記事のポイント

TikTokにおいて料理動画が大きなトレンドとなっており、多くのブランドやインフルエンサーが注目。大手ブランドや著名人も料理関連のコンテンツに積極的に関与しており、新しい視聴者層を獲得している。

フードコンテンツは、多くのインフルエンサーにとってさまざまな商品やブランドとの提携機会を提供しており、その金銭的メリットからもプレイヤーは増加傾向。

インフルエンサーは料理動画を通じて、伝統的な広告よりもコスト効率の高い方法でブランドと協力し、経済的な成功を収めている。


カップケーキブランド、ベイクドバイメリッサ(Baked by Melissa)の共同創業者/CEOメリッサ・ベンイシェイ氏は、創業以来、同社のソーシャルメディア活動を牽引しており、インスタグラムとFacebookに定期的に投稿を続けている。

多くと同様、ベンイシェイ氏がTikTokに注目したのは2020年のコロナ渦中のことで、カップケーキのデコレーション動画や、同社の看板商品、一口サイズカップケーキを作るベーカリーの舞台裏を見せる動画、その他商品の動画などを投稿した。手応えはまずまずで、視聴数は数千から数十万回だった。

続いて、氏はサラダの動画を投稿した。すると、視聴数は実に980万回を数え、これをきっかけに、氏は方向転換を決め、いまや奇妙なタイダイ柄のカップケーキやにんにくを刻む動画から、オートフラワーの作り方、そしてもちろんサラダに至るまで、さまざまなコンテンツを投稿している。

インフルエンサーからセレブまで「料理」に



この方向転換が壁を壊し、新たなオーディエンス、新たな料理本、そしてオクソー(OXO)やウェイト・ウォッチャーズ(Weight Watchers)、ウォルファー・エステート・ヴィンヤード(Wölffer Estate Vineyard)、焼菓子ブランドのエンテンマンズ(Entenmann’s)といった企業らとの新たな提携への道を拓いてくれたと、ベンイシェイ氏は話す。

「この数年間でしっかりと学んだことが1つある。我々にはいまや、15年目にして初めてベイクドバイメリッサで販売する新商品がある。それはコンテンツにほかならない」と氏は話す。

ベンイシェイ氏だけではない。他のコンテンツクリエイターたちも同じくフード分野へと方向転換しており、コンテンツの多様化に、そしてさらなるブランド機会の獲得に積極的になっている模様だ。たとえば、TikTokではcurlyfuqの名で活動するインフルエンサー、アーロン・マタノウスキー氏は2021年、面白動画で数百万回の視聴数を手にした。

が、2023年の初頭には、フードおよび料理コンテンツに切り替えていた。また、妻クリスティ・サラスコット氏と創る面白動画で人気を博し、ソーシャルメディアフォロワー数1900万人以上を誇る夫婦コンビ、ザ・スコッツ(The Scotts)のデズモンド・スコット氏は11月、desmondthechef(デズモンドザシェフ)の名で、フードに特化したTikTokを始めた。

セレブも同様の動きを見せており、たとえば女優/歌手のセレーナ・ゴメス氏は2020年にMaxで料理番組を始めた。元プロサッカー選手デヴィッド・ベッカム氏と歌手ヴィクトリア・ベッカム氏の息子でモデルのブルックリン・ベッカム氏さえも、2021年、ソーシャルメディアシリーズ「Cookin’ With Brooklyn(クッキン・ウィズ・ブルックリン)」を始めた。

フードの影響力増大



エージェンシー幹部らは一様に、フードインフルエンサーの増加が――業界全体の人数までは、誰にも定かでないようだが――見られると話す。ジ・インフルエンサー・マーケティング・ファクトリー(The Influencer Marketing Factory)の共同創業者/CEOアレッサンドロ・ボグリアリ氏は、2022年以来、氏が率いるチームのクライアントらにおいて、フードコンテンツ需要が30%増えている、と断言する。また、フードに特化したタレントマネジメントエージェンシー、クックイット(CookIt)は前年比25%の成長を遂げたという(両社ともに、詳細は明かさなかった)。

