【西田宗千佳連載】Mac「Mシリーズ」チップの成功をWindowsで再現したいクアルコム
Vol.133-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはクアルコムの新CPU「Snapdragon X Elite」。ARMコアプロセッサーのこれまでを解説する。
今月の注目アイテム
クアルコム
Snapdragon X Elite
現在、スマホやタブレットのほとんどはARM系アーキテクチャを使ったプロセッサーで動いている。
一方、PCに類するものはほとんどがx86系のアーキテクチャであり、ARM系はMacくらいのものだ。ただ、Macが独自のARM系プロセッサーで動いているように、PCをARM系で作ることは難しくないし、いくつも製品はある。たとえばマイクロソフトは「Surface Pro」シリーズで、x86版とARM版をそれぞれ販売している。
現時点において、プロセッサーが採用するCPUアーキテクチャの種類はそこまで大きな問題にはならなくなった。
WindowsにしろmacOSにしろ、CPUの違いを読み替える「トランスコード」技術を搭載している。過去には動作速度や互換性に大きな問題があった時期もあるが、現在は大幅に改善し、「x86向けのソフトをARMで使う」デメリットは減っている。
またソフト開発環境の改善で、x86とARMの両方に対応したアプリを作るのが簡単になってきてもいる。すべてのソフトが両方で提供される状況にはなく、特にWindows版はまだまだx86向けが基本であるものの、Macは急速にAppleシリコン=ARM向けのアプリが増えている。
Macは2020年にARMベースの「Appleシリコン」に移行した。Macの場合「アップルがそうすると決めた」ならMacを使い続ける限り移行せざるを得ないのだが、多くのユーザーが前向きに移行しているのは、Appleシリコンを使ったMacが、それまでのインテル版Macよりも性能・消費電力の両面で良い製品になっているからだ。ソフト開発者もAppleシリコンへの移行に積極的だ。
一方、Windowsではそうした現象は起きていない。理由は、ARMコアのプロセッサーを採用するPCメーカーがまだ少ないせいである。
クアルコムは以前からPC用のARMコアプロセッサーを提供してきたが、簡単に言えばコストパフォーマンスが悪かった。どうしても性能はx86版に劣っていて、パーツ供給量が少ないために価格も高め。さらにはほとんどのモデルが差別化のために携帯電話ネットワークへの接続機能を持っているため、そのぶんさらに高価になる。そうすると、一般的なPCを選ぶ人はx86以外を選ばない……という結果になる。
そこでクアルコムは、新しい「Oryon」アーキテクチャを使った「Snapdragon X Elite」を発表した。このプロセッサーは過去の同社製PC向けプロセッサーから性能を大幅に引き上げ、Appleシリコンと同等以上にした……とされている。
Snapdragon X Elite搭載のPCは2024年後半に発売と想定されており、価格・性能などの詳細は不明だ。ただ、少なくとも性能上のリスクは減った。ゲーム向けには当面x86の方が有利だが、ビジネス向けならば性能の問題は出ないと考えられる。結局価格が見えてこないことにはなんとも言えないのだが、Macで起きた変化がWindowsでも再現される可能性は出てきた。
では、x86系のプロセッサーはどうなっているのか? そのあたりは次回解説していく。
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