「試合前、私を含めた多くの人が、『ドイツ優勢』と考えていただろう。しかし、事実は違った。『日本優勢』と捉えるべきだったのだ。昨年のカタールW杯でも、日本はドイツに2−1で勝利していたが、戦いの様相はまるで変わっていた。今回の日本は、ドイツと互角に組み合ってねじ伏せた。歴史的な試合になったと言えるかもしれない」

 スペインの目利き、ミケル・エチャリはそう言って、日本が敵地でドイツを1−4で下したゲームを激賞している。

 エチャリは、最高の名誉職のひとつであるバスク代表(FIFA未公認)の監督を10年以上にわたって務めた指導者である。バスクはミケル・アルテタ(アーセナル)、ジュレン・ロペテギ、ウナイ・エメリ(アストン・ビラ)、イマノル・アルグアシル(レアル・ソシエダ)、ハゴバ・アラサテ(オサスナ)など、世界的な名将を数多く輩出しているが、エチャリは「バスクサッカーの父」と尊敬され、そのトップランクと言える。ちなみに彼の後任のバスク代表監督は、スペイン代表監督としてW杯やEUROを戦ったハビエル・クレメンテである。

「史上最も日本サッカーの力を世界に示した試合のひとつだ」

 エチャリは賞賛を惜しまないが、彼はどう試合を分析したのか?

「日本は4−2−3−1が基本布陣だったが、トップ下に入った鎌田大地のポジション取りで柔軟に変化した。言い換えれば、鎌田が"座標"になっているということだろう。


鎌田大地を中心にした右サイドの連携はドイツを上回っていた

 守備では、鎌田がトップの上田綺世と組む形で、4−4−2になっていた。一方で攻撃では、プレーメイクのところでは下がってボールを受け、インサイドハーフのようにプレーし、そこでは全体が4−3−3のようにも映った。これは私が言い続けてきたことだが、ポジションは別にして、鎌田は組み立てのところで積極的にボールに絡んだほうが、そのよさが出る。

 鎌田はパウサ(休止、停止)を使い、プレーに緩急をつけられる特別な選手である。それによってプレーを展開、広げられる。とくにボランチの遠藤航、守田英正、そして右サイドバックの菅原由勢との関係性は良好で、連携によってドイツを上回っていた。

 チームとして特筆すべきは、カタールW杯の時のように極端に守勢に回らなかった点だろう。ビルドアップする勇敢な姿勢を見せ、ボールを持つ時間を増やし、敵陣で攻撃を仕掛けることで、試合開始から互角以上の勝負を挑んでいる。この変化は非常に大きい」

【守備の安定が攻撃を促していた】

 そう語ったエチャリは、得点の応酬について解説した。

「11分、日本は積極的な攻め上がりを見せていた菅原がクロスを送り、これに対し、真っ先に反応していた伊東純也がニアで合わせ、先制に成功している。敵陣に入り込めていたので、ゴールはひとつの必然と言える。意外なほど、呆気なく先手を取った。

 そこで私が着目したのは、攻めよりも守りのほうである。センターバックでコンビを組んだ冨安健洋、板倉滉がすばらしい連携を見せ、ボランチの遠藤、守田との関係性も含めて堅固さを保っていた。守備の安定が攻撃を促していたのは明らかで、これはサッカーの原理原則と言える。

 18分、日本はドイツの反撃を浴び、レロイ・サネの一撃で同点に追いつかれている。ただ、このゴールは相手を褒めるべきだろう。チームの連動と個人のセンスで奪った最高水準のゴールだった。

 だが21分、日本は浮き足立つことなく、すかさず逆転に成功している。再び、菅原からのクロスを伊東が触り、さらに上田綺世が反応し、ゴールに流し込む。同点にされても怯まずに攻撃に出られたのは、日本の進化の証だ。

 そして後半も、日本は攻守をコントロールし、戦いを不利にすることなく、見事に推移させていった。リードされたドイツが攻撃の強度を増したことで、谷口彰悟を投入し、5バックで守備を強化。ただし、あからさまに守りに入るのではなく、しっかりポジションを固める戦い方だった。それによって、完全に敵に主導権を渡さなかったのだ」

 エチャリは戦術運用の面で、成熟が見られる点を称賛した。

「各選手がやるべきことをわかっていて、最善の仕事ができていた。たとえば右からのプレーを担った菅原は殊勲者だろう。周りとの補完関係で、攻撃することによって、サイドでの攻防をリードさせていた。

 そして75分に入った久保建英は、1−2とリードした試合をクローズさせる仕事で、欧州で培った実力を見せている。これは決して簡単なミッションではない。優れた攻守のバランス感覚だった。

 久保は自身の拠点をカバーしながら、90分、相手ボールを抜け目なく奪い去ってカウンターを発動。ゴール前に殺到し、GKを引きつけると、駆け込んでいた浅野拓磨に合わせ、とどめ弾をアシストした。さらにアディショナルタイムにも右サイドでボールを持つと、ディフェンスと対峙しながら高精度のクロスを送り、田中碧のヘディングシュートを生み出した。極めて効率の高い攻撃だった」

 最後にエチャリは、日本代表にこんなエールを送っている。

「ドイツを打ち負かしたことで、日本の台頭は世界中に打電されている。誇るべき戦いだったと言えるだろう。ほとんどの選手に及第点を与えられる出来で、日本サッカーの発展を感じさせた。次の対戦相手であるトルコは、馬力のある選手が多いチームだけに警戒が必要だが、健闘を祈りたい」