岡田彰布率いる阪神の優勝マジックが「5」となり、18年ぶりリーグ制覇も時間の問題となった。開幕前から下馬評の高かった阪神だが、シーズン中盤までは広島、DeNAなどと激しい上位争いを繰り広げていた。だが8月に10連勝を含む18勝7敗と勝ち越すと、そこから一気にスパート。あっという間に独走態勢となった。

 今シーズンの阪神の戦いを、辛口の批評が定番のご意見番である広岡達朗はどう見ていたのか。


18年ぶり優勝目前の阪神・岡田彰布監督

【阪神以外のチームが情けない】

「今年の阪神を見て思うのは、昨年の村上宗隆(ヤクルト)のような突出した選手がいるわけではないが、それぞれが役割を理解し、実践しているのがわかる。もともと投手陣がいいと言われていたが、先発陣の安定度はリーグナンバーワン。加えて、リリーフ陣をうまく休ませながら起用した岡田の采配は見事なもの。守備位置の固定を就任後すぐ提言し、打順もどこかの監督と違って固定していったのもよかった」

 広岡は早稲田大の後輩でもある岡田監督に、春季キャンプの時から期待を寄せていた。かつて阪神(2004〜08年)、オリックス(2010〜12年)で通算8年間指揮を執った経験もさることながら、岡田監督が掲げる守り勝つ野球の重要性を広岡も理解しているからだ。

「ほかが勝手にコケたという"漁夫の利"感は否めない。ヤクルトは2年連続リーグ優勝を果たし、選手たちに貪欲さがなかった。巨人はあれだけの戦力を持ちながらこの位置にいるのは、ビジョンのない原(辰徳)のせいだ。横浜は戦力的には整っているけど、長年の負け癖が染みついているのか、大事なところで地力が足りない。中日はもう迷走状態。広島は新井(貴浩)がよくやっているというより、ベンチのマネジメント力の成果だな。これらのなかで言えば、阪神が一番バランスよく、若い選手たちが中心になって勢いがあった」

 評論家たちのシーズン前の予想でも、阪神を1位に推す声は多かった。安定した投手力はもちろん、野手の主力メンバーも20代が多く、伸びしろを感じさせた。

「打撃に関しては、波がありすぎるのは如何ともしがたいが、その要因のひとつは5番の佐藤(輝明)だ。軸となる佐藤を打撃に専念させるためにサードに固定したが、想像以上に打てていない。4番に座る大山(悠輔)の四球の多さを見てもわかるように、後続を打つ打者に怖さがない。佐藤は二軍落ちを経験するなど荒療治を施したが、その効果はまだ現れていない。

 ただ8番の木浪(聖也)が好調で、彼が出塁して1番の近本(光司)が還す得点パターンができたのは大きい。とにかく各ポジションにライバルが設置されることで相乗効果が生まれ、適材適所で若手にもチャンスを与えている。ほかのチームを見てみろ。ヤクルトは村上(宗隆)の不調がそのまま順位に反映されているし、巨人はコロコロ打順を変えても浮上できずにいる。阪神以外のチームが情けなさすぎる」

 決して打線は好調というわけではなかったが、それでもドラフト1位ルーキーの森下翔太が一本立ちしたことは大きい。森下については、開幕スタメンを勝ちとったが、打てないと見るやすぐさま二軍に落とし、二軍で結果を残せばすぐに上げてチャンスを与えた。結局、二度のファーム落ちを経験したが、結果を出せばチャンスをもらえるということがモチベーションにつながり、夏場以降は3番としてチームに貢献した。

「若手を起用したら、最低でも10試合は使い続ける。1試合や2試合で結果など出るはずがない。選手も1、2試合で結果を出さなければというプレッシャーがかかってしまう。育成とチームの勝敗は相反すると言われているが、試合に勝ちながら選手を育てていくのが本当のプロフェッショナルな監督なんだ。そういう意味で、今年の岡田はよく我慢しながら戦った」

【ジェネレーションギャップの埋め方】

 いくらコミュニケーション能力が高くとも、指揮官の目指す野球を具体的に示し、理解されなければチームとして機能しない。ここまでの戦いを見ると、岡田監督の目指す野球が選手に浸透しているように映る。

「指揮官の思いどおりに戦うことができれば、毎年優勝できる。でも、そうはいかない。必ず想定外のことやアクシデントが起きるものだ。それをいかに最小限に食い止めることができるかで順位は決まってくる。今年の阪神にしても、キャッチャーの梅野(隆太郎)がケガで離脱しても坂本(誠志郎)がしっかりカバーし、エースの青柳(晃洋)が絶不調でも村上(頌樹)や大竹(耕太郎)が出てきて穴を埋めた。単なるラッキーではない。それは日頃から選手を観察し、自分の思いを選手に伝えているからだ」

 今年11月に66歳となる岡田監督は、12球団最年長指揮官である。それでも現代の指揮官として最も必要な要素であるコミュニケーション力が備わっていると、広岡は語る。

「岡田は選手に直接言うのではなく、コーチに進言したり、うまくマスコミを使って自分の思いを伝える。彼なりのジェネレーションギャップを埋めるやり方なんだろう」

 年齢的に言えば、ヤクルトの高津臣吾監督、広島の新井監督、中日の立浪和義監督、DeNAの三浦大輔監督のほうが選手と近いはずだ。それなのに、今季セ・リーグを独走したのは、岡田監督のそうした手腕を褒めるべきなのだろうか。

「最近の監督は選手の気質が変わったせいなのか、必要以上に気を遣いすぎている。フレンドリーにすることが選手の心をつかむことの第一歩だと勘違いしているヤツが多い。そんなのはプロの監督ではない。プロフェッショナルである以上、指揮官は威厳を持つべきである。現代の若者との距離感を縮めるために、なんでいい大人がへりくだる必要があるのか。アメとムチをうまく使い、相手が納得できるように理論立てて話していけばいいだけのことだ。

 それができないのは、勉強していない証拠。野球だけで知識を得るのではなく、あらゆる分野に目を配り、野球以外の成功者からも学ぶ。オリックスの監督をしていた頃までの岡田はまだ若かったけど、意外にも聞く耳を持っていた。他人の意見を自分なりに咀嚼し、研究していったんだろう」

 広岡は常々「人間死ぬまで勉強」と言っている。結果を出し、権威を得たから成功ではなく、日々奮闘していくなかで真理を追究する。戦いに終わりなどなく、その繰り返しが人生だという。

 伝統ある阪神が勝つことは、野球界にとっても大きな意味があると広岡は言う。選手だけでなく、指導者の年齢も若返っていくなかで、65歳の岡田監督が阪神の指揮官として就任1年目に優勝する意義は、後進の指導にも必ず役に立つはずだ。

 早ければ今週中にも阪神の決まる可能性がある。おそらく岡田監督のなかには、この先のクライマックス・シリーズ、そして日本シリーズの戦いも見据えているのだろう。