健康的な頭脳と肉体を手に入れるには、どんな食生活が理想的なのか。サイエンスライターの鈴木祐さんは「原始人や狩猟採集民のライフスタイルに学ぶ『パレオダイエット』の考え方が参考になる。『これって原始人が食べていたかな?』と考えながら食材を選ぶといい」という――。(第2回/全2回)

※本稿は鈴木祐『新装版 一生リバウンドしないパレオダイエットの教科書』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

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■健康的に痩せるには栄養を摂らないといけない

前稿で紹介したとおり加工食品を減らすだけでも食欲は落ち、私たちの体は自然とベストな体重に落ち着いていきます。

が、それだけでは、まだ「一生モノのダイエット法」とは呼べません。

くり返しになりますが、本書の目標は、死ぬまで健康的な頭脳と肉体をキープし続けることです。いかに痩せたからといっても、ずっと疲れがとれなかったり、どこか体調が悪い状態が続いたり、実際の年齢よりも老けて見えたりしては意味がありません。狩猟採集民のように引き締まった体を保ちつつ、現代病とは無縁にイキイキと毎日の仕事をこなしていけるようになってこそ、わざわざライフスタイルを改善する意味があるというものでしょう。

そのためには、本当に体にいい食品だけを選び、たっぷり栄養をとっていかねばなりません。できるだけ人間にとって自然なものを食べ、私たちの肉体を野生の状態にもどしていくのです。

実際、多くの狩猟採集民たちは、先進国とくらべてハンパではない量の栄養をとっています。

■狩猟採集民の栄養摂取量は先進国の20倍

1930年代、アメリカの歯科医だったウェストン・プライス博士は、「なぜ現代人はこんなに不健康なのだろう?」という疑問を抱き、世界各地の伝統食を調べる旅に出発。その成果を『食生活と身体の退化』という本に残しました(※1)。

本書のデータから、狩猟採集民たちが日常的に摂取している栄養素の量をまとめたのが図表1です。なんと、先進国に比べてビタミンが10倍、ミネラルは20倍!

もちろん、これは1930年代の西洋の食事との比較なので、現代ではもうちょっと差が縮まっているかもしれませんが、それでも狩猟採集民が大量の栄養素を摂っているのは間違いなさそうです。

この差を埋めていくには、加工食品を減らすだけでは不十分。積極的に体にいい食品をチョイスしていくしかありません。

図版=『新装版 一生リバウンドしないパレオダイエットの教科書』より

※1 ウェストン・A・プライス『食生活と身体の退化─先住民の伝統食と近代食その身体への驚くべき影響』

■パレオダイエットの食材選び

ひとくちに「体にいい食品」と言っても、範囲が広くてワケがわからないでしょう。そこで役に立つのが、やはりパレオダイエットの考え方です。

前稿でも述べたように、パレオダイエットは原始人や狩猟採集民のライフスタイルに学ぶ健康法。その根底には、「人類が長年にわたって食べてきたものほど体にいいはずだ」という考え方があります。

ご存じのように、すべての生き物は、その時々の環境にうまく適応しながら進化してきました。となれば、古代から長く食べ続けられてきた食品ほど、私たちの体にとって自然であるのは間違いありません。

つまり本当に体にいい食品を選ぶコツとは、

・「これって原始人も食べていたか?」と想像してみる

これだけです。原始人がファストフードや砂糖、缶詰などを食べている姿はイメージできませんよね? もしうまく想像できないならば、それはパレオダイエットではNG食品です。

ただし、この基準だと、白米や牛乳までNGになってしまうため、やや厳しすぎると感じる方もいるかもしれません。その場合は、

・いま100才のお婆ちゃんが、10代のころに食べていたか?

と考えてみてください。もし100才のお婆ちゃんが若いころに食べていた様子が想像できないなら、それはパレオダイエットではNG食品。この基準に従うと、たとえば全乳で作った牛乳はOKだけど、低脂肪に加工された牛乳はNGになります。

もちろん、現代の食品がすべて体に悪いわけではありませんが、基本的には古代に存在したものほど「体に良い食品」だと判断するのがわかりやすいでしょう。

個人差はありますが、パレオダイエットの食事法を続ければ、たいていは1カ月でハッキリと肉体と心に変化が出てきます。「なんだかダルい」や「なぜか元気がわかない」といった不調が、あきらかに消えていくのです。私の場合でも、パレオ式の食事を始めてから1カ月ぐらいでメキメキと気分が良くなり、3カ月で仕事の生産性や集中力にも変化が出ました。ぜひ、まずは1カ月だけ続けてみてください。

■毎日いっぱい食べたい食材のベスト番付

パレオダイエットの食事法はとてもシンプル。「加工食品を減らし、本当に体にいい食品をたっぷり食べる」。これがすべてです。

おおまかな「体にいい食品」の見分け方がわかったところで、パレオダイエットでオススメの食材について、さらにくわしく見ていきましょう。

ここでは、タンパク質、脂肪、糖質の順番に、それぞれのベスト食材を紹介していきます。いずれも上位の食材ほど体にいいので、ガンガン毎日の食事に取り入れていってください。

