栗原恵が女子バレー日本代表を分析 課題だったミドルブロッカー陣など新戦力が躍動も「パリ五輪の予選でも活躍できるのか」
栗原恵さんインタビュー 前編
9月16日からの「パリ五輪予選(OQT)/ワールドカップバレー」を控える女子バレーボール日本代表は、今年の5月30日から約2カ月にわたって行なわれたバレーボールネーションズリーグ(VNL)で7位。同大会は若手育成の面も強かったが、パリ五輪から出場権獲得のルールが変わり、世界ランキングの重要度が増したことで各国とも"ガチ"のメンバーを揃えるようになってきている。
ネーションズリーグは7位だった女子バレー日本代表
――大会終了から少し時間が経ちましたが、あらためてVNLを振り返っていただけたらと思います。初週の名古屋ラウンドは3連勝のあと、中国にセットカウント0−3と嫌な負け方をしましたが、いかがでしたか?
栗原 名古屋ラウンドはミドルブロッカーの新戦力、荒木彩花選手、入澤まい選手がいいプレーをしましたね。共に代表デビュー戦となった1試合目のドミニカ共和国戦でも、荒木選手が12得点で入澤選手が11得点。ミドルは近年、いろんな選手を試しながらなかなか定着が難しいポジションだったので、いいスタートを切れたんじゃないかと思います。
――特に身長184cmの21歳、荒木選手の躍進が目立ちましたが、プレーの特長は?
栗原 まだ若くて今大会が代表デビューでしたが、それをまったく感じさせないほど落ちついていましたね。サイドのブロックの寄りが速く、攻撃面でもクイックにスピードがあって、かつパワーもある。要所要所で得点を決めるなどインパクトが残る選手だなと感じました。(タイラウンド2戦目のタイ戦で)足首をケガして離脱してしまいましたが、もっとプレーを見たかったです。早く復帰できるといいですね。
古賀紗理那選手や和田由紀子選手など、サイドの選手がしっかりと自分の役割を果たしたことも、ミドルの選手たちがノビノビと活躍できた理由だと思います。チームとして非常にバランスがよかった。中国戦は悔しい負け方で課題を残しましたが、その後が期待できるラウンドになったんじゃないでしょうか。
――2週目のブラジルラウンドはいかがでしたか?
栗原 ブラジルラウンドは、(名古屋ではコンディション不良でベンチ入りしなかった)石川真佑選手など、それまで出場していなかった選手が活躍しましたね。2戦目の相手の韓国はそれまで全敗でしたが、そういう追い込まれた相手にきっちりと勝ち切ることはとても大事です。
同ラウンド4戦目、フルセットで勝利したアメリカ戦は和田選手と、セッター・柴田真果選手によるライトからの攻撃が素晴らしかった。これからどんな活躍をしてくれるのかな、というワクワク感が大きくなった一戦でした。
ただ、ふたりとも相手チームにとってはデータが少ない選手だったと思うので、データが集まってきただろうなかで迎えるOQTでも活躍できるのかが気になります。相手のデータが少ない時の戦い方と、データが揃っている状態での戦い方はまったく違うので。
――柴田選手は、昨年のAVCカップにキャプテンで出場してMVPを受賞しました。ライトをよく使うセッターなのでしょうか。
栗原 いえ、「アメリカに対してはライトの攻撃が有効だ」とわかっていたんだと思います。私は現役の最後の年に、JTマーヴェラスで彼女と一緒にプレーしたんですが、データをしっかり見て、緻密に準備をする選手でした。和田選手は元チームメイトなのでトスを上げやすいということもあったでしょうけど、和田選手のライトからの攻撃は決定率がすごく高かったですし、それを踏まえて多用したんだと思います。
――ブラジルラウンドと、続くタイラウンドは2勝2敗で厳しい試合が続きました。
栗原 ブラジルラウンドはフルセットになったセルビア戦とドイツ戦を落として、最後のアメリカ戦もフルセットになったところでようやく勝てた。いい流れで終わったはずでしたが、タイに入ってからも第1戦のトルコ戦もフルセット勝ち。次のオランダ戦を落とすなど、確かに苦しみましたね。
トルコ戦では宮部藍梨選手をスタメンで起用したり、セッターもガラッと変えるなど、いろんなタイプの選手を使いましたね。眞鍋政義監督には、OQTやその先のパリ五輪に向けていろんな選手にチャンスを与えようという意図があったんでしょう。
ただ、代わって入る選手に少し動揺が見られる場面があったというか、ゲームの中でコンビを合わせられない間に相手に先行されてしまうことも多かった。リズムを取り戻そうとまた別の選手を投入すると、その選手と合わせようとしている間にやはり走られてしまう。苦しい時間が長かった印象がありました。
――しかしトルコ戦では、2018年12月に2度目となる左膝前十字靭帯の大ケガを負った長岡望悠選手が、スタートから出場して躍動する姿も見ることができました。
栗原 5年ぶりの国際大会出場は、感慨深いものがあったでしょうね。昨年の世界選手権から、ライトはディフェンス能力が高い林琴奈選手が起用されていました。レシーブだけでなくサーブも非常に安定していて、「日本の女子バレーは今後、こういう形で進んでいくのかな」とも思える安心感がありました。そんな中で、攻撃力が高い長岡選手がライトに入り、チームの雰囲気がガラッと変わりましたね。
――長いブランクがあったにもかかわらず、チーム3位の12得点。十分に攻撃が通じていたように感じます。
栗原 それ以降は、予選ラウンド最後のイタリア戦でもチーム2位の15得点を挙げて勝利に貢献しましたが、その他の試合には出ていなかったので、膝の状態に不安がないことを願っています。でも、久しぶりに日本代表に戻ってきて得点も重ね、インタビューでケガの期間に支えてもらった人たちへの感謝の気持ちを熱く伝える姿を見て、「いろんなものを背負って戻ってきたんだな」としみじみ感じました。そういう彼女の経験が、日本代表の力になると思います。
――栗原さんも現役時代は多くのケガを経験し、リハビリを繰り返しました。共感できる部分もありますか?
栗原 そうですね。ケガをすると、プレーができる、コートに立てるという当たり前のことが、本当にかけがえのないものなんだということを実感します。長岡選手も代表戦の舞台に立って、よりそういう気持ちが強くなったんじゃないかと思います。おそらく、コートに立たせてくれるまで支えてくれた人たちの顔が頭に浮かんだんじゃないかと。今後もコートで、たくさんの笑顔といいプレーを見せてほしいですね。
(後編:「男子に比べて女子バレー日本代表は大丈夫か」の不安を払拭できるか ポジション別に評価>>)
【プロフィール】
栗原恵(くりはら・めぐみ)
1984年7月31日生まれ、広島県出身。小学4年からバレーボールを始め、三田尻女子高校(現・誠英高校)では1年時のインターハイ・国体・春高バレー、2年時のインターハイ優勝に貢献。2001年に日本代表に初選出され、翌2002年に代表デビュー。2004年のアテネ五輪、2008年の北京五輪に出場した。2010年の世界バレーでは、32年ぶりに銅メダル獲得に貢献した。その後、ロシアリーグに挑戦したのち、岡山シーガルズ、日立リヴァーレ、JTマーヴェラスでプレー。2019年6月に現役引退を発表した。引退後はバレーの試合での解説をはじめ、タレント活動など幅広く活躍している。