左右されやすい人はやりたいことが見つかりにくい
成功する経営者やスポーツ選手、音楽家などは、いい意味で「わがまま」が多いものです。たとえ、周囲から「無謀だ、やめておけ」と思われるような夢でも、自分を信じて突き進むことができます。世界の大富豪であるイーロン・マスクやジェフ・ベゾス、世界的に有名な映画監督の宮崎駿や建築家の安藤忠雄なども、自分を貫いて成功した人物でしょう。
人の意見に左右されやすい人は、やりたいことが見つかりにくい傾向があります。人の感情ばかり気にして、自分の得たいものにフォーカスできないからです。
自分のなかに占める他人の割合が多い、ともいえるでしょう。
■人間の意識には「私的自己意識」と「公的自己意識」がある
では、なぜ、自分の意見ではなく、人の意見に従ってしまうことがあるのでしょうか?
そもそも、人間の意識には、「私的自己意識」と「公的自己意識」の大きく2種類がある、という研究があります(※3)(※4)。
※3: Scheier,M.F. & Carver,C.S. 1976 Self-focused attention and the experience of emotion:Attraction, repulsion, elation,and depression. Journal of Personality and Social Psychology,35,625-636 /Scheier,M.F., Carver,C.S., & Gibbons,F.X. 1979 Self- directed attention,awareness of bodily states, and suggestibility. Journal of Personality and Social Psychology,37,1576-158./Cheek,J.M. & Briggs,S.R. 1982 Self-consciousness and aspects of identity. Journal of Research in Personality.16,401-408.
※4: Fenigstein,A.1979 Self-consciousness,self-attention, and social interaction. Journal of Personality and Social Psychology, 37,75- 86/ Carver,C.S. & Humphries,C. 1981 Havana daydreaming : A study of self-consciousness and the negative reference group among Cuban Americans. Journal of Personality and Social Psychology,40,545- 52./Cheek,J.M. & Briggs,S.R. 1982 Self-consciousness and aspects of identity. Journal of Research in Personality.16,401-408
私的自己意識とは、自分の外側よりも“自分の内側”に注意を向ける意識のこと。この意識が強い人は、自分の気持ちに対する感覚が鋭く、人の意見にも「違います」「イヤです」とキッパリ言える傾向があります。
そのため、“自分がどうありたいか”という「個人的アイデンティティ」を重視します。
一方、公的自己意識とは、自分の外側に注意を向ける意識です。公的自己意識が強い人は、他人から見られる自分を意識して、意思表示を抑えがちで、同調行動を多く示す傾向があります。
そのため、“他人にどう思われるか”という「社会的アイデンティティ」を重視します。
残念ながら、公的自己意識が強すぎると、他人の意見に流されやすくなります。本心では「いいえ」でも、「はい」と言ったほうが相手は喜ぶなどと、相手の気持ちを優先してしまうからです。
■人の意見を無視してもうまくいくのは一握りの天才だけ
では、私的自己意識が強ければいいのか、というと、必ずしもそんなことはありません。「人の意見に左右されない」傾向が、「自分のことしか考えない身勝手さ」につながると、単なる「自己中心的」として批判の的になるでしょう。
何事もバランスが大切です。とはいえ、その「自分と他人」とのバランスは容易ではありません。言い換えるなら、人の意見を聞き入れる柔軟性と、人の意見に左右されない強さのバランスです。
たとえば、何かを判断するときに、誰の意見をどこまで取り入れて、自分のアイデアをどこまで生かすのか。
よほど才能に自信があるなら、人の意見は無視してもうまくいくことがあります。実際に、学術でもスポーツでも、人の話を聞かない天才に人がついてくるのは、格段の才能があるからだったりします。
しかし一般的には、他者の意見を尊重しながら、他者と共に生きる道を探していくことが賢明です。
ドジャースに移籍して、メジャーリーガーとして史上最高の契約金1000億円を獲得した大谷翔平選手は、当時周りから批判された二刀流を貫く強い意思がありました。しかし、それだけではなく、チームや周りへの配慮も欠かせない人柄が人気を博し、一流を超えて世界的な「超一流」の選手として多くの人に迎え入れられるまでに成長しました。
時には自分の意思を大切にして、時には人の意見に耳を傾ける――折衷案が必要なこともあります。
そんな「自分と他人」とのバランスに迷う人は、自分が理想とする自分と他人のバランスを「自分30、他人70」といったように、スコア化してみるのがおすすめです。たとえば、「自分60、他人40」のバランスが心地いいという人がいます。
また、別の人は「自分50、他人50」でないと落ち着かないかもしれません。理想の比率は、人によってまちまちです。
■「自分」と「他人」の理想的なバランスを考える
問題が生じるのは、理想と現実にギャップがあるときです。本当は「自分70、他人30」が理想で、自分の意見が通りやすい環境が好みなのに、「自分30、他人70」の環境を強いられたら、耐え難いストレスを感じるでしょう。
逆に「自分90、他人10」が許される環境でも、「独りよがりになっていないかな?」と心配になるかもしれません。
そして、仕事でもプライベートで努力してもうまくいかないとき、かなりの確率で、理想と現実の状態にズレがあることが、これまでの研究でわかっています。
■「違和感」は理想の自分に近づく強力な手がかり
一般的に違和感はあまりよくないものと思われがちです。しかし、この理想と現実のズレから生じる違和感は「やりたいこと探し」の究極の手がかりです(※5)(※6)。
※5: Rogers,C. R. 1951 Client-centered therapy : Its current practice,implications and theory. Boston : Houghton Mifflin/ Higgins,E.T., Klein,R.L., & Strauman,T.J. 1987 Self-discrepancies : Distinguishing among self-states , self-state conflicts , and emotional vulnerabilities . In K . Yardley & T.Honess (Eds.), Self and identity : Psychosocial perspectives, pp.173-186.Chichester,England : Wiley.
※6:Duval,S. & Wicklund,R.A. 1972 A theory of objective self-awareness. New York : Academic Press.
なぜなら、違和感は、求めている自分の特性や個性、価値観や感覚とズレていると脳が認知したときに感じるもので、現在の行動や方向性が自分に合っていないことを教えてくれているからです。
普段から「この仕事、どうもしっくりこないな」「人間関係でつかれてしまうな」と引っかかりを覚えることはありませんか?
それは、仕事をするうちに忘れてしまうような、あまりにも小さな違和感かもしれません。
■好きでないことをやっているときに人は違和感を覚える
しかし、その違和感があるということは、自分が好きでないことをやっている可能性があります。人と一緒に過ごすのが好きなのに、一人でリモートの作業だけの仕事をしている人は、違和感を感じます。
本当にやりたいことは、事務作業ではなく、人と一緒に会話したり、価値観を一緒に作り上げていくことかもしれません。
つまり、違和感があったときこそ、「やりたいこと」に近づくチャンスなのです。
今やっている仕事から、違和感のある作業を少しずつ減らしていけば、徐々にやりたい仕事に近づいていけるでしょう。
「1つの仕事を根気よく続けることで人は成長する」という意見も一理ありますが、さまざまな仕事を経験しながら違和感を集めることも、やりたいこと探しには欠かせないプロセスなのです。
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西 剛志(にし・たけゆき)
脳科学者
1975年生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻卒。博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。テレビやメディアなどにも多数出演。著書に『脳科学者が考案 見るだけで自然と脳が鍛えられる35のすごい写真』『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』『世界一やさしい自分を変える方法』(以上、アスコム)などがある。著書は海外を含めて累計32万部を突破。
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(脳科学者 西 剛志)