■食後の満腹感を高める「タンパク質」のベスト番付

まずは、タンパク質が豊富な食材のベストから。タンパク質は食後の満腹感を高める効果が大きく、ダイエットに役立つのはもちろん、毎日を気分よく暮らすためにも必須の栄養素です(※2)。

摂取量は一日の総摂取カロリーの15〜35%あたりが目安。たいていの人は20%以上を目指せば十分でしょう。すぐれたタンパク源は以下のとおりです。

横綱……………天然魚、貝類
大関……………牧草など自然に近い環境で育った牛、羊、ヤギなどの反芻動物の肉
関脇……………地鶏、放牧で育った豚
小結……………卵、養殖魚
前頭筆頭………穀物で育った牛、羊、ヤギなどの反芻動物の肉
前頭二枚目……穀物で育った豚、全乳
前頭三枚目……ブロイラーの鶏肉
幕下……………加工肉

以上のランキングは、タンパク質の量はもちろん、脂肪酸のバランス(オメガ3とオメガ6)、有害金属や飼料などの安全性をベース評価にしています。

まず、もっともすぐれているのは魚介類。魚にふくまれるオメガ3脂肪酸には、細胞の炎症をふせぎ、体を若返らせる働きがあります(※3)。サーモン、サバ、イワシ、ニシンなどの脂肪分が多い魚を、週に100〜200gを目安に食べてください。

近ごろは魚の油を使ったサプリも多く売られていますが、基本的にオメガ3は酸化ダメージを受けやすい性質を持っているため、品質が悪いものを飲むと逆に寿命が縮む可能性もあります(※4)。オメガ3は、必ず魚から摂るようにしましょう。

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次に大事なのがお肉。牛、豚、鶏、羊など、動物の肉なら何でもOKです。

できれば放牧やケージフリーで育てられた良質な肉を選びたいですが、あまり神経質になるのもよくないので、スーパーで手に入る食肉で構いません。

ただし、ソーセージやハムなどの加工肉はNG。WHOが2015年に行ったメタ分析でも、加工肉で発がんリスクが高まることが確認されています(※5)。

また、卵もビタミンDやタンパク質が豊富な優良食品です。特に近年の実験では、一日に1個以上の卵で体の炎症が減ることがあきらかになり、アンチエイジングフードとしても見直されつつあります(※6)。

卵というとコレステロールが気になる方もいるでしょうが、ご安心ください。ここ数年のデータにより、一日に4個の卵を食べても血中コレステロールには影響がないとの結論が出ています(※7)。

以上の食材は、横綱から関脇クラスだけを食べるのが理想ですが、それでは食費がかかってしまうので、小結から前頭筆頭までのタンパク源をメインにしていきましょう。前頭二枚目から下は、たまに食べるぐらいにしてください。幕下の加工肉については、全体の1割以下に抑えましょう。

※2 Leidy HJ. “Increased dietary protein as a dietary strategy to prevent and/ or treat Obesity.”(2014)
※3 Rangel-Huerta OD, et al. “Omega-3 long-chain polyunsaturated fatty acids supplementation on inflammatory biomakers: a systematic review of randomised clinical trials.”(2012)
※4 Rizos EC, et al. “Association between omega-3 fatty acid supplementation and risk of major cardiovascular disease events: a systematic review and meta-analysis.”(2012)
※5 The International Agency for Research on Cancer “IARC Monographs evaluate consumption of red meat and processed meat”(2015)
※6 Jia Wang, et al. “Cholesterol Supplement can Alleviate the Severity of Pulmonary Infection of Patients with Hypocholesterolemia”(2016)
※7 Djoussé L, et al. “Dietary cholesterol and coronary artery disease: a systematic review.”(2009)

■ホルモンの材料になる「油」のベスト番付

ダイエットの世界ではとかく油や脂肪は嫌われがち。しかし、脂質は体内でホルモンの材料になるため、制限しすぎると体に害が出てしまいます。必ず適切な量を摂るようにしてください。

脂質の摂取量は、一日の総摂取カロリーの20〜50%あたりが目安。すぐれた脂肪は以下のとおりです。

横綱……………ココナツオイル、MCTオイル、パーム核油
大関……………放牧牛の牛脂、オーガニックバター、ギー
関脇……………マカダミアナッツオイル、エキストラヴァージンオリーブオイル
小結……………アボカドオイル、亜麻仁油
前頭筆頭………アーモンドペースト、カシューバター
前頭二枚目……放牧豚のラード、牛脂、バター
前頭三枚目……クルミ油、鶏油
幕下……………キャノーラ油、サフラワー油、大豆油、コーン油

以上のランキングは、体に炎症を起こすオメガ6の量が少ない順に並べています。基本的には小結クラスまでの油を使うのが理想で、なかでも横綱クラスの油には体の炎症を抑える作用もあるため、ぜひ積極的に料理に使ってください。ただし、亜麻仁油は熱で酸化しやすいので、これだけは生野菜のドレッシング用に使いましょう。

