日下アナ(左)と真田将太朗さん

 2023年10月24日、JR長野駅新幹線改札内の待ち合わせ入口上部に、東京藝術大学4年生の真田将太朗さんの常設作品が設置されました。

 現在、JR東日本では『Beyond Station構想』と題した「駅を “つながる” 暮らしのプラットフォームに転換しよう」というプロジェクトを推進しています。その土地にゆかりのある若手アーティストの起用も、その活動の一環です。

 真田さんは、真田一族(真田信繁、幸村)の末裔です。大学生でありながら、企業からのオファーが絶えず、この1年で約80点の作品を制作したそうです。

 兵庫県西宮市出身。東京藝術大学美術学部芸術学科美学専攻の4年生で、風景を極度に抽象化する大型絵画を制作するかたわら、人工知能を用いた美学の研究を実践されています。初個展では、ギャラリー史上最多来場者数を記録。「Google Japan × Z世代アーティスト」第1弾アーティストにも選ばれました。

――いつから画家を目指すようになったのですか?

「高校3年生の12月、京都大学の特色入試受験のため、自己推薦文を書いていたときです。美術史か文化史を専攻するつもりで書いていたのですが、書きながら何か違うなという違和感が出てきたのです。

 幼稚園の頃から画家になりたいと思っていたのを思い出しました。0才の頃からずっと絵を描いていました。コピー用紙と鉛筆を渡せば、ずっと絵を描いている赤ちゃんだったのです。

 近所に油絵を趣味にしている方がいたので、小学校のときには油絵を習い始めました。そして、遠足や文化祭など、学校行事のしおりの表紙絵は、いつも私が担当するようになりました。

 自己推薦文を書きながら迷った結果、絵を続けながら美術史を学ぶために進路変更し、1年浪人して東京藝術大学に入学しました」

――まだ学生でいらっしゃいますが、プロになったきっかけは?

「きっかけはSNSです。2020年4月に大学に入学したのですが、ちょうどコロナ禍になり始め、合格発表も入学式もオンラインになってしまったのです。

 イベントもすべて中止で、初めて大学の門をくぐったのは、10月に入ってからでした。1人で家にこもって作品を作り、教授に送るという、浪人時代と変わらない生活をしていました。

 そこで、SNSに作品をアップし始めたのです。2年生の終わりには、作品が売れるようになり、3年生の5月には初の個展を開くことができました。小さなギャラリーでしたが、6日間で約600人が来場し、作品は完売しました。

 今年2月に2度めの個展を開いたら一気にブーストし、企業からたくさんのオファーをいただくようになりました」

――今年の夏には、千葉で巨大な作品を作られていましたね。

「千葉のキャンプ場からの依頼で、縦4m横17mの壁画を制作しました。2週間の泊まり込みで完成させました。炎天下での作業は厳しいものがありました(笑)」

――10月に公開された長野駅構内の絵は、どのような作品ですか?

「JR長野駅の善光寺口正面玄関には12本の大きな柱が立っています。地元のランドマークにもなっているので、その柱をイメージして制作しました。

 1枚に1本ずつの柱を描き、12枚を合わせて横10mの作品を作りました。プレオープンの10月22日には、除幕式も盛大に開いていただき、長野市の荻原健司市長や長野県立美術館の館長も出席されました」

――これから手がけるのはどのような作品ですか?

「オフィスビルのロビー大壁画やスキーの国際大会で使用されるヘルメットのデザインなどを予定しております」

――お忙しいですね。学校との両立は大変ではないですか?

「いえ、好きなことをやっているので楽しいです。まったく苦労とは感じません」

――作品の構想はどんなときに浮かびますか?

「よくインスピレーションが降ってきてというアーティストもいますが、私の場合、冷静な視点で組み立てないと描けないので、散歩をしながらスケッチをしたり、写真を撮ったりして構想します。

 また、2021年に学園祭の実行委員長を引き受けてから、音楽など他のジャンルの学生と知り合い、創作活動の刺激になっています」

――作品制作以外に趣味はありますか?

「現代アーティストのギャラリーを覗くのが好きです。東京は、若手の個展が多いのでよく出かけます」

――真田家のご子孫の方々とは、交流されていますか?

「20年ほど前までは “真田六文会” という会で、交流があったようですが、世話役の方がご高齢になり、今は開催されていません。私は生まれて間もない頃なので、残念ながら一度も参加したことがないのです」

――六文会という名前は家紋から来ているのですね。

「六文は、三途の川の渡し賃と言われています。武士の家では、いつ死んでも構わないという心構えがあったそうです。大河ドラマを見ていると、ゆかりの人物やエピソードが出てくるので、自分を裏打ちしてくれるアイデンティティの一つと考えています」

 特別な才能を持つ人が好きなことを仕事にすると、学生でも夢のような成功があるのですね。

■アートを楽しむための3カ条

(1)自由に感じてみよう
(2)わからないことはわからないと言ってみよう
 作品鑑賞では、わからないことは聞いたほうが理解が深まります
(3)納得するのは1年後でもいい
 そのときに理解できなくても、年齢を重ねて見えてくるものがあります

日下千帆
1968年、東京都生まれ。1991年、テレビ朝日に入社。アナウンサーとして『ANNニュース』『OH!エルくらぶ』『邦子がタッチ』など報道からバラエティまで全ジャンルの番組を担当。1997年退社し、フリーアナウンサーのほか、企業・大学の研修講師として活躍。東京タクシーセンターで外国人旅客英語接遇研修を担当するほか、supercareer.jpで個人向け講座も