実は「不当解雇」ではない? 企業から「クビ」を言い渡されるかもしれない“正当な理由”2つ
通常、労働者はいきなり「クビ」、つまり企業から「解雇」されることはありません。もし解雇を宣告された場合、法律や就業規則にのっとったものではない「不当解雇」を疑う必要のあるケースもあるかもしれません。しかし中には、企業にとって「正当な解雇理由」になり得る労働者の行動もあるようです。
企業から「クビ」を言い渡されるかもしれないのは、どのような行動なのでしょうか。社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。
「勤務態度不良」「能力不足」も解雇対象になり得る
Q.そもそも、なぜ一般的に労働者は、簡単には「クビにならない(解雇されない)」のでしょうか。
木村さん「企業と労働者が雇用契約を結ぶ場合、職種による採用方法には大きく分けると、具体的な職種を限定しない『総合職』と、医師や教師など具体的に職種を限定する『ジョブ型』の2種類があります。
総合職雇用では『就社』という考え方があるため、例えば営業職から総務職になったり、転勤をさせたりなど、人事に関して会社が必要なときに社員を自由に動かせる権限を持ち、就業規則にもその旨が明記されています。その代わり、従来所属していたポストがなくなっても、他部署への配置転換をするなど、雇用を保証するための対処が必要です。
一方、ジョブ型雇用は『就職』であり、例えば営業職で採用された場合、会社が必要でも本人の合意なく総務職など他の職種に転換することはできませんが、営業の仕事がなくなれば、雇用契約の内容によっては解雇することが可能です。日本企業の場合、入社時から専門技術が必要な職種を除き、特に正社員は総合職として雇用されるケースが多いので、簡単に解雇することができないのです」
Q.しかし一方で、企業から「正当な理由」で解雇されるケースも実際にあるのでしょうか。
木村さん「解雇とは、使用者(企業など)から労働者に対する一方的な雇用契約の解消のことで、一般的には『クビにする』ともいわれます。
先述したように、従業員を簡単にクビにすることはできませんが、正当な理由があれば解雇を可能としています。その正当な理由とは、(1)就業規則に解雇理由の定めがあり、なおかつ定めた内容が合理的であること(2)解雇処分にすることが社会通念上正当だと認められる(一般的な概念として「この理由なら解雇されても仕方がないね」と納得する理由)こと―の2つです。
この(1)(2)を踏まえた上で、解雇の種類と、どのような場合に解雇処分が可能かを解説します」
【整理解雇】
「整理解雇」とは、「会社の業績が悪化した」などの理由で従業員をリストラする場合の解雇です。企業側が次の4つの要件を備えることで、解雇が有効になり得ます。
(1)利益の減少などにより、人員削減の必要性があること
(2)早期退職者の募集、役員報酬の減額、賞与の支給停止などの事前措置を行い、従業員の解雇を回避するような努力を尽くしたこと
(3)解雇する従業員の人選基準について合理性があること
(4)人員削減の必要性について労働者に対する説明や、労働組合または就業員代表との協議がなされていること
【普通解雇】
「普通解雇」とは、「上司の指示を聞かない」といった勤務態度不良、無断で欠勤・遅刻・早退を繰り返すといった勤怠態度の不良、社内の人間関係に対する協調性の欠如、与えられた仕事に対する能力不足などによる解雇のことです。
企業(上司)が従業員に対して相応の時間をかけ、複数回の注意や指導、教育などを行い、ケースによっては業務内容の変更や他部署への配置転換の措置を取ったのにもかかわらず状況が改善しない場合、解雇の対象になり得ます。
【懲戒解雇】
「懲戒解雇」とは、同業他社に企業秘密を漏らす、SNSなどで会社に対する誹謗(ひぼう)中傷を行う、会社の金銭を横領する、無断欠勤が長期間におよび出勤の督促に応じない、会社の業務に必要な経歴を詐称して雇用された、などによる解雇のことです。
懲戒解雇は、従業員が会社の秩序を乱す重大な規律違反や非行を行った場合に「制裁」として行う処分であり、内容が悪質(故意的など)で重大な損害を与える行為であることを会社側が立証できた場合、解雇の対象になり得ます。
また本来、懲戒解雇に相当する場合でも、従業員のこれまでの勤務状況などを勘案し、温情的な処分として「諭旨解雇」扱いにする場合もあります。これは、会社が従業員に退職を勧告し、退職届の提出をさせた上で解雇する懲戒処分のことで、企業と従業員が合意の上で行う点が懲戒処分との違いです。
「正当な理由」による解雇、拒否できる?
Q.企業から「正当な理由」によって解雇を言い渡された場合、労働者側は拒否、あるいは撤回させるよう働きかけることはできるのでしょうか。
木村さん「労働者が、Q2で述べたような事情で会社から解雇を言い渡された場合でも、解雇理由や解雇手順(例:懲戒解雇処分を決定する前に弁明の機会が与えられなかったなど)に不服があった場合、会社の求めに応じて退職届を出すのは控えましょう。その上で、下記(1)から(3)の順で解雇の撤回を求めます」
【(1)解雇予告日から退職日までの間に、会社から解雇理由証明書を発行してもらう】
会社が労働者を解雇するときに発行する「解雇通知書」に解雇理由の記載がない場合は、解雇理由証明書の交付を請求することが可能であり、会社は労働者から求められた場合、証明書を交付する義務があります(労働基準法22条)。
【(2)解雇の撤回を求める】
解雇通知書もしくは解雇理由証明書に記載された解雇理由および就業規則に定める解雇理由により、「不当解雇である」と主張する場合は、会社に解雇の撤回を要求する旨の交渉を申し入れましょう。交渉は労働者本人が行いますが、代理人として弁護士、ユニオン(合同労組)に依頼することも可能です。
【(3)労働審判の申し立てや、裁判などを検討する】
交渉が決裂、もしくは会社が交渉に応じない場合は、会社と労働者間のトラブルについて簡易迅速に解決するための手続きである「労働審判」の申し立てや、裁判を起こすことなどを検討します。また、解雇の撤回を求める際は、次のポイントに留意するといいでしょう。
・不当解雇であることの証明をそろえること(就業規則、解雇理由証明書など)
・会社に対しての要求内容をはっきりさせること(現在の職場で働き続けたいのか退職したいのか、未払い賃金や慰謝料の請求額など)
・解雇の撤回が可能か否かについて、早めに労働基準監督署、弁護士、ユニオンなど専門家、専門機関に相談すること