インフルエンサーマーケティングエージェンシー、ビリオン・ダラー・ボーイ(Billion Dollar Boy)は、フードコンテンツに対する依頼が明らかに増えた、とは必ずしも言えないが、コロナ禍のロックダウン中、多くの人が自宅で料理および食事をするなかで、フードクリエイターの数が一気に増加したのは間違いない、と話す。フードはさらに、他タイプのコンテンツからの鞍替えが容易なジャンルでもある。料理動画はコンテンツの多様化を図り、とどのつまり、ソーシャルメディアアルゴリズム内での関連性の維持を狙うクリエイターにとって、敷居が低く、手を出しやすいからだ。

「フードは自分の専門外に手を伸ばし、コンテンツを多様化するための手っ取り早い手段と見られている」と、ビリオン・ダラー・ボーイのストラテジー部門シニアマネージャー、クリストファー・ダグラス氏は話す。「投資のポートフォリオのようなものだ。多くの人々に訴えかける多くのコンテンツを持つことは、明らかに、その者に利益をもたらしてくれる」。

フードおよびフードコンテンツは、BuzzFeedのTasty(テイスティ)調の料理指南ものや、TikTokでバズるレシピ(ベイクドフェタパスタはその好例)、ガールディナーと呼ばれるスナックの盛り合わせなど、種類はさまざまだが、おしなべて普遍的なものであり、インフルエンサーにとっては、スナックから調理器具に至るまで、さまざまな商品を販売するブランドとさらなる提携の機会をくれる極めてありがたい存在だと、エージェンシー幹部らは話す。

「フードをインフルエンサーマーケティングという急成長ビジネスに足を踏み入れるための扉と見なすクリエイターが、日々、増加の一途を辿っている」と、インフルエンサーマーケティングエージェンシー、クックイット・メディア(CookIt Media)のEVPモリー・ベントン氏はeメールで指摘する。「そうしたフードクリエイターたちが自宅で、従来の広告よりも費用対効果のはるかに高いやり方で制作および撮影できるコンテンツの質を、いま現在、ブランドは見定めている」。

代替収益源



コロナ禍の発生以来、TikTokは多大な成長を遂げ、ソーシャルメディアにおける自身の影響力の現金化を図るインフルエンサーにとって、極めて肥沃な場へと進化した。ただし、TikTokは最近、クリエイタープログラムを取り止めており、いまや、新たな現金化手段の探究は必須だ。

インフルエンサーには、常に変化するTikTokに適応するだけでなく、同プラットフォームで現金を生むための代替手段を見つける必要があることを、この動きは改めて強調している。TikTokが変わりゆくトレンドおよび戦略に順応するなか、インフルエンサーは進化を続ける同地を巧みにナビゲートし、経済的成功に繋がる新たな機会を同定かつ利用しなければならない。

TikTokに53万人以上のフォロワーを持つインフルエンサー、ペイジ・マクドナルド氏がTikTokをダウンロードしたのはそもそも、対面交流が制限されていた当時に抱いた、自作動画を友人らと共有したい、との思いからだった。氏の初期コンテンツはトレンドにフォーカスしたもので、ロックダウン中の私生活の紹介とダンスが主な内容だった。ただ、視聴数は大して伸びなかった。そんなある日、ペイジ氏は自らの料理愛にフォーカスし、それを掘り下げるコンテンツへの転換を決めた。

「料理は若い頃からしていました。それでふと、いつも作っている朝食のブリトーを投稿してみようかな、と思ったんです。そうしたら、それがバズりましてね、驚きましたし、それで、そうか、これでいいんだ、と思ったんです」とペイジ氏。「他のコンテンツをちょこちょこと投稿してみても、どれもまるで駄目。でも料理動画を上げると、みんなが言ってくれるんです、『そうそう、これが見たいんだよ』って」。

