「駐妻の“くせに”」友人の差別的な発言に、ショックを受けた渡米前の妻は…
こんにちは。東カレ編集部の安藤杏です。
今、米国ニュージャージー州(東海岸でニューヨークの隣です)で、この記事を書いています。
私は44歳、同い年の日系企業に勤める夫と9歳の娘の3人家族。ある日、突然夫の駐在が決まり、家族3人での海外暮らしが始まりました。
コンテナと航空便での慌ただしい引っ越し、アバウトな不動産業者でなかなかアメリカでの家が決まらなかった話など、駐妻となった私の日常を様々な観点から徒然に綴っていきたいと思います。
駐妻は、離婚できない!?
数ヶ月前、夫からアメリカ駐在になるかもと報告され、私が思ったことは…。
「しばらく夫とは離婚できないな」
別にこれまで離婚を考えていたわけではなく、ふと頭をよぎったのです。
実は私、10年前にも一度、夫の仕事の都合でニューヨークに2年間滞在していました。
彼の海外赴任辞令が結婚のきっかけとなったので、新婚生活はニューヨークで始まりました。
「憧れの駐妻」「長いハネムーンだね」なんてみんなに言われて、私も最初は、浮かれ気分でした。独身時代は、仕事に邁進してきたので「少し、のんびりしたい」という気持ちがあったのも本音。
“駐妻”という大義名分のもと、海外で仕事から解放される日々ってなんかいいかも、そう思ってニューヨークに渡りました。
しかし、ニューヨークに到着し2週間くらい経った頃、昼間に洗濯機を回しているときに、急に泣きたくなるほど虚しくなったのを、今でもはっきりと覚えています。
当時はまだ、現地に友人が1人もいなかったので、日常的に会話をするのは、アパートのコンシェルジュと夫のみ。早口なニューヨーカーの英語は全然聞き取れず、外に出て買い物するのもおっくうでした。
海外にいても、家にいるだけ。仕事をしていないから社会とのつながりもなく、孤独でした。
想像と違って、全然キラキラしてないじゃん…。現実に愕然としました。
◆
そもそも駐妻は、「夫ありき」のポジション、夫に付随しているものという認識が強いんです。
アメリカ滞在ビザは「帯同ビザ」ですし、車の免許を取るのにも、“夫の妻”である証明が必要で「夫の付き添い」や「婚姻証明書」が必要だったりします(州や試験場によります)。
とにかく、なんでもかんでも「夫ありき」なので、はっきり言って「駐妻」は夫の黒子なのです。夫がいないと存在できない。
ここで冒頭の離婚話に戻りますが…。
離婚したら、ビザの種類を変更しない限り、アメリカに滞在することもできなくなる可能性があり、実際、離婚するかしないか、ではなく「離婚のハードルがかなり高い」というのは、意外と精神的な自由を奪われるのです。
そんなこんなで、2度目の駐在では、絶対に仕事を続け、自分の世界を持った上でついていこうと決意したわけです。
アメリカの地下鉄で驚いた、稼ぐ技術
ニューヨークの地下鉄には、色んな人がいます。
プロ並みに上手なジャズやクラシックを駅のホームで奏でる人。
地下鉄に乗ってきたと思ったら、音楽をガンガンにかけて、つり革や手すりを使って、アクロバティックなダンスを披露する若者。
そして、ホームレスの人たちも乗ってきます。
ホームレスのなかには、地下鉄で流暢にスピーチをして、寄付を募る人もいます。
この積極的に寄付を募るホームレスに、私はとても衝撃を受けました。
「僕は、◯◯生まれで、◯◯の仕事をしていましたが、この間のハリケーンで家を失いました。妻や子どももいて、今大変な生活をしている。みなさん寄付をしてください」
1駅分の区間3分ほどで、生い立ちから現況まで起承転結のある泣けるスピーチをするのです。
そして人によっては、1回のスピーチ(3分)で、10ドルほど稼ぎます(稼ぎという言葉が正しいのかわかりませんが…)。
時給に換算すると、まぁまぁ良い稼ぎ?なんて思ってしまいました。
本当にホームレスなのかも、話が真実なのかもわかりませんが、とにかくバイタリティーがある。
彼らの姿を見ていたら、心の中の奥のほうがウズウズしてきて、居ても立ってもいられなくなったのです。
“駐妻”というぬるま湯的なポジションに収まるのではなく、“駐妻だから”となにか諦めるのでもなく、今できることから「何かやってみよう」とその時決意しました。
「夫ありき」のポジションに打ちのめされていた私が、ニューヨークの自由なエネルギーに励まされたのです。
そこから紆余曲折ありながらも、私は、語学学校に通い、いずれくるときのために労働許可証(EAD)の申請をしました(以前はEADが必要でしたが、最近は労働許可証がなくても、駐妻でも働けるようになりました)。
その後、なんとラッキーにも、アルバイトですがニューヨークで仕事を見つけることができたのです。
しかし、現地に適応し、自分の気持ちが変化するとともに、気になるのが日本に住んでいる人たちの目でした。
駐妻のくせに何やってるの?
「駐妻のくせに、YouTubeとかで現地の生活あげている人いるんだよねー」
これは、今回渡米する前、友人たちと集まったときに、ある男性が発した言葉です。
悪気はまったくなかったと思いますが、私は「駐妻のくせに」という言葉にひっかかりました。
この言葉には、おそらく続きがあります。
「杏ちゃんは、まさかそんなことをしないよね?駐妻の立場わきまえているよね?」
彼は、世界各国を飛び回っているビジネスマンですが、そんな人でもこのセリフを吐くことに少しショックを受けました。
駐妻は、何か目立つことをすると、すぐに叩かれるのかもしれません。
もちろん、夫の会社に迷惑をかけるようなことはできないけれど…。
駐妻は、YouTubeをあげてはいけないの?
駐妻は、インフルエンサーになってはいけないの?
駐妻は、目立っちゃいけないの?
様々な疑問が湧いてきました。
私は、素敵な駐妻たちをたくさん知っています。
日本でのキャリアを中断し、家族で一緒に生活することを決断した。でも海外にいるチャンスを生かしたい。そう悩みつつも、さらなる飛躍を遂げるため頑張っている女性たち。
人によって、英語力を磨いて資格を取って仕事を見つけたり、料理やフラワーアレンジメントなどの教室を開いたり、駐妻向けお役立ちサイトを立ち上げたり、インフルエンサーをしたりしている人もいます。
駐妻の宿命ですが、せっかく生活に慣れたとしても、いつどこに転勤になるのかわかりません。だから、世界中どこにいても通用する能力を身に付けようと必死になるのです。
ある意味、今の時代に適した最先端の生き方を模索している人とも言えるのかもしれません。
「駐妻のくせに、何やってるの?」
この言葉は、自分の道を模索している彼女たちを簡単に一刀両断できます。
でも、今回ニュージャージーに住み始め、周囲にいるパワフルな駐妻の方たちを見ていると、その言葉は褒め言葉なのかもしれないと思い始めました。
「駐妻ってすごいじゃん」と、私の中で置き換えられました。
◆
私の駐妻生活第2章は、スタートしたばかり。
せっかく東カレ編集部に籍を置いているのだから、見たこと、感じたことを発信し、誰かの役にたちたい。私にしか語れない、駐妻のリアルがあるはず。
その探究にお付き合いいただければと思います。
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