障害年金の請求時は医師の診断書などが必要

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 筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気などで就労が困難なひきこもりの人を対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。

 浜田さんによると、障害年金が受給できるくらい障害状態が重いかどうかは、主に医師が作成する診断書で判断されるということです。そのため、日頃の受診時から日常生活の困難さをしっかりと医師に伝えておくことが望ましいと言えます。

 しかし、ひきこもりの人自身がコミュニケーションが苦手で、医師にうまく伝えられないこともあります。そういった場合、どのような対策を検討したらよいのでしょうか。浜田さんが、ひきこもりの息子がいる母親をモデルに解説します。

医師に日常生活の困難さが伝わらない

 ひきこもりの長男(25)の障害年金の相談で、私の元を訪れた母親(55)は、困惑した表情で言いました。

「医師に診断書の作成を依頼したのですが、その際、『障害年金は難しいのではないでしょうか』と言われました。でも本当にそうなのか、疑問に思っているのです」

 母親によると、長男には発達障害があり、特にコミュニケーションに難があるそうです。長男は話しかけられてもすぐに反応することが難しく、目を泳がせながらしばらく何かを考えるようなそぶりを見せますが、そのまま何もしゃべらないことが多いとのこと。

 医師と話をするときも、質問されたことをあまり理解せずに『はい、はい、大丈夫です』と答えてしまうことが多く、ひどいときには何もしゃべらずに診察室から出てきてしまうこともあるそうです。

 母親は「医師に状況がきちんと伝わっていないのではないか」と、もやもやした気持ちを抱えてしまい、どうしたらよいのか分からなくなっている様子でした。

 そこまでお話を伺った私は、母親に次のような提案をしてみました。

「お母さまが診察に同席して、息子さんの日常生活の困難さを伝えてみるのはどうでしょうか」

「私が同席することを申し出たところ、医師からは『本人との関係性が崩れる可能性もありますので、お母さまの同席はご遠慮ください。お話は本人から聞きますから大丈夫です』と断られてしまいました」

「では、私が息子さんの日常生活の状況をヒアリングして文書にまとめ、医師にご覧いただく方法はどうでしょうか」

 すると母親はさらに険しい表情になりました。

「恐らくそれも駄目だと思います。医師からは『本人自身から伝えてもらわないと困る』と言われてしまったので」

「なるほど。それはなかなか難しそうですね…」

 私たちは黙り込んでしまいました。

病院を変えるとリスクも

「最後の手段を取るしかない」

 そう考えた私は、まず母親に現在通っている病院に何かこだわりがあるのかを聞いてみました。すると「ただ自宅から近いだけ」ということが分かりました。現在の病院に強いこだわりがあるようには感じられなかったので、私は母親に次のような提案をしてみました。

「場合によっては、病院を変えることも検討しなければならないかもしれません。とはいえ、新しい病院の医師が理解ある方だとは限りませんし、一から関係性をつくり直すことになってしまいます。気に入った医師が見つかるまで病院を転々としてしまう可能性もあります。病院を変えるのであれば、そのようなリスクがあることを息子さんと共有しておく必要があるでしょう」

「分かりました。多少のリスクは受け入れる覚悟でいようと思います。ちなみに病院はどのように探したらよいのでしょうか」

「インターネットで発達障害を専門にしている病院を中心に探してみる方法があります。サイトを見比べてみると、病院の雰囲気や医師の感じが多少つかめるかもしれません。なお、受診の予約を入れる際、事情を話してお母さまも同席可能かどうか聞いてみるとよいでしょう」

 すると、母親はさらに質問しました。

「新しい病院ですぐに診断書は書いてもらえるものなのでしょうか」

「転院してすぐに診断書は書いてもらえないことが多いので、何度か通院した後に医師に診断書作成の依頼をすることになるでしょう。息子さんの日常生活の困難さを口頭だけで伝えるのが不安であれば、私の方で文書を作成します」

「分かりました。長男とよく話し合ってみます」

 先の見通しが立ったためか、母親の表情は幾分和らいでいました。

 私との面談後、母親と長男は時間をかけて病院を探しました。長男が「ここなら受診してみたい」という病院を見つけ、母親が病院に電話で問い合わせをしました。すると、母親の同席は可能であり、前医の紹介状も必要ないとのことだったので、そのまま受診の約束を取り付けました。

 幸いにも、医師は、長男がコミュニケーションが苦手であることに理解を示してくれ、母親から長男の日常生活の困難さも聞き取ってくれました。また、私が作成した日常生活の困難さを記した参考資料にも目を通してくれたそうです。3回目の受診を終えた後、診断書の作成をしてくれることになりました。

 診断書作成から1カ月がたった頃、母親から連絡がありました。

「おかげさまで無事に診断書を入手することができました。医師も理解を示してくれたので、ほっとしています。病院を変えるのには大きな不安もありましたが、何とかなってよかったです」

 母親からの連絡を受け、私はほっとした気持ちになりました。