写真=iStock.com/Zheka-Boss
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注意してほしいのは、ここで紹介した油は、あくまでも料理用にだけ使ってほしいことです。良質な魚や卵などをちゃんと食べていれば、体に必要な量の脂質は十分に補給できるため、追加でわざわざ油を飲むような意味はありません。

近ごろは「ココナツオイルやMCTオイルを飲む」といったダイエット法もありますが、科学的な根拠はゼロです。2015年に出たメタ解析でも、ココナツオイルやMCTオイルを飲んでも痩せるわけではないとの結論が出ています(※8)。同様に、近年では「バターを入れたコーヒーを飲む」といったダイエット法もありますが、これも科学的な根拠はありません。

※8 Mumme K, et al. “Effects of medium-chain triglycerides on weight loss and body composition: a meta-analysis of randomized controlled trials.”(2014)

■大事なエネルギー源「炭水化物」のベスト番付

糖質制限ダイエットの世界では炭水化物は嫌われものですが、人間の体が正常に機能するためには、絶対に糖質は必要です。

実際、これまでに行われた狩猟採集民の調査データを見ても、糖質が総カロリーの2割を下回る民族は存在しません(※9)。肉食が中心のイヌイット族ですら、アザラシの肝などからちゃんと糖質を摂取しています(※10)。

逆に糖質の量が7割以上を占める狩猟採集民も多く、例えばパプアニューギニアのキタバ族は総カロリーの72%が炭水化物ですし、ツキセンタ族にいたっては、なんと総カロリーの95%を炭水化物から摂っています(※11)。炭水化物は、人間にとってごく自然な栄養素なのです。すぐれた炭水化物は、以下のとおりです。

横綱……………すべての葉物野菜
大関……………サツマイモ、じゃがいも、サトイモ、長芋、カボチャ
関脇……………ニンジン、タマネギ、レンコン、ニンニクなどの高糖質な野菜
小結……………ベリー類など、フルーツ全般
前頭筆頭………全粒粉のパンやパスタなど、玄米、ココナツ、白米
前頭二枚目……そば、クルミ、マカダミアナッツ、ライ麦、キヌア、豆類
前頭三枚目……アーモンド、カシューナッツ、種子類、うどん
幕下……………菓子類、市販のパン、スナック類

以上の食品は、総カロリーに対するビタミンとミネラルの割合が多く、食物繊維が豊富なものほど上位にランクインしています。

鈴木祐『新装版 一生リバウンドしないパレオダイエットの教科書』(扶桑社)

第一に、パレオダイエットでもっとも大事なのが野菜です。ほうれん草、ブロッコリー、キャベツ、ネギ、レタス、アスパラ、キノコ、カブ、キュウリなど、とにかく野菜なら何でもOKなので、カロリーを気にせずガンガン食べましょう。

続いて、根菜類も大事な糖質源のひとつ。糖質制限ダイエットでは嫌われがちですが、パレオダイエットでは積極的にイモや根菜類をおすすめしています。

サツマイモ、ジャガイモ、タロイモ、ニンジンなど、いずれもビタミンや栄養素が豊富な優良食品です。カロリーは高いですが、怖がらずに食べてください。

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そして、3番目に大事なのがフルーツです。食物繊維とポリフェノールが豊富で、2009年にデンマーク工科大学が行ったメタ分析でも、フルーツの消費量が多い人ほど肥満が少ないという傾向が出ています。カロリーオーバーにならない限りは、何の問題もありません。

いっぽうで、前頭クラスの食品は全体の3割以下に抑えたほうがいいでしょう。特にナッツ類や種子類は脂肪分が多いので、さらに減らしたほうがベター。それより下にランクした糖質源は、できれば完全に食卓から取り除いてください。

※9 Kuipers RS, et al. “Estimated macronutrient and fatty acid intakes from an East African Paleolithic diet.”(2010)
※10 Y. H. Hui “Principles and Issues in Nutrition”(1985)
※11 Sinnett PF, et al. “Epidemiological studies in a total highland population, Tukisenta, New Guinea. Cardiovascular disease and relevant clinical, electrocardiographic, radiological and biochemical findings.”(1973)

■食事の7〜8割を体にいい食品にしてみよう

狩猟採集民の調査データを見ると、多くの民族は総カロリーの20〜40%のあいだで糖質をとっているようです。まずはこのラインを目指して摂取するのが無難でしょう。

ただし、先にも述べたとおり、糖質そのものが体に害を及ぼすわけではありません。ちゃんとした糖質源さえ選んでいれば、そこまで三大栄養素のバランスに関しては神経質にならなくてもOKです。まずは1カ月でいいので、ぜひ全体の食事の7〜8割を体にいい食品にしてみてください。

図版=『新装版 一生リバウンドしないパレオダイエットの教科書』より

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鈴木 祐(すずき・ゆう)
サイエンスライター
1976年生まれ。慶応義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、現在はヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。
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(サイエンスライター 鈴木 祐)