マクドナルド氏によれば、料理コンテンツの作り方も大きく変わったという。当初は、レシピを手早く紹介し、使う食材の数も最小限にすることにフォーカスしていた。その当時、TikTokの動画の種類は限られており、短尺ものが主だった。だがいまや、3分や10分といった長尺オプションもあり、必要に応じて柔軟に、より詳細かつ包括的なかたちでコンテンツを掘り下げ、提示することができる。そのおかげで、氏はいくつかのブランドの目に留まり、提携の申し出を受け、作品に対する金銭的補償を得られるようになった。

氏はたとえば、ウェイト・ウォッチャーズと組み、同社ユーザーのための健康的レシピを考案した。また、タコベル(Taco Bell)、ブルー・チェアー・ベイ(Blue Chair Bay)、スライブ・マーケット(Thrive Market)のスポンサード投稿にも協力している。氏はそれらブランドとの金銭契約の詳細こそ明かさなかったが、キャンペーンまたはプロジェクトの規模、そのブランドが動画をどう利用したいのか、そのブランドが氏のコンテンツを広告として展開させたいのか、それとも氏のTikTok動画におけるプロダクトプレースメントにしたいのかに応じて、請求額を変えているという。

飽和の危惧なし



現在、フードコンテンツは平均視聴数およびエンゲージメントに関して、他のバーティカルに比べて倍の勢いという、想定を上回る伸びを見せていると、インフルエンサーマーケティングエージェンシー、インフルエンシャル(Influential)のCEO、ライアン・ディタート氏は話す。そして、銀行から器具メーカーまで、あらゆるバーティカルがフードコンテンツクリエイターとの提携機会を探し求めている、と。同分野が成長株に見えるのは当然だ。ただし、フードというジャンルの民主化が進むにつれて、参入するプレーヤーの数が増えている、という事実もある。

自分にも料理はできると、誰もが自負しており、それゆえ、手っ取り早く現金を手に入れる手段としてフードコンテンツ制作に手を出す者もいると、ジ・インフルエンサー・マーケティング・ファクトリーのボグリアリ氏は話す。言い換えれば、インフルエンサーエージェンシーとクライアントであるパートナーは、両者の適合を確かなものにするため、ブランドパートナーシップに対する意識を高める必要がある。

失敗事例:ブルックリン・ベッカム氏はソーシャルメディアシリーズを立ち上げた際、激しく批判され、ニューヨークポスト(New York Post)の「ブルックリン・ベッカムの料理番組は問題あり:ずぶの素人」をはじめ、辛辣な見出しが散見された。

もっとも、フードコンテンツ制作熱が高まるなか、飽和の危惧もなければ、料理チャンネルを持つインフルエンサーの過剰問題も起きないだろうと、エージェンシー幹部らは話す。くり返すが、それはつまり、インフルエンサーエージェンシーとクライアントであるパートナーには、不適合なパートナーシップやインフルエンサー災禍を避けるため、ブランドパートナーシップに対してより慎重な姿勢が求められる、ということだ。トランスジェンダーインフルエンサーのディラン・マルバニー氏との提携で猛烈に非難されたバドライト(Bud Light)の失策はその典型例だと、エージェンシー幹部らは話す。とはいえ、とどのつまり、フードは多くのバーティカルにとって普遍的存在だと、ディタート氏は評する。

「我々は数時間おきに空腹になる。つまり、フードは文字どおり貪欲なバーティカルにほかならない」と、ディタート氏はeメールで指摘する。「フードはどのカテゴリーとも結びつけられるし、優れたアーティストはサンドイッチアーティストにもなりうる。だからこそ、我々はフードにはまるのだ」。

[原文:TikTok creators are increasingly tapping into food-centric content - and brands are following]

Kimeko McCoy and Julian Cannon(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)