【西田宗千佳連載】MRでアップルに先行する「Meta Quest 3」
Vol.132-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはMetaが発売を開始したVRデバイス「Quest 3」。アップルのVision Proとほぼ同時期に発表したMetaの思惑は何か。
Meta
Quest 3
実売価格7万4800円〜
アップルを意識してほぼ同時期に発表
Metaは10月10日から、新しいVRデバイス「Meta Quest 3」を発売した。
9月27日にMeta米国本社で行なわれた発表会にて、同社のマーク・ザッカーバーグCEOは、「いままでにないものを発表することでイノベーションを起こすこともある。だが時には、素晴らしいが超高価なものを、誰にでも手が届くように、あるいは無料で提供できるようにすることで、イノベーションを起こすこともできる」と語った。
このフレーズは、アップルの「Vision Pro」を意識してのものだ。
Quest 3は、外界の様子を本体に搭載したカメラで取り込み、そこにCGを重ねる「複合現実(MR)」技術を搭載する。
Vision ProもMRを搭載し、“空間コンピューティング”としてアピールしている。筆者はデモを体験しているが、圧倒的に高画質で、時に“装着していることを忘れる”ような体験ができる。
ただし、Vision Proは価格が3500ドル(約52万円)と非常に高価だ。多くの人がすぐに買えるものではない。
一方、Quest 3は499ドル(日本では7万4800円から)と、7分の1の価格で買える。「誰にでも手が届く」とザッカーバーグCEOが強調するのは、この安さがゆえだ。しかも、来年まで待たずともすぐ買える。
まず期待されるのはゲーム機としての成功
もちろん、価格が違うのには相応の理由がある。
MRの品質・精度では、Vision Proの方がはるかに上だ。だがそれは、高価なパーツと凝った構造という、高価な製品だからできる要素の積み重ねがあって実現できるものだ。一方Quest 3は、画像の荒さや立体感の歪みなどもあり、Vision Proほどのリアルさは実現できていない。
とは言うものの、Quest 3が実現しているMRの品質もまた“ほかの機器では体験できなかったレベル”のものであることに変わりはない。価格を抑えつつ、いままでにない体験を実現しようとしているのがQuest 3の美点だ。
差別化したのは価格だけではない。“発売タイミング”も相当気にした様子が見える。
Quest 3のウリであるMR機能だが、発売当初からすべての機能が実装済みというわけではない。30日単位で機能をアップデートしていき、デモ映像などで出てくる機能がひととおり実装されるのは2024年になってからと見られる。
その理由について同社は、「消費者の利用環境を見ながら、慎重に実装するため」としている。
一方で、商戦期の関係も大きいのは間違いない。Quest 3は「VRゲーム機」でもあるので、クリスマス商戦を外すわけにはいかないのだ。
VRを使ったゲーム機として、一定以上の成功を収めているメーカーはMetaくらいしかない。MetaのQuest向けアプリストアは20億ドル以上を売り上げており、Quest 3もMR以上に“ゲームでの成功”がまず期待されているのだ。
では、Quest 3はどう開発されたのか? 同社の過去製品とどう違うのだろうか? そうした部分は、次回以降解説していく。
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