能登半島地震の被災地でも…相次ぐ【火事場泥棒】 罪が重くなる可能性は? 弁護士が解説
新聞やテレビなどの報道によると、能登半島地震の被災地では、住民が避難して不在になった住宅を狙った窃盗事件が相次いでいるということです。自然災害や火事などに便乗して盗みを働く行為は「火事場泥棒」と呼ばれており、SNS上では「許せない」「火事場泥棒は重罪にすべき」などの声が上がっています。
自然災害の被災地で窃盗事件を起こした場合、一般的な窃盗事件よりも罪が重くなる可能性はあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
一般的な窃盗罪よりも多少罪が重くなる可能性
Q.そもそも、「窃盗」とはどのような行為を指すのでしょうか。物などを盗まなかったものの、他人の住宅や敷地に侵入しただけでも法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
佐藤さん「『窃盗』は、他人が所持している物をその人の意思に反して盗むことです。刑法235条で『他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する』と定められています。他人の目を盗み、ひそかに盗む場合は、原則として窃盗罪に問われます。
窃盗罪は、未遂であっても罰せられます(刑法243条)。未遂罪に問われるかどうかは、『犯罪の実行に着手』したといえるかどうかによります(刑法43条)。窃盗の現実的な危険性が発生すると、『犯罪の実行に着手』したと認められます。一般的に、物色行為を始めた時点から窃盗未遂罪に問われることが多いです。
従って、物を盗むつもりで他人の住宅や敷地に侵入したものの、物色行為を始める前に見つかって捕まったようなケースでは、『犯罪の実行に着手』したと認められず、窃盗未遂罪にも問われないでしょう。ただし、他人の住宅や敷地に侵入すれば、住居侵入等罪に問われる可能性はあります。
なお、未遂罪の場合、『刑を減軽することができる』とされています(刑法43条本文)。自分の意思で犯罪を中止したときは、必ず刑の『減軽または免除』が認められます(刑法43条ただし書き)」
Q.自然災害の被災地では、住宅などを狙った窃盗事件が発生することがあります。被災地の住宅などで窃盗事件を起こした場合、一般的な窃盗事件よりも罪が重くなる可能性はあるのでしょうか。
佐藤さん「避難中の被災者の住宅を狙った窃盗は極めて悪質性が高いため、量刑の際に考慮され、一般的な窃盗事件より、多少重い刑が言い渡される可能性はあります。あくまで窃盗罪の法定刑の範囲内で処罰されるため、重い刑罰が科されるわけではありません。
一方、災害時の窃盗は、財産を奪うだけでなく、被災者の安全や安心も奪う卑劣な行為であることから、重罰化を議論すべきであるという声もあります」
Q.自然災害の被災地の窃盗事件に関する判例について、教えてください。
佐藤さん「2021年8月に静岡県熱海市伊豆山の土石流被災地の住宅に侵入し、女性用下着などを盗んだとして、窃盗罪と住居侵入罪に問われた男の裁判が、2023年に行われました。裁判官は、『避難中の被災者の住宅を狙った犯行は卑劣で悪質』と指摘し、犯行の悪質性も踏まえた上で、刑を言い渡しました。
本件は、常習性があり、被害額は高額ではなく、示談が成立しているなどの事情もあり、そうしたさまざまな事情を総合的に考慮した上で、懲役1年8月、保護観察付き執行猶予3年の判決が言い渡されました」