データ分析、どう使いこなせばよいのでしょうか(写真: たっきー/PIXTA)

SNSに蓄積されるユーザーの投稿やサイトに蓄積される数万人分のPC稼働ログ、DX(デジタルトランスフォーメーション)によりビジネスに関するデータは膨大な数に上っています。それに伴い「データ分析」の重要性も急上昇していますが、難しいイメージが先行して苦手意識を感じる人も多いかもしれません。

そこで、今回はコンサルタントとして数多くのデータ分析や可視化に従事した経験を元に『データ分析のリアル まるごとQ&A』を上梓したデータビズラボ株式会社代表取締役の永田ゆかりさんに、データ分析の初心者に必要な心構えなどについてお話を聞きました。

まずは基本的な経営指標の把握から

――これからデータ分析を始める初心者に必要なことはどのようなことでしょうか。

自社の売り上げを適切に把握することです。そんなことはすでにやっている……と思われるかもしれませんが、ミソは「適切に」の部分です。適切な時間軸で即時に把握できる状態になっているか、それをきちんと全社で共有できているか、データの前提を共有できているか。

データを正確に把握し、わかりやすく可視化し、誰もが瞬時に見ることのできるよう民主化できているか。本当に、それらが「適切に」できているでしょうか?まずは、そこを点検し、不十分な点があれば、そこから手をつけるのがお勧めです。

この点が不十分な会社さんの場合、それを改善するだけで、社内の士気が変わります。

データ分析は行動を振り返るためのきっかけなので、日時で過去の実績が出れば、現在の施策を変えようという雰囲気が生まれますね。毎日見ると、意識が変わります。

今はデータ分析のためのさまざまなツールがあるので、「一気に問題が解決するツールはどれか」というような視点を持ってしまいがちですが、大きいインパクトを生むのに高度なことは必ずしも必要ありません。

初心者は手始めに、売上アップもしくはコスト削減にダイレクトに影響を与えるテーマから分析し始めるとよいと思います。


データ可視化の事例(出典:Salesforce公式ホームページより)

売り上げの推移や地域ごとの売上比較、顧客の行動パターンの分析、その2つの相関関係をダッシュボードや可視化ツールを使用してデータを見える化する。それだけでビジネスの現状把握や機会の発見が可能です。

現場の課題を本人が認識していないことも

――その次のステップはどのようなものなのでしょうか。

例えば、われわれで支援しているのは、「(解くに値する)分析問題を設定する」ということです。

現場の課題や現場のノウハウなどは、その場にいる本人も認識していないことが多いです。ですので、組織の各部署とコミュニケーションや業務を観察し、現場で使える問題設定を支援しています。


永田ゆかりさん(撮影:鈴木愛子)

主役は現場なので、われわれはあくまでサブ的な立ち回りではありますが、各部署とコラボレーションし、よい分析問題を発見することを促進します。

現場に浸透できそうなよいデータ分析や可視化ができたら、その後はその仕組み化や自動化を考え、データ分析基盤などの構築やプラットフォーム化を図ります。使える仕組みづくりですね。

――データ分析が必要とされるのはどのようなシーンなのでしょうか。

データ分析と”親和性が高い”シーンがあります。一方、データ分析と親和性が低いシーンもあります。

データ分析と親和性が高い局面はいろいろありますが、主要なものを2つ挙げるとすると、資金規模・取引単位が大きい事業と収集されるデータが原始的な形態のまま存在する状態が典型的かもしれません。

前者は、例えば広告、放送・メディア、医療、金融、小売、製造などの大規模企業や組織の事業が挙げられます。そして、後者は、センサーからの生データ、コンピューターシステムやアプリケーションが生成するログデータなどです。

一方、取引単位が小さな事業ではそもそもデータ分析のコストパフォーマンスが見合わなくなってしまいます。また、平均値や割合のみで提供され、元の個々のデータポイントがない統計データなど、多くの人の手に触れられ加工されたデータは、技術的によい洞察を導くのが難しくなります。

データ分析のプロセス

――データ分析のプロセスについてお聞かせください。

以下の流れです。

1. 解くべき課題を発見・特定する

2. 解く・実装する

3. 現場に浸透させる

そのプロセスで、初心者が陥りがちな”KKD(勘・経験・度胸)”のみに頼る姿勢から脱却できます。

データ活用やDXの文脈では、「KKDからの脱却」を掲げる企業は多いです。しかし、私見では、KKDは非常に大切なものであり、データとKKDの融合をして課題を解決すべきと考えています。

