記事作成時点では世界中で歴史的なインフレが加速しており、その要因には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックやロシアのウクライナ侵攻など、さまざまなものが挙げられています。ところが、シンクタンクのIPPRとCommon Wealthが共同で行った調査ではこれらの要因に加えて、暴利をむさぼる大企業の「グリードフレーション」と呼ばれる値上げがインフレに大きく影響していることが示されました。

Inflation, profits and market power: Towards a new research and policy agenda | IPPR

https://www.ippr.org/research/publications/inflation-profits-and-market-power



Inflation, Profits and Market Power: Towards a New Research and Policy Agenda | Report | Common Wealth

https://www.common-wealth.org/publications/inflation-profits-and-market-power

Greedflation: corporate profiteering ‘significantly’ boosted global prices, study shows | Inflation | The Guardian

https://www.theguardian.com/business/2023/dec/07/greedflation-corporate-profiteering-boosted-global-prices-study

パンデミックから世界経済が立ち直るにつれてインフレ率が劇的に上昇しており、ヨーロッパやアメリカでは9〜11%という1970年代以来の水準に達しています。これはパンデミックに伴う供給のボトルネックや、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらしたエネルギー危機などが原因だと指摘されており、確かにこれらはインフレの引き金になっていました。しかし、見落とされがちな観点として、「企業が利益をむさぼるために値上げをしている」という側面が挙げられます。

IPPRとCommon Wealthの報告書によると、イギリスの上場企業では事業利益が30%も上昇しており、それは市場支配力を持つわずか11%の大企業によって主導されているとのこと。企業の利益増加は、経済の大部分が少数の大企業によって支配される傾向が強いアメリカではさらに大きかったそうです。

大企業が利益を追求するため、インフレによるコスト増加分を超えて値上げを行う行為は「グリードフレーション」と呼ばれます。競争が激しい市場であれば、値上げが消費者離れに直結するため企業も二の足を踏みますが、すでに強い市場支配力を持っている企業ならば値上げしても消費者が離れにくいため、利益を追求して値上げしやすいというわけです。

イギリスの日刊紙であるThe Guardianは、「このような利益の急増は、賃上げがインフレ率にほとんど追いつかず、労働者の可処分所得が第二次世界大戦後最大の減少に見舞われる中で起こりました」と述べ、グリードフレーションは人々の生活を苦しめる原因のひとつになっていると指摘しています。



研究チームによると、テクノロジーや電気通信、金融、エネルギー、鉱業、食品といった分野の企業で特にグリードフレーションがみられたとのこと。報告書では、「エネルギーと食料の価格は経済全体のあらゆる部門のコストに大きく影響するため、これが最初の価格上昇を悪化させました。その結果、インフレのピークがより高くなり、企業の市場支配力が弱かった場合よりもインフレが長引くこととなりました」と述べられています。

パンデミック前の平均と比較して、パンデミック後の利益が最も多くなっていた企業の一例が以下。

エクソンモービル(エネルギー業):150億ポンド→530億ポンド(2兆7000億円→9兆6000億円)

シェル(エネルギー業):160億ポンド→440億ポンド(2兆9000億円→7兆9500億円)

グレンコア(鉱山・商品取引業):19億ポンド→148億ポンド(3400億円→2兆7000億円)

アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(穀物メジャー):14億ポンド→31億6000万ポンド(2500億円→5700億円)

クラフト・ハインツ(食品加工メーカー):2億6500万ポンド→18億ポンド(480億円→3300億円)

これらの大企業は、高い市場支配力とグローバル市場のダイナミクスの組み合わせにより、利益率を維持または増加させ、大幅な超過利益を生み出すことに成功したと研究チームは指摘。「これは世界経済に重大な損害を与えました。企業の市場支配力が強まっていなければ、世界のGDP(国内総生産)は現在より8%高かった可能性があります。大企業の支配力が弱かった世界と比較して、現実の世界は労働者所得が著しく低下し、経済のダイナミズムは弱まり、消費者の選択肢は乏しく、製品の質は低下し、経済的チャンスは減少しています」と述べました。