そして、現状はKKDで問題のない局面や業務もあり、わざわざデータ分析で課題解決をしなくてもよい(データ分析との親和性がそこまで高くない)ものもあります。ポイントは、データとKKD、どちらも使って合理的な判断を導くということだと思います。KKDにも限界があるように、データにも限界があります。

――データ活用に成功する組織はどのような特徴があるかお聞かせください。

経営陣や上級管理職のデータ活用に対するリーダーシップ、コミットメントがあることです。これらがある企業はほぼうまくいっていると思います。なぜこれらが重要かというと、データ活用のための経済的・人的リソースの確保が容易となるためです。

また、多様なスキルセットを持つチームメンバーが、プロジェクト組成時にいること、もしくはプロジェクトリーダーがその重要性を理解していることも実務的な観点からは重要です。

データ分析を含むデータ活用プロジェクトは、さまざまなスキルセットを必要とします。具体例としては、データサイエンス、ビジネスインテリジェンス、統計、データエンジニアリング、IT、プロジェクトマネジメントなどが挙げられますが、その内容は本当にさまざまです。

失敗パターンの事例

――逆に、失敗パターンはどのようなものがありますか。

データのプロジェクトがうまくいかない原因は1つではなく、さまざまな問題が組み合わさっていることがほとんどです。

1つは、ツールやソリューションを導入して終わってしまう、という状態です。ツールやソリューションは生産性を高める武器になりますが、データ分析プロセスの一部にすぎず、それだけでは成功しないことがあります。

また、ツールを過信しすぎると、それを使いこなすためのスキルや戦略などが欠如していることに気づけなかったり、解くべき問いに対して必要なデータ品質を無視していることもあります。


永田ゆかりさん(撮影:鈴木愛子)

現時点で手元に存在するデータだけで無理に1回限りの分析を行って終了してしまい、改善しないということもよくある失敗パターンだと思います。

そして、キャンペーンの効果検証やマーケティングの分析、アンケートの可視化しかり、1回限りの分析・可視化は表面的な洞察しか提供しないことが多いです。

初回の分析や可視化ではデータの課題が明らかになることが多いですが、それらを解決せずに次に進んでいるケースも見受けられます。改善するためにコストがかかるのでそのままにしていると、将来のツケとなります。

――専門家に依頼することのメリットはどのようなものなのでしょうか。

専門家へ依頼すると、アウトプットを出すまでのリードタイムが劇的に短縮されること、複雑な問題の解決、そして新しい視点の提供の価値があるかと思います。

もちろん、社内人材の育成のために、研修やデータ準備、市場調査の講座実施などをするケースもあります。専門家の力を借りることにより、無駄のない人材育成が可能となります。

データ分析の未来とあるべき姿


――データ分析の今後についてお聞かせください。

自動化と高度な分析がますます重要になってくるのではないでしょうか。その意味では、ChatGPTなど、AIを取り入れることが重要になってくると思います。現在リリースされているChatGPT4でも、データ分析のかなりの部分ができるようになっています。

また、リアルタイム性がより価値を持つようになるでしょう。テクノロジーの進化により、廉価に鮮度の高いデータが収集しやすくなっているためです。

そして、データガバナンスの強化・整備も極めて重要なポイントになります。データ品質、セキュリティーなどの枠組みの整備が必要とされるでしょう。

――データ分析のあるべき姿についてお聞かせください。

何よりも、現場とデータを扱う人間のコラボレーションが重要だと思います。異なるスキルを持つメンバーが協力し合い、組織全体でのデータ活用を推進することが重要です。

また、データのプロジェクトは山あり谷ありであり、泥臭いことの連続です。それを支えるのは情熱・パッションです。なので、プロジェクト開始時に情熱・パッションを持つメンバーを集めることが何よりも大切なことですね。

永田ゆかりさん プロフィール
データビズラボ株式会社代表取締役。
早稲田大学政治経済学部卒業後、アクセンチュア、楽天、KPMGを経て、データ専門のコンサルティングファーム、データビズラボを起業。国内大手企業に対しデータ分析・可視化、データマネジメント、データガバナンスなどのコンサルティングを提供している。内閣府日本学術会議総合工学委員会委員。認定スクラムマスター。株式会社アドベンチャー、株式会社エフオン社外取締役。著書に『データ視覚化のデザイン』(SBクリエイティブ)、『データ分析のリアル まるごとQ&A』)(日経BP 日本経済新聞出版)がある。

(熊野 雅恵 : ライター、行政書士)